について教えてください。
社長の土地を法人に貸し付ける場合、その土地を有効活用するため、土地の整地費用や土留工事、そして既存の建物の解体費用などが発生することになります。この場合の費用負担ですが、仮に両社で特約がない場合、どちらが負担するのか原則的な考え方はありますでしょうか。
素人考えだと、更地で土地を貸すまでの費用が地主負担であり、貸した後建物を建てるために必要な費用については借地権者が負担する、というルールかと思いますが、念のため確認させてください。
よろしくお願い申し上げます。
>この場合の費用負担ですが、
>仮に両社で特約がない場合、
>どちらが負担するのか原則的な考え方はありますでしょうか。
2 回答
ご質問の「特約」という言葉をどのような
意味で使用されているかによるところもあります
が、
結局のところ、現実の実務では、当事者間の
契約の経緯・目的、借地料の金額やその後の
両者のやりとりなどを総合考慮して
どのような合意(黙示の合意を含む)があったか、
を決定していくことになります。
ですので、原則か例外かという議論は難しい
ところですが、
以下、
(1)整地工事・土留工事について
費用をどちらが負担するかの合意なく、
借地人負担において工事を行った場合
借地人が、地主に対して、工事に関する費用について
有益費償還請求権(民法608条2項、196条2項)
を行使できる要件などについて解説したのちに
代表的な裁判例を上げるという形で回答します。
(2)既存の建物の解体費用について
こちらは、上記の工事とは性質が
異なりますので、別立てで回答します。
(1)整地工事・土留工事について
ア 有益費償還請求について
有益費償還請求は、
賃貸借の終了時に
当該工事により、
「土地の価値が増加していること
が客観的に認められる場合」(要件)
に
①支出した金額
または
②工事による土地の価値の増加額
のうち、賃貸人が選択した金額
を賃借人が賃貸人に対して請求
できる権利(効果)です。
イ 整地工事・土留工事について
一般的に、土地の客観的価値を上昇させるもの
といえる可能性は十分にあると思われます。
ただし、元の土地の状態でも
利用できるものであり、
さらに借地人の使い勝手が良いように
改良したというようなケースでは、土地の
客観的価値が増加したとはいえず、
有益費償還請求が認められない
可能性が高いです。
ウ 原状回復義務との関係
なお、今回のご質問の想定
ですと、特段合意はないもの
と考えれば良いのかと思いましたが、
例えば、借地契約において、
賃借人が、契約終了時に
建物を含む
すべての土地上の物一切を
収去するという合意があったと
認定される(このレベルでの
原状回復義務がある)場合には、
上記の有益費償還請求権の
放棄の合意も内包されている
とした裁判例があります。
エ 代表的な裁判例のご紹介
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◯代表裁判例①
函館地裁昭和27年4月16日
●農耕地を盛土工事
・周辺は住宅地・工場用地で、農耕地としては利用価値が低い土地であった
・土地は、道路から低く排水の便も悪かった
盛り土により、土地の価値の客観的価値が増加したといえる
→有益費償還請求の対象にはなる
(ただし、現存の増加価値の立証がなく、
請求自体は認められていない。)
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◯代表裁判例②
福岡地裁小倉支部昭和47年3月2日
●宅地造成費用の支出
・丘陵状の傾斜地を宅地造成(現状では、宅地としての使用は不可能であった)
→土地の価値を増加させるものとして、有益費償還請求の対象に
なりうることを肯定。
ただし、有益費償還請求権を放棄する旨の合意があった
と認定し、請求自体は認めなかった。
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(2)既存の建物の解体費用について
こちらは、賃貸借の前提条件に
なるものかと思いますが、
原則的には、既存建物の所有者
の費用で解体することになります。
(勝手に壊しては犯罪ですので)
ただ、今回のご想定事項では、
土地上に、建物がある状態で、
新たに建物を建てることを目的として
土地を貸した場合、
両者間において、旧建物を解体することは
当然の前提になっていると考えられるため、
その費用負担について、
当事者において、
どちらが費用を負担するかに関する合意を
認定していくことになるかと思います。
結局のところ、当事者間の
契約に至った経緯・目的、
借地料の金額や契約後の
両者のやりとりなどを
総合考慮して
どのような合意(黙示の合意を含む)
があったか、を決定していくことに
なるでしょう。
よろしくお願い申し上げます。