・同族株式会社の代表取締役が死亡し、遺産分割協議が進行中です。
・会社役員は代表取締役が故人、長男・次男が役員、妻が監査役で新代表取締役
は決定していません。
・取締役会設置会社、監査役設置会社です。
・株主構成:故人100株、長男40株、次男24株、妻8株、
その他親族4名で28株、合計200株
・会社の経営状況は役員一名分の給料を稼ぎ出せる程度
・従前は故人の不動産収入を会社へ貸付て、長男・次男の給料の原資としていた。
・長男と次男とは会社運営においては相反状態である。
・長男は会社土地の半分を相続し、工場として貸付事業をしたい。
・次男は今後10年程度は会社を継続したい。
・妻は会社閉鎖し、土地を換金ないし別途有効利用したい。
<質問>
1.新代表取締役の決定方法
会社経営者の長男・次男・監査役の三名での話し合いが不調で、新代表を決定す
ることが困難です。どのようにして新代表を決定したらよいのでしょうか。
2.会社継続の判断
今後の利益状況、生きがいとしての仕事、土地の有効活用などを考慮して、長
男・次男・妻で話し合いをして、今後の会社運営を決定しようとしても、意見の
集約が出来ません。この場合、臨時株主総会にていくつかの案を出して、多数決
にて会社の運営方法を決定するものでしょうか。
ご教示の程、お願い致します。
かなり出口の見えない状況になって
しまっているかと思います。
最終的には、相続問題として、
他の財産などとのバランスも含めて、
株式の帰属をどうするかを確定していく
以外、安定的に会社継続することも、
会社を閉鎖することも難しいです。
以下は、現状の法律関係を解説し、
質問に回答していきたいと思います。
おそらくは、相続対応において、
相続人それぞれに、弁護士が入れば
下記の現状を前提として、会社運営を
どのくらい自分が決定したいのか
という状況も勘案して、遺産分割や
相続人の既存所持株式の譲渡など
をすることになるでしょう。
ただ、この辺りを、先生のお立場で、
誰にどれだけ伝えるかによっては、
紛争がより大きくなってしまう
おそれが非常に強いので、
注意が必要かと思います。
なお、会社の定款の定めに
よっては、下記の取り扱いと
異なる可能性もなくはないので、
下記の回答と定款の記載を
合わせてご覧いただければと
思います。
1 代表取締役を定める方法
(1)取締役2名(長男・次男)での取締役会の開催による決定
代表取締役は、取締役会設置会社では、
取締役会決議により定めるものとされている(会社法362条2項3号)
ことから、取締役2名により、取締役会決議を開催して、
そこで代表取締役を定める方法があります。
ただ、取締役会設置会社は、
取締役3名以上の設置が必要とされており、
現状では、これを満たしていない違法な状態です。
この状況で、取締役2名の参加のみで、
適法な取締役会といえるかどうかについては、
議論のあるところです。
(実務上は難しいと考えておいた方が無難でしょう。)
また、そもそも、長男と次男の間で、
どちらが代表取締役となるかにつき、
意見の一致が見られないという状況のようなので、
そもそも決議要件(3分の2の賛成→長男と次男の意見の一致)
を満たさず、この方法をとることは難しい
でしょう。
(2)株主総会で取締役1名を選任、その後取締役会で代表取締役決定
また、取締役1名を、新たに株主総会(普通決議)で選任して、
その1名を加え、長男・次男の3名で、
取締役会を開催して、代表取締役を決定する
という方法もあります。
ただ、その株主総会において、
結局は、兄・弟は、自分の側に有利な取締役を
選任するための株式の争いになりますので、
この点を解決してからでないと(下記「2」参照)、
この方法も難しいでしょう。
また、株主総会の招集事項の決定(議題の決定)
にも、取締役会決議が必要なため(会社法298条4項・1項)、
長男・次男の意向がまとまらない現状では、
株主総会自体の開催が難しいという問題もあります。
(株主全員の同意があれば、招集手続きを経ずに
開催可能なので、このような方法はありえます。
ただその場合、長男・次男・妻の誰かが
拒否をする可能性も残ります。)
なお、株主総会については、
取締役会の決定による開催のほか、
株主による招集(会社法297条)という方法もあります。
この方法によれば、100分の3の議決権を有する株主は、
最終的には、裁判所の許可を得て、
株主総会を招集することが可能となります。
(実際にはあまり利用されている制度
ではないですが。)
(3)定款変更をし取締役会を廃止する方法
また、
定款を変更して、取締役設置会社を
やめるという方法があります。
仮にそうなった場合には、
今後の運営方針については、
株主総会の普通決議で決定
することができるようになります(会社法295条第1項・2項)・
(解散決議など重要項目は、特別決議が必要になります。)
ただ、こちらについては、定款変更に特別
決議(2/3)以上の決議が必要に
なります。
ですので、
結局は、下記「2」のとおり、会社の根本である、
株式の問題を解決するしかありません。
(4)その他の方法
単に、代表取締役を決めたい、
ということであれば、以下の方法もあります。
・一時取締役職務代行者(会社法346条2項)の選任。その後、取締役会で代表取締役を選任
・一時代表取締役職務代行者(会社法351条2項)の選任
ただ、どちらの方法も、
裁判所に申立てを行い、選任してもらう必要が
あるため、時間・労力のコストがかかります。
また、仮の代表取締役(取締役)を定めるのみなので、
会社組織としての根本的な問題の解決にはなりません。
やはり、正攻法としては、
下記「2」のとおり、会社の根本である、
株式の問題を解決するしかありません。
2 現状の株式関係について
(1)故人の100株の重要性
現状では、故人の100株がどのように
扱われるかが、大きな意味を持ちます。
株式は全部で200株なので、
故人の100株について、議決権の行使ができなければ、
普通決議の定足数(議決権数の過半数・101/200)さえ
みたさず、普通決議もできません。
なので、ここをどのように解決するかが、
非常に重要になってきます。
(2)100株の共有状態での扱い
遺産分割等で分割していない現状では、
故人の100株は、相続人3名の共有
状態です。
この3名のうち2名の賛成により、
議決権行使をする者を定めることで、
株式全部(100株)について、
議決権を行使することが可能です。
つまり、3名では折り合いがつかなくても、
例えば、次男と妻が組めば、株主総会において
100株を自由に行使し、
役員の送り込みなども、可能です。
なお、その場合は、兄が株主総会
の開催に同意しないでしょうから、
開催自体が難しいということは
あるかもしれません。
その場合は、
上記のとおり(1(2))、
最終的な手段として、株主による株主総会の招集
という方法はあります。
>2.会社継続の判断
>今後の利益状況、生きがいとしての仕事、土地の有効活用などを考慮して、長
>男・次男・妻で話し合いをして、今後の会社運営を決定しようとしても、意見の
>集約が出来ません。この場合、臨時株主総会にていくつかの案を出して、多数決
>にて会社の運営方法を決定するものでしょうか。
以上のとおり、単純な多数決ではなく、
普通決議(過半数)ができるだけ
または会社の解散などであれば、特別決議(2/3)が
できるだけの票を集めることができるかという
ことになります。
仮に、それができない状態ですと、
会社としては、新たな意思決定ができないでしょう。
つまり、現状継続している取引を続けていくだけ
ということになります。
上記「1(4)」の方法により、
暫定的に代表取締役を定め、
代表取締役が決められる範囲の業務を行っていくこともできますが、
時間的なコストもかかり、
さらにこれでは根本的な解決にはなりませんので、
故人100株の扱いをどのようにすべきかを決定
してくということになるかと思います。
よろしくお願い申し上げます。