相続 遺言 贈与 遺留分

相続時精算課税贈与と遺言の調整

表題の件につきまして、教えてください。

なお、相続税は基本的に受けないことにしておりまして、
知識は約25年前の受験生時代レベルです。
間抜けな質問になるかもしれませんが、何卒ご容赦ください。

(前提)
・母(90才、父は既に他界)
・法定相続人は次の4名
 関与先A
 B(Aの実弟)
 X(Aの母違いの兄)母とは養子縁組済み
 Y(Aの父違いの姉)
・Yには母からの借入金(ごく簡単な手書き借用書はYの夫Z名義)
 借用書のない借入がある可能性も(当然YZは認めないと思われる)
・Xは母からの借入金なし
・母の財産
 1 居宅及びその敷地(H29年中にBに贈与)評価額500万円
 2 別荘及びその敷地(H29年中にAに贈与)評価額400万円
 3 預金3,500万円
 4 Zへの貸付金(最も少なくて380万円)
・基礎控除5,400万円で収まる見込みのため、上記1、2の贈与は
 相続時精算課税制度で申告予定
・預金も母が健在のうちにABに贈与して、母の財産を処分したい
・XYとは遺産分割でもめるはずなので、遺言書作成を検討中

(質問)
・遺言書に記載する財産とその分け方について、どうすればよいのでしょうか?
・生前贈与で母の財産がなくなっても、遺言書は必要なのでしょうか?
・今回のケースで考えられる問題点とその対処方法をお願いします。

ご多用のところ大変恐縮ですが、
どうぞよろしくお願い申し上げます。

・ご質問①
>遺言書に記載する財産とその分け方について、どうすればよいのでしょうか?

既に贈与された財産は、被相続人(母)の財産ではないため、
遺言の対象財産になりませんので、基本的には遺言書に記載しません。

本件で、下記の通り遺言書を作る場合には、
贈与財産が相続財産ではないことの確認を
付言事項(一番最後に被相続人の思いを書く箇所)に
注意的に入れておいても良いかと思います。

・ご質問②
>・生前贈与で母の財産がなくなっても、遺言書は必要なのでしょうか?

上記の通りですので、基本的には遺言書は必要ないのですが、
今回のケースですと、下記の問題がありますので、遺言書を
作成した方が良いケースかと思います。

・ご質問③
>・今回のケースで考えられる問題点とその対処方法をお願いします。
以下、A・Bの立場から回答します。

まずは、前提として、各贈与には、
明確な証拠を残してください(契約書など)。

以下はそれを前提での回答になります。

1 持戻し免除の意思表示

まずは、一般的な注意事項になります。

今回のケースでは、
>1 居宅及びその敷地(H29年中にBに贈与)評価額500万円
>2 別荘及びその敷地(H29年中にAに贈与)評価額400万円
>預金も母が健在のうちにABに贈与して、母の財産を処分したい

ということですが、今回の生前贈与は、
民法上「特別受益」(民法903条)に該当する
可能性が非常に高いと思われます。

今回のケースでは、他に財産がないということ
であれば、特別受益の持戻しは、あまり意味がない
(残った相続財産の分配をA・Bは受けられなくなる
ということになるという意味なので。)
ですが、実は他の財産があった場合などに
備えて

これらの贈与について
母が「持戻し免除の意思表示」をしていたという
証拠書類を整備することが一般的です。

生前贈与については、特別方式に制限があるわけ
ではありませんので、

上記の贈与の対象財産は、
「特別受益としての持戻しをしないこととする」

という内容を、預金の贈与契約書に中に記載すれば
良いでしょう(H29年の「1」と「2」の財産の贈与についても
同様とするという内容も入れておいてください。)。

2 X・Yの遺留分減殺請求について

こちらから特に今回のケースでご検討
いただきたい事項になります。

原則として、特別受益の対象となる
財産は、遺留分算定の基礎となる財産に含まれ、
減殺請求の対象となります(最高裁平成10年3月24日)

なお、持戻しの免除の意思表示をしたとしても、
遺留分減殺請求との関係では、
効果がありませんので(民法903条3項)、

そうすると、今回のケースでは、
生前贈与の財産も含めて、
その1/8の財産について、
X・Yは請求できるということになってしまいます。

3 遺言書を作成して紛争を未然に防ぐ方法

(1)Yに対する対策

>・Yには母からの借入金(ごく簡単な手書き借用書はYの夫Z名義)
>借用書のない借入がある可能性も(当然YZは認めないと思われる)
>4 Zへの貸付金(最も少なくて380万円)

ということですが、借入をしたのがYなのかZなのか
というところはありますが、名義がZである以上、
今回は、Zが借用書の名義人ということで、Zという
前提で考えて良い事案かと思います。

そして、相続財産には、この母からZへの貸金債権も
含まれてきますが、

A・Bが回収を測れば上記の遺留分を含めて
必ず揉めてしまいますし、Zへの請求という
ことで、もう1つ争いの種が増えます。

上記の通り、Yには、いずれにしても、
上記の遺留分減殺請求権が生じますので、
この貸付金債権は、遺言でそもそもYに
「相続させて」しまうという方が良いかと
思います。

貸付金の金額は、一定程度の根拠資料が
あるものから、
Yの遺留分に近づけば近づくほど良いかと
思います(仮に遺留分に届かなくとも、差額が少なければ、
時間的なコストや弁護士等に依頼するコストを勘案
して遺留分減殺請求をしてくる可能性が低くなります。)。

(2)Xに対する対策

ここは、意思決定が難しいところです。

遺留分減殺請求は、上記の通り、認められる
でしょうから、Yと同様に
事前に遺言で、一定の財産を渡しておくという
ことをすると紛争が避けられる可能性は高くなります。

ただし、Yとは異なり、Xの関係者が母から債務を
負っているわけではないため、遺留分減殺請求を
されれば、金銭を払うことになりますが、

これは遺言でも他のちょうど良い財産がなければ、
金銭(預金の一部等)を与えることになります。

そうすると、そもそもXが減殺請求を
してこなければ、A・Bは、金銭を支払う必要
がなかったということも想定できますので、

最終的にはA・B・X・Yの関係性から、
依頼者様の意思決定かと思います。

(3)意思能力について

現状で、母が90歳ということで、事案にも
よりますが、

X・Yは、
そもそもの生前贈与時には、母に意思能力が
なく、贈与がそもそも無効であるという
主張をしてくる可能性があります(遺言同様、
贈与時にも意思能力が必要です。)。

この主張をできる限り防ぐために、
できるのであれば、公正証書による
遺言を残しておくことをお勧めします
(もちろん、100%でありませんが、
公正証書遺言は、公証人が作成するため
意思能力があったと判断される可能性
が高くなります。)

上記のY(もしくはXにも)に一定の
財産を相続させるならばその遺言を
公正証書遺言にすると良いでしょう。

そして、遺言時にも意思能力があるのであれば、
それ以前の贈与も意思能力があったと
判断される可能性が非常に高くなります。

よろしくお願い申し上げます。