ご教示の程お願い致します。
○時系列
1.H29/9/24 相続発生
相続人は、妻・長男・長女・次男
2.借地権契約
土地賃貸借契約公正証書の写しあり
建物敷地に使用する目的で賃貸人である被相続人から賃借人Mへ賃借、
賃貸借期間はH9/12/17からH29/12/16まで
H29/12/初旬に、賃借人Mより、相続人である妻へ、更新契約をしたい旨の申し
出がありました。妻は、遺産分割協議中につき、更新手続きを保留とさせて下
さい、と賃借人Mへ伝えました。
3.遺産分割協議成立
全相続人間でH30/5/12に長男が上記賃借契約の賃貸人の地位を相続すること
となりました。
○質問です。
1.更新料の額
20年前となる前回更新時の資料が残っていません。
・更新料の決定方法の基準はありますか。
2.更新料の帰属と賃貸借契約書の記載方法
H29/12/31までの地代収入は法定相続分により所得税の準確定申告を済ませまし
た。更新料に関する申告はしていません。
・更新料の帰属
相続人である妻が更新料の一部を要求しています。
相続発生日から遺産分割協議確定日までは、法定相続による権利があると考え、
法定相続分の権利を要求できるものでしょうか。または、相続人間の話し合いで
更新料の帰属を決定することはできますか。
・賃貸借契約書の記載方法
長男を賃借人として、賃貸借期間をH29/12/17から20年間として契約を結んで問
題ないでしょうか?、また公正証書によることが安全でしょうか?
それとも、賃貸人を共同相続人名義で作成し、遺産分割協議確定日において賃貸
人が長男となる旨を記載するものでしょうか。煩雑な手続きとなりそうですが。
備考
・相続財産である収益物件としては底地のほかアパート・駐車場があります。分
割協議において各相続人がそれぞれ個別相続することに決定しました。この分割
協議の日に、損益計算、申告業務の簡便性から、家賃は1/1に遡り各取得者所得
として帰属・税務申告することで、承認して頂きました。民法上、法定果実は遺
産分割協議前は法定相続分、遺産分割協議確定後からは取得者分となる旨は説明
致しました。上記の更新料の帰属については、相続人間で協議下さいと伝えまし
た。長女は「よくわからない」、長男は「面倒である」との反応がありました。
>1.更新料の額
>20年前となる前回更新時の資料が残っていません。
>・更新料の決定方法の基準はありますか。
(1)更新料の支払義務
そもそも、更新料について、
法律上、支払義務を認めている
条項はなく、あくまで当事者間の
合意により、支払義務が生じるものです。
したがって、契約書などで、更新料を
支払う旨の合意がなければ、
そもそも請求することができません。
ただ、契約書に支払いの条項がなくても、
実際には、お互いで更新料を決めて支払っている
というケースは多いと思います。
この場合も、あくまで、
そのときに、当事者間で合意して決めている
ということです。
(建物賃貸借のように、「新賃料の●ヶ月分」など
明確な金額の記載がある場合は別です。)
本件では、まずは、更新料の支払いの条項が
契約書に記載してあるかどうかをご確認いただいた
方がよいと思います。
記載がない場合、借地人の意向によっては、
支払い自体を拒絶されるということもあり得ます。
(2)更新料の決定方法について
仮に更新料の記載がある場合
(実務上は、計算方法の記載等はなく、
「更新料を支払う」とのみ記載されている
例が多いです。)
の決定方法ですが、
上記のとおり、
更新料の支払義務自体が
法律上のものではないので、
その金額の決定方法についても、
特に法律上決まりがあるわけでは
ありません。
あくまで、裁判で判決を得ない限り、
当事者間の合意により定めることになります。
実際に決める際には、
前回更新の際の更新料の金額や、
「相場」を参考に決める例が多いと思います。
この「相場」は、地域や、
その土地の使用用途などにより
異なるものですし、
民事上は、特に明確な基準はないですが、
更地価格の数パーセント程度で合意される例が多い
かと存じます。
更新料につきお互いの希望額で折り合わない
ということであれば、この辺りは、
不動産鑑定士さんの専門領域かと思いますので、
鑑定も検討されてもよいかと思います。
(費用対効果との兼ね合いはありますが)
2 ご質問②
(1)更新料の帰属
>・更新料の帰属
>相続人である妻が更新料の一部を要求しています。
>相続発生日から遺産分割協議確定日までは、法定相続による権利があると考え、
