不動産 民法

同順位の根抵当が設定されている場合の配当について

同順位の根抵当が設定されている不動産を含む不動産3筆(隣接している土地)を一
括任意売却する際の配当金額についてご教示ください。

〈前提条件〉
・X社は、A銀行とB銀行の2行の金融機関から借り入れをしています。
・その2行はX社の上記不動産に根抵当権を設定しています。
・上記不動産を、それぞれ甲不動産、乙不動産、丙不動産、とします。
・任意売却後に配当できる金額は、諸経費等を差し引き、90,000千円となっておりま
す。

〈根抵当権の内容〉
1.A銀行の根抵当権
・A銀行のX社に対する債権額は96,000千円
・甲不動産の根抵当権:極度額は350,000千円、第一順位(B銀行と同順位)
・乙不動産の根抵当権:極度額は50,000千円、第一順位(後順位なし)

2.B銀行の根抵当権
・B銀行のX社に対する債権額は290,000千円、
・甲不動産の根抵当権:極度額は270,000千円、第一順位(A銀行と同順位)
・丙不動産の根抵当権:極度額は60,000千円、第一順位(後順位なし)

〈質問〉
このような場合、配当できる金額をどのように按分してA銀行及びB銀行に支払うの
が適切なのでしょうか。

通常、根抵当権が実行された場合にどのように配当されるのかを教えていただけたら
と思います。

現在のところ、同順位の根抵当権が設定されている甲不動産部分について、A銀行は
極度額の比で配当を按分すべきと主張しており、B銀行は債権額の比で配当を按分す
べきと主張しており、折り合いが見出せません。

よろしくお願いいたします。

1 ご質問

>〈質問〉
>このような場合、配当できる金額をどのように按分してA銀行及びB銀行に支払うのが適切なのでしょうか。
>通常、根抵当権が実行された場合にどのように配当されるのかを教えていただけたらと思います。
>現在のところ、同順位の根抵当権が設定されている甲不動産部分について、A銀行は
>極度額の比で配当を按分すべきと主張しており、B銀行は債権額の比で配当を按分す
>べきと主張しており、折り合いが見出せません。

2 回答
(1)任意売却における配当割合の考え方

任意売却での配当については、
当事者の合意により行うため、明確なルールはありません。
合意により、任意の割合で配当してもらえれば結構です。

もっとも、今回のように当事者間で折り合いがつかない場合には、
ご指摘のとおり、強制競売に至った場合のルールを基準にして
協議していくというのは合理的です。

これを前提として、以下では、
ご質問いただいた事案で強制競売がなされた場合の
ルールについてご説明します。

(2)強制競売での甲不動産の配当割合

強制競売での配当割合について、
今回の甲不動産のように、同順位の根抵当権者がいる場合には、
・極度額
・被担保債権額
のいずれか少ない方を基準に、
同順位者間で按分することになります。
(東京地裁平成12年9月14日判決)

今回の甲不動産については、

(A銀行)
極度額:3億5,000万円
被担保債権額:9,600万円
→被担保債権額:【9,600万円】が基準

(B銀行)
極度額:2億7,000万円
被担保債権額:2億9,000万円
→極度額:【2億7,000万円】が基準

よって、甲不動産では以下の配分割合になります。
(A銀行) (B銀行)
9,600万円:2億7,000万円
=26%:74%(端数は四捨五入)

ですので、
>現在のところ、同順位の根抵当権が設定されている甲不動産部分について、A銀行は
>極度額の比で配当を按分すべきと主張しており、B銀行は債権額の比で配当を按分す
>べきと主張

というA銀行、B銀行の主張は、
いずれも正しくないということになります。
(配分割合としては、B銀行の主張が近いですが)

(3)他の不動産がある場合の配当の順序

今回は、甲不動産の他に、
乙・丙不動産もあるので、
こちらの売却代金を、甲不動産よりも先に配当した場合には、
上記(2)のうちの、A・B銀行の被担保債権額が減少し、
按分割合が変わり、異なる結論になることも考えられます。

この点について、
今回とは異なる共同根抵当の事案ではありますが、

複数の不動産を同時に配当する場合に、
1個の不動産上に同順位の抵当権が存在するときは、
まず同順位の抵当権がついている不動産を先に按分すべき、
という判例があります(最高裁平成14年10月22日判決)。

他の不動産に抵当権をつけているかどうかにより、
同順位抵当の不動産の配分割合が変わるというのはおかしいので、
今回も、上記判例の考え方に則るのが合理的と考えます。

したがって、結論としては、

甲不動産の配当

乙・丙不動産の配当

の順番でよく、甲不動産については、
上記(2)の按分割合で配当を
行えばよいと存じます。

(4)実際の金額算定

ア 一括任意売却の場合の配当原資の配分

今回のような、一括任意売却の場合、
甲・乙・丙不動産をまとめていくら、という売買になり、
個々の不動産の売却代金額はつかないと思われます。

その場合に、3つの売買代金総額のうち、
どの割合で、甲・乙・丙の配当原資とするかという点で、
当事者間の協議が整わない可能性があります。
(任意売却なので、当事者間の合意で定まれば、
それでよいのですが)

仮にこのような状況になった場合には、
強制競売のうちの一括競売の取扱いにならって
決めるというのが合理的かと思います。

一括競売の場合、
個々の不動産の【売却基準価額】というものを基準にして、
売買代金総額を、個々の不動産の配当原資として割りつけます。

仮に、
(売買代金総額)9,000万円
(売却基準価格)
甲不動産:6,000万円
乙不動産:1,000万円
丙不動産:1,000万円

と仮定すると、
甲:乙:丙=6:1:1
の割合で、売買代金総額9,000万円を割り付けることになります。

よって、以下が配当原資になります。
甲不動産の配当原資:9,000万円×6/8=6,750万円
乙不動産の配当原資:9,000万円×1/8=1,125万円
丙不動産の配当原資:9,000万円×1/8=1,125万円

強制競売における【売却基準価額】は、
裁判所が評価人の評価に従って定めるもので(民事執行法60条1項)、
入札を前提とした適正価格(相場)よりも低いものです。

任意売却においては、物件の取引相場のうちの
最低価格程度と考えていただければ
大きくズレはないかと思います。

ですので、もし当事者間において、
各物件の割り付け金額の折り合いがつかないようであれば、
個々の物件の取引相場の最低価格程度を
基準に割り付けるということで、
協議されてもよいかもしれません。

イ 実際の計算例

上記のとおり、
甲不動産の配当原資:6,750万円
乙不動産の配当原資:1,125万円
丙不動産の配当原資:1,125万円

を前提として、A・B銀行の配当を考えると、

(甲不動産についてのA・Bの取り分)
A銀行:6,750万円×按分割合26%=1,755万円
B銀行:6,750万円×按分割合74%=4,995万円

(乙不動産についてのAの取り分)
1,125万円

(丙不動産についてのBの取り分)
1,125万円

合計すると、
A銀行:1,755万円+1,125万円=2,880万円
B銀行:4,995万円+1,125万円=6,120万円
の配当を得ることができます。

よろしくお願い申し上げます。