具体性に欠ける点はあるとか思いますが、よろしくお願いいたします。
【前提】
居宅介護事業を行っている顧問先合同会社A(以下A)に県の調査
が入りました。予告なしにやってきて資料を持って行かれ、保管して
おかねければいけない資料の不備を指摘されました。
結果、980万円を支払うよう命じられている状態です。
資料の不備が仕事をしていないことに繋がって今までの介護報酬
を返すように指摘を受けているようです。
本当に仕事をしているのであれば、後からでも仕事をしていること
を利用者に証明してもらうなどの方法があるのではないかと話をし
ています。それに対しAは、県が二度足を運んでいるのに、その際
に資料を準備出来ていないので、今からでは無理と言われている
そうです。
【質問】
① 不足資料を後から準備して、仕事をしていることが証明できれば、罰金は
仕方ないとしても返還請求は回避できるのではないかと思うのですが、良
い対処法はないでしょうか。
② 980万円支払に応じたくても、資本金10万円の合同会社で、資産も100
万円ほどしかありません。この場合、代表社員が自身の財産を売却してで
も支払わないといけないでしょうか。
③ 代表社員の財産を全て売却しても支払えない場合、そのままにしておくと
どうなるのでしょうか。
④ 会社を清算するとしても、通常の清算では負債を抱えたままでは清算でき
ないと思いますが、何らかの方法で負債を抱えたまま清算をすることは可
能でしょうか。
よろしくお願いいたします。
弊社の弁護士で、介護報酬や診療報酬に
関する行政対応などを専門に扱っている
者がいるため、
必要があれば無料相談もご利用下さい。
(もちろん、以下の回答も、その弁護士と
協議した上での回答です。)
1 ご質問①
> ① 不足資料を後から準備して、仕事をしていることが証明できれば、罰金は
> 仕方ないとしても返還請求は回避できるのではないかと思うのですが、良
> い対処法はないでしょうか。
仕事をしていたか否かという点でいえば、
これを証明することにより、
返還の根拠がないという指摘は可能と考えられます。
ただし、介護事業者様の介護給付費の返還の場合、
サービス提供を行っていなかったという理由のほか、
①加算要件を満たしていないのに加算分を請求していた
②減算要件に該当しているのに減算を行っていなかった
というものもあります。
(経験上、返還の請求を受ける場合、
このようなケースが多いと思います。)
ですので、まずは何を根拠に返還請求をしているのか
を明確にする必要があると思います。
以下は、①②についてです。
①加算要件を満たしていないのに加算分を請求していた
介護保険法上、「特定事業所加算」などとして、
一定の条件を満たしている事業者に、
通常の介護保険給付の10%、20%増しで、
介護保険給付が支払われる制度があります。
この加算の要件を満たしていないのに、
満たしているとしてずっと加算分を
受けとっていた場合、
要件を満たしていないことが判明した時点で、
さかのぼって加算分の返還を
求められることがあります。
これまで受け取ってきた金額の●●%の
返還を求められるため、
金額としても多額に上ることが多いです。
ご質問の980万円という金額的なインパクトからしても、
このような話なのではないかと推測されます。
加算要件には、介護サービスの利用者情報の
伝達に関する事業者内の会議の開催や、
従業員への個別研修の実施などが
要件になっていることがあり、
これらは、会議や研修を行っていたことが
書類により証明できなければ、
行っていなかったものとみなされ、
加算要件を満たしていないと指摘されること
が多々あります。
このような場合、書類がないと要件自体の充足
を証明できないため、返還せざるを得ない場合も
あります。
②減算要件に該当しているのに減算を行っていなかった
加算と同様、一定の要件を満たしていない場合、
10%、20%など減算して請求しないと
いけないという制度もあります。
たとえば、適切な人員基準を満たしていなかったとか、
利用者の定員超過していたなどの場合があります。
このような場合も、減算要件に該当していることから、
本来、減算して請求しなければならなかった
(減算分について本来は受け取る権利がなかった)
として、さかのぼって
減算分の返還を請求される場合があります。
加算と同様、これまで受け取ってきた金額の●●%
という算定をされるため、金額的なインパクトが
