不動産 民法 貸倒 所得税

個人大家の滞納者に対する強制執行と賃料の貸倒れ

個人大家の所得税の貸倒金(貸倒損失)の計上について教えてください。

https://saiken-pro.com/columns/78/

滞納者がいると明け渡しをしてもらわないと次の入居者が募集できないため、訴訟する
ことがあるかと思います。
判決が出たとしても滞納者を部屋からどかせたということだけかと理解しています。

下記にいろいろ質問させていただきましたが、趣旨としてはどのような状況だったら滞納金は
必要経費にすることができますでしょうか?
みなさんはどのような疎明資料で貸倒金としているのでしょうか?
訴訟の流れも内容もあまり理解できていないため教えてください。

質問1

強制執行の訴訟をする際には、家賃滞納の金額確定と支払いの催促を同時に
訴訟にすることが一般的なのでしょうか?

質問2

部屋の強制執行のみであるため、不払いの滞納金については回収するとして訴訟をする人が多いと思われます。
そうすると、判決後も家賃は回収するということになり、
法律による貸倒として内容証明で書面により免除する通知をしないと貸倒金としては計上できませんでしょうか?
(前提として相手の資力が喪失している場合)

質問3

実務上は、判決後、行方不明となり回収不能と認識した場合は、行方不明になったときの年に
貸倒金として計上することができるものでしょうか?
つまり単に探したけど分からないということだけをもって貸倒にすることができるのでしょうか?

入居者や連帯保証人の資力の有無については貸倒金とすることに対して影響はありますでしょうか?

形式基準の場合は、保証金がある場合はできないものでしょうか?
それとも保証金はまず滞納家賃に充てたということと考えることはできるのでしょうか?
保証金を家賃に充当するときは入居者に何らかの書面による提示が必要なのでしょうか?

まず、前提部分のお話をして、
各質問に回答します。

>判決が出たとしても滞納者を部屋からどかせたと
>いうことだけかと理解しています。

まず、訴訟手続きをすると、
訴訟の結果によって、判決(債務名義)
というものを取得することができます。

今回の例で説明すると
訴訟によって、滞納者が、
①部屋を明渡す義務があることと、
②滞納していた金額を支払う義務があること

を裁判所が認めてくれたものが判決となります。

その後、この判決文を根拠(債務名義)として、
裁判所に強制執行手続きの申立てをすることが
できるという流れになります。

強制執行の手続きは、下記の裁判所のサイトにも
説明があります。
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_minzi/minzi_02_01/index.html

ですので、「訴訟だけ」では、
①部屋を明渡す義務があること
②滞納していた金額を支払う義務があること

を強制的に実現することはできません。

裁判に勝ったにもかかわらず、相手が義務を履行
してくれない場合には、別途強制執行の
手続きの申し立てを行うことになります。

①であれば、申立てに基づいて、
執行官が部屋の中の荷物などを強制的に
撤去し、大家が引き渡しを受けることになります。

②であれば、滞納者の財産や口座を調査し、
その財産や債権を差し押さえるということをすることに
なります。

①は、強制執行をすれば確実に実現できますが、
②は、滞納者の財産がなければ(こちらで発見できなければ)、
行うことができません。

そういう意味で、滞納者に財産がないケースでは、
>判決が出たとしても滞納者を部屋からどかせたと
>いうことだけかと理解しています。

のご指摘は、正しいといえます。

>質問1
>強制執行の訴訟をする際には、
>家賃滞納の金額確定と支払いの催促を同時に
>訴訟にすることが一般的なのでしょうか?

