託児所で働く場合の責任について教えてください。
(前提)
・私の家内のことですが、結婚後、外で働いたことはありません。
・保育士の資格を持っていません。
・民間企業の託児所に欠員が生じたため、知り合いから手伝ってほしいと
頼まれています。
・保育士の有資格者とペアで仕事をするとのことですが、
人手不足のため、実際はどのようになるかは私にはわかりません。
(質問)
・もちろん事故の無いように、細心の注意を払って仕事をしますが、
それでも万一ということがあります。
・上記のようなケースで、万一、事故が起こった場合の責任は
どのようになるのでしょうか?
・いくつか裁判例を示していただけませんか。要旨で結構です。
(その他)
・保育士の有資格者なら、加入できる賠償保険がありますが、
資格を有していない場合には、そのような保険もないようです。
・私としては、スーパーのレジとかパン屋さんとかで働いてほしいと思うのですが。
もちろんどの仕事も大変ですが、上記のように無資格で託児所で働くことは
リスクがあると思うのです。
よろしくお願いします。
>・上記のようなケースで、万一、事故が起こった場合の責任は
> どのようになるのでしょうか?
(1)事故が起こった場合の職員個人の責任
事故が起こった場合に、保育を行っていた
職員個人に生じうる責任としては、
以下の2種類があります。
①民事上の不法行為などに基づく損害賠償責任
②刑事上の責任
②でよく問題になるのは、
業務上過失致死傷罪(刑法211条1項・法定刑:5年以下の懲役または100万円以下の罰金)です。
①・②のどちらも、保育を行う際に、事故につながることが予見できる状況で、
それにもかかわらず、これを回避する手立てを
講じなかった場合(いわゆる「過失」がある場合)に責任が認められます。
ただ、民事上の責任は認められても、
刑事上の責任は認められないことも多く、
刑事責任が認められるのは限定的です。
なお、保育士の資格者と資格者でない方との間で、
責任の度合いが異なるかについて、
明確な基準などはありませんが、
上記の要件を満たす限りにおいて、
責任が生じます。
両者において、それほどの違いはないと思われます。
(2)施設の責任
担当職員に過失があり、損害賠償責任を負う場合には、
施設としても、
・使用者責任(民法715条)
・債務不履行責任(契約上の安全配慮義務を果たしていない)
に基づき、損害賠償責任を負うことが多いです。
施設が責任を負う場合、
職員個人と施設の責任割合により、
その賠償金額は按分されることもあります。
(施設が10割を被害者に支払って、その5割を職員個人に請求するなど)
2 ご質問②
>・いくつか裁判例を示していただけませんか。要旨で結構です。
保育を担当していた職員に、法的な責任が認められた事例を3つ、
認められなかった事例を1つご紹介します。
〇札幌地裁昭和53年8月31日
【結論】
民事上の責任を肯定(100数十万円の損害賠償)
【事案の概要】
託児所で2歳8か月の幼児が段ボールの上に登り、冷蔵庫の上に置いて
あったポットにふれたためポットもろとも床に倒れ、熱湯を浴びて
大やけどをした事故。
職員の過失を認め損害賠償責任が認められた。
・無料の託児所であったが、これにより、注意義務が軽減されることはない
・3歳前後の幼児は、大人の常識では考えられないものを遊び場とする
ことから、これを予想して、ポットを安全な場所に置いておくべきであった
と判断された点が特徴的な裁判例です。
〇福岡地裁小倉支部平成23年4月12日
【結論】
民事上の責任を肯定(約2500万円の損害賠償)
さらに、刑事上の業務上過失致死罪で有罪(罰金40万円)
【事案の概要】
認可外保育園の3歳の園児が、園外保育から帰園した際、
送迎用自動車内に取り残されて、熱中症で死亡した事故。
・全員が帰園したことの確認(園児の所在確認・人数確認)を怠ったことから、
責任が認められた。
・園児の発見から、救急搬送まで45分もの長時間が経過していることもポイント
〇福岡高裁平成18年5月26日
【結論】
民事上の責任を肯定(約2200万円の損害賠償)
【事案の概要】
保育園で4ヶ月の乳児をうつ伏せで就寝させていたところ、窒息死した事故。
職員の過失を認め、不法行為による損害賠償責任が認められた。
・うつぶせで寝かせ、その場を離れた
・5分後に戻ってきたところ、顔面蒼白の状態で、45分後に死亡が確認された。
目を離したのは、わずか5分間だったが、
園児の様子を十分に注意して見守らなかったと
いう点に過失が認められたのが特徴的です。
うつぶせ寝は非常に危険なので、
これをさせるべきではないとされています。
〇名古屋地裁昭和59年3月7日
【結論】
民事上の責任を否定(過失なし)
【事案の概要】
無認可保育園で1歳6か月の幼児を就寝させていたところ、
幼児自身の嘔吐物により窒息死した事故。
無認可の保育園で1人の職員(保育士資格なし)が、8人の子供の世話をしていた。
園児をあおむけに寝かせて、1時間30分程度他の7人の園児の世話をしていた。
その後、異変に気づき救急車を呼んだが間に合わず、そのまま死亡。
風邪気味で体調不良であったため、嘔吐し、それがのどに詰まって窒息死したが、
・園児が体調が悪いことを、親から知らされておらず嘔吐することは予想できなかった
・また、他に7人もの園児を見なければならず、本件園児に気を配ることができない状況だったこと
が考慮され、責任が否定された。
このように、責任が認められるかどうかはケースバイケースです。
事故が起こったからといって、必ずしも責任があるということにはなりません。
ただ、当然ですが、重大な事故(死亡や重篤なケガ)になればなるほど、
現実問題として、責任追及がなされる可能性が高まりますので、
リスクは大きくなるといえます。
よろしくお願い申し上げます。