不動産 民法 借地借家法

大家都合による立退要請があった場合の立退料の考え方について

標題の件について、ご指導いただけますか。

【前提】

サービス業を営む個人事業者が、同じビルの中に3部屋賃貸をしている。
3部屋については、分譲マンション形式のため、
それぞれ大きさと大家さんが異なっている。(大家さんが3人になっている)

賃貸契約は8年くらい継続し、かつ、家賃遅延などは1度もない。
値上げ交渉などでもめた事例もない。

また、現在の賃貸契約の前には、同じビルの別部屋で賃貸契約をしていた。
このビルの場所とビジネス上のメリット(駅から近いなど)があり、
同じビルの賃貸契約でいえば、合計で15年ほどが経過している。

よって、このビルにいることにより、同じ電話番号や同じ住所を継続している。

3人いる大家さんのうち、有限会社形式の大家さんについて、
代表者が死亡したことにより、実態として有限会社の解散を検討するようで
その後、立退きをしてほしいと不動産屋さんに連絡があった。

その後、有限会社の代表者家族が居住用として使用したいという趣旨である。
(事務所兼居住用のマンション形式のビルになっている)

【ご指導いただきたいこと】

いわゆる、店子の責任はなく、大家さんの完全な都合により、
立退きを要請された場合に、店子がビジネス上の利点があることから
住所ビル、電話番号を変更したくない意向が大変強い状況である。

この場合の交渉の論点としては、立退料を売上喪失利益としてどの程度請求すべきでしょうか。

かつ、内部造作もあり、3人大家さん構成なので、立ち退きを要求していない
その他2名の大家さんの契約も解約することになるが、
この場合の実費相当は当然のことながら、その他、合理的に請求すべき
金額の積算方法はどのように考えればよいでしょうか。

店子は、供託して、賃貸契約の継続を争う考え方でいるようです。

店子が立退きを要求してきた大家さんに対して、
合理的に、かつ、相当な程度に立退料を請求する場合の
考え方について、ご指導ください。

よろしくお願いします。

>この場合の交渉の論点としては、立退料を売上喪失利益としてどの程度請求すべき
>でしょうか。

立退料の算定について、
定まった基準があるわけではなく、
その算定の方法も様々です。

ご指摘の「売上喪失利益」を基準に考えるのは、
移転にかかる実費や損失を積算していく方法です。

その考え方も様々ですが、裁判例の1つに
以下のような項目を算定して
営業を休止することによる損失への補償として
いるものがあります(東京地裁平成25年1月25日)。
・営業利益の喪失
・得意先喪失にかかる金銭的な喪失
・従業員に支払う給与額の補償
・その他固定経費分の補償

この裁判例では、それぞれの休止期間を
6か月間として算定しています。
このあたりが目安になるかもしれません。
ただ、この期間が絶対のものでもありませんので、
これにこだわる必要はないかと思います。

また、「売上喪失利益」について、
売り上げ減少分として、ざっくりと
営業利益額の一定期間分を主張するという
のもありだと思います。

その期間ですが、特に定まったものがあるわけでもなく、
個別事情にもよるところですが、
厚生労働省が出している「公共用地の取得に伴う
損失補償基準細則」が参考になるかと思います。
http://www.mlit.go.jp/common/001206683.pdf

このうち「基準第45条(営業規模縮小の補償)」によれば、
「縮小部分に相当する従前の収益又は所得と相当額の2年分以内で適当と認める額」
とされていますので、
最大で2年程度と考えていただければよいのではないかと思います。
こちらから主張するとすれば、まずは、
多めの金額(長めの期間)を出せばよいと思います。

>かつ、内部造作もあり、3人大家さん構成なので、立ち退きを要求していない
>その他2名の大家さんの契約も解約することになるが、
>この場合の実費相当は当然のことながら、その他、合理的に請求すべき
>金額の積算方法はどのように考えればよいでしょうか。

1部屋の立ち退きを行うことが、
残りの2部屋の立ち退きも当然に伴うものなのか
どうかにより、結論は変わってくるように思いますが、
こちらとしては、必然であるという前提のもと、
残りの部分についても、
同様に売上喪失利益などの算定をしていけばよいと思います。

あくまで、こちらの主張ですので、
請求できるものはしていくというスタンスでよいのではないでしょうか。

>店子が立退きを要求してきた大家さんに対して、
>合理的に、かつ、相当な程度に立退料を請求する場合の
>考え方について、ご指導ください。

移転にかかる実費や損失を積算していく方法では、
移転にかかる実費、営業補償以外の項目として、
・従前の賃料と移転先の賃料の差額(移転先賃料の方が高い場合)
の補償もあります。
期間としては、2年以上とされることが多いかと思います。

また、算定方法として、上記とは全く違う考え方を
するものとしては、
立ち退きを余儀なくされることにより、
「借家権」を喪失するという発想のもと、
その金額を算定して、それに対する補償をするという
方向性の考え方もあり、
これに則った裁判例も多数あります。

この「借家権」の金額算定は、
不動産鑑定士さんの分野かと思います。

また、実際に立退料の認定をしている裁判例をみると、
実費・営業補償などの観点と、「借家権」の観点とを
併用しているものも存在します。
さらには、賃借人の申出額が影響しているものも多いですし、
実際認められる立退料は、賃料額との相関関係もあるように思います。

このように実際に裁判になった場合には、
認められる立退料は主張の仕方で
大きな幅が出ると思います。

上記のような観点から、とりあえずは、
自身に有利となるように論理構成をした上で、
主張をしていけばよいと思います。
大きな方向性でいえば、
・実費・営業補償
・「借家権」の算定
の2種類、またはその併用
のいずれでいくのかというところが大きいです。

その中では、先生ご指摘の実費・損失を積算する方法が
最もわかりやすいかと思います。

ただ、立退料の金額が大きくなるようであれば、
コストをかけても元が取れる可能性が高いので、
「借家権」の金額算定も含めて、
立退料の鑑定をしてもらうことも
考慮されてもよいかもしれません。

よろしくお願い申し上げます。