公正証書遺言の内容変更についてご教示頂けばと思います。
(事実関係)
相談者は、以前に信託銀行主導で公正証書遺言を作成しました。
その中に、相談者が100%株主である同族会社の株式が含まれています。
(質問)
追加で自筆証書遺言を作成し、同族会社株式について次の要望を盛り込むことが可能でしょうか?
・同族会社は解散の上、清算結了させたい。(清算人の選任)
・法人所有の財産(不動産など)はすべて換価し、納税後の残余財産(現預金)を当初の公正証書遺言どおりに承継させたい
以上です。
また、当初の遺言の変更について公正証書によらず自筆証書で行いたいとのことなので、
本件にあたって特に注意すべき点などがございましたら、あわせてご教示頂ければと思います。
>・同族会社は解散の上、清算結了させたい。(清算人の選任)
>・法人所有の財産(不動産など)はすべて換価し、納税後の残余財産(現預金)を当初の公
>正証書遺言どおりに承継させたい
遺言で指定可能な事項は、
法律で定められた遺言事項のみになりますし、
相続財産はあくまでも「株式」自体で、
対象会社が保有する財産とは異なりますので、
換価などの方法を指定したとしても、
無効と判断されることになるかと思われます。
もちろん、付言事項などに記載しておき、
相続人に伝えるという事実上の意味は
あるかと思いますので、記載すること自体が
必ずしも無意味とは考えられませんが、
効果を有さないものとなってしまうと
考えられます。
2 代替案〜定款の利用〜
遺言者の方がこのような遺言を残したい
理由までは、メールからは
わからなかったので、どのスキームが
最適かは、厳密には分かりかねましたが、
会社の「定款」を利用して、
同じような状態を作り出すことは
可能かと思いますので、以下、ご参考に
なさってください。
(1)定款の記載
◯解散事由を定める
まず、会社法471条2号
により定款に会社の解散事由を
定めることができるとされています。
定款を変更して、
「相談者が死亡した場合」
を解散事由に定めます。
なお、特定の株主の死亡が
解散事由になり得るかについては、
若干の違和感はあるものの、
弁護士が信頼をおく書籍などでは、
可能であるとされており、
実務上も有効である前提で運用されています。
◯清算人を定める
上記の定款変更と同時に
会社法478条1項2号により、
清算人を定款で定めておく
ことができます。
(2)注意点
このように、定款を定めておけば、
相談者様がお亡くなりなられた場合に、
会社は解散し、清算人が、財産を換価し、
公正証書で株主になった
相続人にその割合で、分配することが可能と
なります。
(理論上は、不動産をそのまま分配する
ということもありえますが、株主は、
残余財産が金銭以外の財産である場合にも、
それに代えて金銭分配請求権(会社法505条)を有する
ので、同様の結論が導けるでしょう。)
ただし、以下の点において、
想定と異なる可能性もあります。
公正証書遺言で、どのように
株式を分配しているのかが定か
ではないため、どの程度のリスク
が残るかはわかりかねますが、
株式会社の場合、解散をしたとしても、
清算結了(清算事務終了後の
株主総会の決算報告の承認)をするまでは、
株主総会の特別決議で、会社継続の決議を
することができてしまいます(会社法473条)。
ですので、公正証書遺言の株式分配方法
によっては、会社の継続の特別決議により
会社が復活してしまうというリスクは
残ることになります。
なお、信託を利用したスキームにより、
適切に受託者の選定し、解散まで行い、
残余財産を相続により取得する株式数に
応じて分配することを含めて、
検討の余地はあるかと思いましたので、
よろしければ、
メーリングリスト会員様とその関与先
様は、初回面談無料になりますので、
そちらのご利用もご検討ください。
3 遺言の変更を自筆証書ですることの注意点
話の前提がそれましたが、一応こちらについても、
回答いたします。
ご存知の通り、公正証書遺言を自筆証書遺言で
変更することも法律的には可能です。
ただ、下記の私の記事にも書いているのですが、
公的なニュアンスの強い公正証書遺言を、
自筆証書遺言で変更ということをすると、
相続人の一部には、誰かが捏造したのではないか
とか、強い働きかけがあったのではないかという
疑いを持たれ、相続人間の揉め事が起こる可能性は
高くなるかと思います(私の経験上も)。
できれば、
時間と手間は多少かかりますが、
公正証書遺言で変更をされた方が
ベターかと思います。
遺言の撤回・変更のルール〜遺言の法務と税務⑦〜
https://zeirishi-law.com/souzoku/igon/tekkai-henkou
よろしくお願い申し上げます。