>法定相続分の権利を要求できるものでしょうか。
ご承知のとおり、
遺産に不動産が含まれていたケースで、
相続発生日から遺産分割協議確定日までに
生じた賃料の帰属については、
各相続人が、法定相続分の割合に応じて取得する
という判例があります(最高裁平成17年9月8日)。
一方、今回のようなケースで更新料発生時期と遺産分割
の関係については、裁判例はなく、また固まった
実務の運用もありません(基本的には合意で決めてしまうため)。
下記は、遺産分割との関係ではないですが、
その他の裁判例から
推認するこうなるであろうという点も
踏まえて解説します。
ア 契約書に「更新料を支払う」記載がない場合
この場合は、上記の通り、合意がない限り、
更新料なるものの請求はできませんので、
その後、合意で払うことになったケースでは、
合意時点で長男に帰属することになるでしょう。
イ 契約書に「更新料を支払う」記載がある場合
この場合ですが、
前賃貸借契約終了時点(法定更新時点)
で発生しているのか、
それとも、改めて金額を合意した時点(合意更新時点)
で発生するのかについては、
裁判例が真っ二つに分かれているところです。
現実的には、経緯、契約書の記載方法などを
考慮しつつ、裁判所がバランス論で決めている
というようなものです。
なので、裁判となれば、
裁判官の性格などによっても変わってくる
ところで、現状どちらが正しいということが、
何とも申し上げられない部分です(なので、実務では
下記の合意で解決します。)
(2)更新料の分配について
>または、相続人間の話し合いで
>更新料の帰属を決定することはできますか。
上記の通りですので、
もちろん、更新料を
誰がどれだけ受け取るかについて、
相続人間の話し合いで決定することは
できますし、
今回は、両者の主張が対立している
という状況ではないようなので、
上記のとおり更新料の帰属について疑義
のある状態を、合意により解消しておく
方がむしろ望ましいでしょう。
協議の際の指針として、
更新料は賃料の前払いの
(賃料の補充的)要素も含んでいることから、
更新料を期間に応じて分配するというのも
1つの考え方かと思います。
つまり、妻が受け取る金額は、以下になります。
【受領する更新料額×(相続発生日から遺産分割協議確定日の期間/合意更新した契約期間)×母親の法定相続分】
この金額が絶対というわけではないですし、
最終的には当事者が納得すればよいですが、
ある程度合理的な算出方法ではないかと思いますので、
このラインをベースに当事者間で協議を行うもの
1つの案かと存じます。
3 ご質問③
>・賃貸借契約書の記載方法
>長男を賃借人として、賃貸借期間をH29/12/17から20年間として契約を結んで問
>題ないでしょうか?、また公正証書によることが安全でしょうか?
>それとも、賃貸人を共同相続人名義で作成し、遺産分割協議確定日において賃貸
>人が長男となる旨を記載するものでしょうか。煩雑な手続きとなりそうですが。
(1)誰が契約を締結するか。
遺産分割協議の効力は、
相続発生日までさかのぼることされています。
(民法909条本文)
ですので、遺産分割協議が成立した時点で、
相続開始日(H29/9/24)から、長男のみが
賃貸人であったことになります。
(この遺産分割の「遡及効」は、完全なものではなく、
ある場面では、その効力はさかのぼらせない
という解釈されていたり、法理論として非常に複雑なのですが、
今回は関係ありませんので、割愛します。)
したがって、
>長男を賃借人として、賃貸借期間をH29/12/17から20年間として契約を結んで問
>題ないでしょうか?
この方法で問題ないと考えます。
相続人全員の名義で締結する必要はありません。
(2)公正証書による作成について
>また公正証書によることが安全でしょうか?
公正証書にしておく意義として
大きいのは、賃料の支払いが滞った場合に、
判決を得なくても(裁判をしなくても)、
いわゆる強制執行認諾約款
例:
「本件契約に規定する金銭債務を履行しない場合、
賃借人は直ちに強制執行を受けても異義のない事を承諾する」
を付すことで、
強制執行(預金差し押さえなど)ができる点にあります。
この点のメリットがある点で、公正証書による
方が、安全といえるでしょう。
ただし、
このメリットが特に不要ということであれば、
特に公正証書にしていただく必要はありません。
なお、賃貸借契約を公正証書で締結するというケース
は、実際にはそれほど多くはないという
現状があります。
よろしくお願い申しげます。