非常に大きくなります。
このように、今回の返還請求の根拠が
サービスの提供自体を行っていなかった
という理由ではない可能性も
ありますので、まずは、返還請求の正確な根拠を、
県側から出してもらった方がよいと存じます。
もし、口頭では把握できないという場合、
書面による提示も求めてください。
正確な事実が把握できないと、
それに対する適切な対応も難しいことから、
これは必須と考えます。
その上で、個別でご相談いただくことをお勧めします。
2 ご質問②
> ② 980万円支払に応じたくても、資本金10万円の合同会社で、資産も100
> 万円ほどしかありません。この場合、代表社員が自身の財産を売却してで
> も支払わないといけないでしょうか。
介護給付費の返還は、会社の債務であることから、
基本的には、会社が支払うべきもので、
代表者個人に支払義務はありません。
したがって、代表者自身の財産を売却してまで
支払う義務はありません。
なお、一般論ではありますが、会社から代表者に対し
不当な財産の移転がなされていたなどの場合には、
詐害行為取消などで、代表者が会社から受け取った
金銭についても、
請求が及ぶ可能性はゼロではないとは思います。
(事情にもよりますが、可能性は高くはないと思います)
3 ご質問③
> ③ 代表社員の財産を全て売却しても支払えない場合、そのままにしておくと
> どうなるのでしょうか。
そのままにしておくと、
「会社」の財産への強制執行の可能性があります。
会社の預金の差し押さえ、その他財産への差し押さえなどです。
通常は、行政側が訴訟を行い、勝訴判決を得て、
それに基づき強制執行という流れです。
ただ、介護給付費を「偽りその他不正の行為により」受領していた
(介護保険法22条3項)といえるような場合、
通常の流れではなく、公法上の強制執行可能な債権として、
地方税のように、裁判を行わず、いきなり
強制執行可能ということもあり得ます。
(このようなケースは多くはないですが。)
なお、代表者の財産にまで及ぶかという点では、
及ばないのが原則ですが、
及ぶ場合が全くないということはない
というのは、上記ご質問②のとおりです。
また、これは、個別の事案によるところですが、
別途、居宅介護事業者の指定(許可)取消、
効力の停止処分などの事由があれば、
こういった処分がなされる可能性もなくはない、
というところです。
これは、介護給付費の返還とは別次元の話になります。
4 ご質問④
> ④ 会社を清算するとしても、通常の清算では負債を抱えたままでは清算でき
> ないと思いますが、何らかの方法で負債を抱えたまま清算をすることは可
> 能でしょうか。
負債がある状態だと、
通常の清算はできません。
今回は、特別清算手続きは困難でしょうから、
考えられる手続としては、破産手続きになります。
破産は、債務超過(もう返せないぐらいの債務がある)の場合に、
会社を清算するための手続です。
なお、破産手続きを行う中で、
ご質問②のように
会社から代表者に対し
不当な財産の移転がなされていたというような
事情が発覚すれば、破産管財人の対応によっては、
代表者が財産の返還を求められるという可能性も
なくはないかと思います。
よろしくお願い申し上げます。
が、不当というのは、支払義務を回避するために社長に財産を移転させるとい
う意味で捉えてよろしいでしょうか。
また、介護報酬の返還請求が決定するまでは社長の給与の支払いをしても
大丈夫でしょうか。上記の「不当な財産の移転」に当たるのではないかと危惧
しております。
よろしくお願いいたします。
>が、不当というのは、支払義務を回避するために社長に財産を移転させるとい
>う意味で捉えてよろしいでしょうか。
はい。そのような意味で捉えていただければ
と思います。
>また、介護報酬の返還請求が決定するまでは社長の給与の支払いをしても
>大丈夫でしょうか。上記の「不当な財産の移転」に当たるのではないかと危惧
>しております。
こちらに関しては、個別事案(指摘事項が何かを含む)による
個々の事実認定になりますが、
あくまでも給与(役務提供の対価)として支払うもの
ですので、このように認定される可能性は高くない
かと思います。
また、そのように解されても、支払った範囲内で
返還を求められるということになりますので、
現状で、支払いを止める意味はあまりありません。
よろしくお願い申し上げます。