相続 遺産分割 相続税

遺産分割協議書の「その他一切の財産」と債務と財産の大きさ

もめていない相続時の遺産分割協議書には
その他一切の資産及び債務は相続人Aが取得、承継するものとする。
という一文を入れています。

質問1
さまざまな記載方法があると思いますが、財産債務の両方を記載するものと財産しか
記載していないものとありますが、メリットとデメリットがあれば教えてください。

質問2
上記1と同じ質問になるかもしれませんが、
今回、腹違いの相続案件で遺産分割協議が整いそうなところまできています、
私の依頼者の方が主で腹違いの兄弟にはこれとこの財産でお願いしますということになっています。
その他一切の資産は相続人Aが取得するものとするととどめた場合には
債務について記載のないものがでてきた場合には相続分で負担とすることは可能でしょうか?
もし財産債務の両方を相続にAにと記載していると
債務について記載のないものがでてきた場合にはAが負担することになるのでしょうか?
つまり依頼者から債務の記載がない方が自分にとって万が一のリスクが減少するのではと質問を受けています。

質問3
財産には債務は含まれているという考えになるものなのでしょうか?

質問4
その他一切の記載があったとして、
その他とはどの程度までの金額のものを意味していて、金額が大きいものは含まれずに後日、判明時に
遺産分割対象となるのでしょうか?

参考にしたもの

5.その他一切の財産債務は、相続人新宿花子が取得する

遺産分割協議書の書き方

被相続人の有する一切の財産は、妻 田中○子 が相続する

全財産を妻が相続する遺産分割協議書

遺産分割協議書「その他一切の遺産は…」で登記できる。本遺産分割協議書に記載のない遺産及び後日判明した遺産については
https://ameblo.jp/legalclinic/entry-11596337271.html

相続財産の中の債務は遺産分割の対象外。遺産分割協議で誰が債務を相続することに決めたとしても、それを債権者に主張することはできないのです。
対債権者に対しては主張できないが、相続人間の取り決めとしては有効
請求が来た場合には、まず自分がその借金を支払い(立て替えておき)、その支払った分を、本来遺産分割協議で決定した債務を引き受けた人に対して請求できます。
http://chester-tax.com/encyclopedia/dic05_130.html

遺産に含まれる財産・含まれない財産
http://www.nagoyasogo-souzoku.com/inheritable/inherit/

>質問1
>さまざまな記載方法があると思いますが、財産債務の両方を記載するものと財産しか
>記載していないものとありますが、メリットとデメリットがあれば教えてください。

最終的には、
当事者の合理的意思解釈(そのような
遺産分割合意がどのような経緯・どのような
趣旨でなされたか)により、
「債務が対象に入っている」と解釈されるかどうかの問題になりますが、

本来、債務は遺産分割の対象外(共有財産ではない)
ですので、債務の記載がなければ、

債務については、相続分に応じて
負担分が決まるということになります(なお、
相続債権者との関係では、債権者の同意が
ない限り、当事者間の合意で債務の負担割合を定めたとしても、
法定相続分に応じて債務を負います。)。

ただし、最終的には上記の通り、文言自体が
「財産」であった(「債務」の記載がなかった)としても、当事者の合意時の
状況やその他の条項などを勘案して、
合理的意思解釈により債務の負担割合も
定めたものだという認定がないわけではないので、

基本的には以下のように、
債務を含むのかどうかを明確にしておいた方が、
後の紛争を防ぐという点ではベターです。
・債務を含むのであれば「債務」を明記する。
・債務を含まないのであれば、「債務は法定相続分による。」などと明記する。

あとは、税務上は、この内部負担割合に応じて
債務控除を認めるという運用がされているので、
債務を含むと解釈されるかどうかにより、
その点も一応デリメリがあるかとは思いますし、
明確にしておくに越したことはありません。

