税理士法 税理士賠償責任

税理士の助言義務と懲戒処分

税理士法上の税理士の助言義務について、
教えて下さい。

税理士は、仮想隠ぺいしている事実があることを
知ったときは、直ちに、その是正を助言しなければ
ならない。(同法41条3項)

とあり、

背いた場合の懲戒処分が、規定されて
います。(同法45条)

(質問)

一般的にあまり複雑でない脱税を想定してですが、
(複雑なケースは見抜けませんし、相談も受けていないので、
そもそも税理士処分の対象とはならないでしょうし)

顧問先の決算税務申告作業中、仮想取引が
疑われた(金額的重要性あり)が、証憑の
形式的チエックのみで税務申告、
後日、税務調査で脱税が発覚した。

この様な場合

・税理士は助言義務違反に問われますか?

・脱税相談を受けたわけではないので、
懲戒処分はあり得ませんか?

・例えば、会社に対して「取引の事実確認が
出来なかった旨」の意見書等を提出して
おくことは意味がありますか?

・仮に何らかの税理士法上の処分を受けた場合、
税理士は顧問先に損害賠償請求の余地は
ありますか?

・確証はできないが、脱税の臭いがプンプンした場合、
税理士法上の責任回避策・対応方法について、
アドバイスお願いします。

よろしくお願いします。

一般論として、
税理士法上の懲戒処分の根拠として、
脱税相談等の特別懲戒(法45条)と
その他の税理士法違反の一般懲戒(法46条)
があり、

統計の分析と実務の感覚では、懲戒処分の
50%が「特別懲戒事由」と「名義貸し」に
よりなされています。

おそらくいただいた

>顧問先の決算税務申告作業中、仮想取引が
>疑われた(金額的重要性あり)が、証憑の
>形式的チエックのみで税務申告、
>後日、税務調査で脱税が発覚した。

でも、懲戒されるか否かの中心に据えられる
条文は、助言義務違反というよりは、

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(脱税相談等をした場合の懲戒)
第45条 財務大臣は、税理士が、故意に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき、又は第三十六条の規定に違反する行為をしたときは、二年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができる。
2 財務大臣は、税理士が、相当の注意を怠り【永吉注:過失】、前項に規定する行為をしたときは、戒告又は一年以内の税理士業務の停止の処分をすることができる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

こちらの特別懲戒の故意(第1項)または過失(第2項)
による「真正な事実に反して・・・税務書類を作成」した
ことという要件でなされるかと思われますので
こちらの条文からいただいた各質問に回答します。

1 ご質問①
>脱税相談を受けたわけではないので、
>懲戒処分はあり得ませんか?

この場合でも、特別懲戒の要件としては、

>証憑の
>形式的チエックのみで税務申告、
>後日、税務調査で脱税が発覚した。

真正の事実に反する申告書を作成
している以上、

「故意」または「過失」があれば、一応懲戒処分が
できる要件はあるということになります。

>例えば、会社に対して「取引の事実確認が
>出来なかった旨」の意見書等を提出して
>おくことは意味がありますか?

ですので、

税理士法の対策としてはむしろ、
顧問先様に、疑いがある旨指摘をしたところ、
顧問先さまから「該当取引がある」という旨の
書面をもらった方が効果的です。

つまり、疑いがあったのできっちり確認
したんだけれど、顧問先があると回答している
以上、確証がない場合、税理士の先生の立場
からすれば、やむをえないという証拠の方が
過失等の認定上、有利になるということです。

ただし、これがあるからといって、明白な行為の
場合には、「過失がない」と確実に言えるわけではありません。
(下記の「3」の部分も合わせてご覧ください。)

なお、その場合でも、税賠対策としては、
もし、そのような場合には加算税等のリスクが
あるということは伝えておいた方が良いでしょう。
(伝え方として、疑いがある旨指摘をする際に加算税等の
リスクがあるので、気になりました・・・という
場面で、うまく説明しておけば良いかと思います。)

2 ご質問②
>・仮に何らかの税理士法上の処分を受けた場合、
>税理士は顧問先に損害賠償請求の余地は
>ありますか?

税理士法上の処分を受けたから損害賠償を
負うという関係ではありません。

なぜならば、税理士法上の義務はあくまでも
税理士という資格・地位に基づいて発生
しているものだからです。

なお、加算税等の説明をすべきであったか否かという
説明義務及び過失相殺の問題は別途民事の問題
としては残ります。
https://zeirishi-law.com/zei-bai/kashitsu-sonekisosai#11

3 ご質問③
>確証はできないが、脱税の臭いがプンプンした場合、
>税理士法上の責任回避策・対応方法について、
>アドバイスお願いします。

懲戒処分は、
上記の条文も「できる」となっている通り、
行政の裁量行為(法的には「効果裁量」と言われます。
「処分をする・しない」、「どのくらいの処分をするか」等を
行政の判断で決めるもの)
です。

要件がそろっているからといって、必ずなされる
ものではありませんし、裁量行為といっても、全くの
自由ではなく、

違法行為の程度に応じた処分をする(比例原則)等の
一般的な統制基準も一応適用されます。

また、税理士法上は「戒告」
(将来を戒める旨の申渡しをする処分(官報で公開される))
という最も軽い処分がありますが、
過去の統計を見る限り、現実にはなされていないこともあり、

かなり悪質性の高い行為や社会的影響等(他の税理士への影響含む)
があるケースに懲戒処分(業務停止または業務禁止)がされる印象です。
(もちろん、公開情報によるとそんなに積極的に
悪くないように見えるケースも証拠上認定までは
できないけれど悪質性があった事案かと思われます。)

ですので、上記の「1」の対策をしていれば、
そこまで大きな問題になるケースは実務上多くないと
思います。

ただし、究極的には、裁量行為というところ
もあります(されるときはされる)し、

今後の信頼関係の構築が難しいとも思いますので、

ビジネス的な判断もあるかと思いますが、

改善が見られなければ、契約の解約というのも
考えていかなくてはならないかと思います。

なお、一般的には、懲戒処分は
下記のURLの通り、

① 不正行為の性質、態様、効果等
② 税理士の不正行為の前後の態度
③ 懲戒処分等の前歴
④ 選択する懲戒処分等が他の税理士及び社会に与える影響
⑤ その他個別事情

を考慮するとされています。

以下、ご参考になさってください。

税理士・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方(平成27 年4月1日以後にした不正行為
に係る懲戒処分等に適用)

https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/chokai/shobun/index.htm#name01

よろしくお願い申し上げます。