訴訟と強制執行手続きは、別の手続きになりますので、
同時?ということはありません。
上記のとおりの手続の流れになります。

ただし、
滞納家賃については、滞納者の財産や債権が
存在している(特定する)こと
が差押えのために必要になります。

訴訟をする前に滞納者の財産や債権の存在は
判明しているが、
訴訟をしている間に、その財産を滞納者が処分
してしまう恐れがある場合には、

「仮処分」と言って、判決がでる前でも
その財産を仮に差押えをすることは可能です。
(その後裁判で負ければ、仮差押えは
解除されます。)

そういう意味では、財産の特定ができれば、
仮処分をしてから、訴訟をするということは
あります。これは滞納者の財産状況如何も
関わるので、事案によるといったところです。

>質問2

>部屋の強制執行のみであるため、不払いの滞納金については回収するとして訴訟をする人が
>多いと思われます。
>そうすると、判決後も家賃は回収するということになり、
>法律による貸倒として内容証明で書面により免除する通知をしないと貸倒金としては計上で
>きませんでしょうか?
(前提として相手の資力が喪失している場合)

理論上は、相手に資力がないことが明確になり、回収不能であれば、
金銭債権の全部貸倒れとして、債権放棄をせずに貸倒れとすることは
可能です(いわゆる事実上の貸倒れ)。

ただ、一般的な貸倒れ事案では、
事実上の貸倒れとする場合、
調査において、調査官に「まだ回収するつもりが
あるんじゃないか?」ということを指摘
されると厄介なため、

税理士の先生は、書面による債務免除をして、
法律上の貸倒れにするということが一般的かと思います。

>質問3
>実務上は、判決後、行方不明となり回収不能と認識した場合は、行方不明になったときの年
>に貸倒金として計上することができるものでしょうか?
>つまり単に探したけど分からないということだけをもって貸倒にすることができるのでしょ
>うか?

理論上は、上記の事実上の貸倒れということで
可能です。

家賃滞納するというのは生活の本拠を失う
可能性があることですので、他に資産を
持っていない可能性も高いということを
調査官に説明することになるかと思います。

おそらく、今回のご質問のケースでは、
金額があまりにも高額でない限りは、
調査では問題なく通るでしょう。

金額が大きく不安な場合には、
公示による意思表示(民法98条)という
制度を利用して、債務免除をする方法があります。

http://www.courts.go.jp/tokyo-s/saiban/l3/Vcms3_00000347.html

この制度であれば、
一応、行方不明であることについて
裁判所に対して、報告書を提出していますし、
到達証明書も裁判所からもらえるので、
それを強い証拠として、
法律上の貸倒れとすると、
今回のケースの税務リスクは
ほぼなくなるでしょう。

>入居者や連帯保証人の資力の有無については貸倒金とすることに対して影響はありますでし
>ょうか?

もちろん、関係あります。
入居者または保証人に
十分な資力があり、回収可能なのであれば、
貸倒れにはなりません。
(現実論として、調査官がどこまで
調べるのか?という問題はあります。
下記のURLの「証明責任」の箇所をご覧ください。)

>形式基準の場合は、保証金がある場合はできないものでしょうか?
>それとも保証金はまず滞納家賃に充てたということと考えることはできるのでしょうか?
>保証金を家賃に充当するときは入居者に何らかの書面による提示が必要なのでしょうか?

賃貸借契約書に
保証金は、通常滞納者が家賃滞納など
賃借人の債務の履行をしなかった場合には、
保証金から充当する旨の定めがあるかと思います。

意思表示が必要か否かは当初の賃貸契約書に
よる部分かと思います。

ただし、何れにしても、
(意思表示が必要だとしても、相殺できる
状況(相殺適状))
保証金は、滞納家賃に充てたと考えて
問題ないと思います。

なので、貸倒れと関係するのは、
滞納家賃債権から保証金を控除した
金額と考えていただいて良いかと思います。

なお、貸倒れについては、
私が運営しているサイトでも紹介
しております。
https://zeirishi-law.com/kashidaole

特にこちらの証明責任など
記事をご参考になさっていただければ
と思います。

https://zeirishi-law.com/kashidaole/solon

よろしくお願い申し上げます。