>質問2
>今回、腹違いの相続案件で遺産分割協議が整いそうなところまできています、
>私の依頼者の方が主で腹違いの兄弟にはこれとこの財産でお願いしますということになって
>います。
>その他一切の資産は相続人Aが取得するものとするととどめた場合には
>債務について記載のないものがでてきた場合には相続分で
>負担とすることは可能でしょうか?
>もし財産債務の両方を相続にAにと記載していると
>債務について記載のないものがでてきた場合にはAが負担することになるのでしょうか?
>つまり依頼者から債務の記載がない方が自分にとって万が一のリスクが減少するのではと質
>問を受けています。

最終的に事実認定の問題
になりますので、
一概には言えませんが、
>債務について記載のないものがでてきた場合

たしかに、単に「財産」と記載し、
「債務」の記載がない場合には、
債務は含まないと解釈される可能性は十分にありますので、
Aのリスクは比較的減少はするかと思います。

ただ、他の債務について特定の相続人
に負担させるというような記載が
ある協議書の中に、

「その他・・財産」の記載があれば、
その「財産」の意味は、債務も含む趣旨
であるという解釈が最終的にはなされる
可能性もなくはありません。

ただ、いずれにしても、当事者間で趣旨も不明確なまま
そのような規定にしてしまうと、
本当に債務がでてきた場合(その金額
にもよるでしょうが)には、
紛争になる可能性は高いでしょう。
(そういう意味では明確にしておいた
方がベターではあります。)

もし、可能であれば、
「その他の債務は、
取得した財産の割合【または法定相続分】
に応じて承継するものとする。」

等の記載を入れておいた方がベターです。

>質問3
>財産には債務は含まれているという考えになるものなのでしょうか?

上述の通り、最終的には当事者の
合理的な意思が何であったかの認定によります。
もちろん、「財産」のみの記載であれば、「債務」が
含まれないという判断はありえます。

>質問4
>その他一切の記載があったとして、
>その他とはどの程度までの金額のものを意味していて、金額が大きいものは含まれずに後
>日、判明時に遺産分割対象となるのでしょうか?

原則的には、「その他一切の財産」と書いてありますので、
その財産がどのような金額であっても、
当初の遺産分割内容では分割されます。

ありうるとすれば、
錯誤無効(民法95条)の場合で、
そもそも遺産分割自体が無効であったという
ケースです。
その場合、
遺産分割協議の合意全体が無効になります。
つまり全財産について未分割の状態に戻ります。

錯誤無効の法的な要件としては、

①合意の「要素に錯誤」があること
当該錯誤(勘違い)がなければ、
・その人自身がその合意をしなかったこと
かつ
・通常一般人も、その意思表示をしなかったといえる程度に
 重要である場合

②表意者(無効を主張する人)に重大な過失がないこと

の2点になります。

裁判例を見ていくと

東京地裁平成19年2月26日が今回の
事例では参考になるかと思います。

◯東京地裁平成19年2月26日判決
「仮に、本件遺産分割協議成立時に、
客観的に存在したAの遺産と本件協議書に挙げられている
遺産とが齟齬していることがあったとしても、
本件協議書によれば、
本件協議書に挙げられていない遺産が判明した場合は、
被告Y2が取得するとされているので、そもそも、
本件遺産分割協議は、本件遺産分割協議成立時に
客観的に存在した全ての遺産が個別、具体的に網羅された
趣旨の協議ではないから、Xにはこの点について
意思表示に錯誤があったとは言い難い。」

としております。

他の裁判例の分析をすると

・一方の相続人が他に相続財産があること
を知っていたにもかかわらず、一方の
相続人にあえて伝えていなかったという
事情

・一方の相続人の無知に乗じて、これは
あなたは元々取得できないなどの虚偽の
説明をしていたのであろう事案について

など、あまりにも一方に対して酷な
ケースに限定して
錯誤無効を認めている傾向にあります。

金額についてはまちまち(もちろん、
大きい方が事実上無効とされやすいですが)
ですが、「一切の・・」の記載がある
場合には、金額よりも経緯が重要視
されているようです。

よろしくお願い申し上げます。