借地権は誰の所有かお教えください。
【概要】
平成29年5月に建物所有者であるSの相続開始です。
相続人はYのみ(相続人Sの長男です)
もともとも借地契約は、今回の相続人Yの祖父の時代からだったようです。
昭和38年に借地上に家屋を再建築しています。
昭和46年2月の祖父の相続時に、息子(Yの父親)の妻であるSが家屋を相続しました。
息子が祖父より先に死亡したためと思われます。
息子の死亡は昭和35年1月です。
昭和62年2月に借地の更新契約をしています。
このときの契約者は、地主と家屋を所有していないYの契約になっています。
(これがおかしいのではと思うのですが)
平成6年6月に国との借地契約締結しました。
もともとの地主が、底地を物納したためです。
国との契約も今回の相続人Yとの契約です。
【質問】
相続人Yは「自分が借地契約をし、地代も払ってきたから、借地権は
自分のものではないか」という考えているようです。
しかし、家屋の所有者は、Yの母親であるSです。
このような場合、借地権の所有者は誰のものとなるのでしょうか?
私として、やはり、家屋の所有者であるSが借地権者であり、
この借地権は相続財産となると思っております。
地主に支払ってきた地代は、Yから建物所有者であるSへの贈与なのかなあと思っています。
よろしくお願いいたします。
ご判断に苦心されていることをお察しいたします。
また、Yと地主さんとの更新契約をした点は、
地主が法的な問題を理解せずになされた
ものなのかなとも思います(それを国も、
疑いなくそのままにしたのでしょう。。。)。
以下は、いただいた情報に加えて、下記を
前提とさせてください(回答中の条件分岐があまりにも
多くなるので)。
◯Sは、祖父の相続人ではなかった(養子などではなかった)。
◯祖父からSへの家屋の所有権移転は、包括遺贈に基づくものではない。
◯祖父の相続人は、Y(代襲相続人)のみであった。
また、下記は、いただいた情報を前提に厳密に
最も可能性が高いであろう法律関係になります。
税務実務上、申告段階でここまで厳密にやるのか?
(特に「2」の部分)
という点はあると思いますが、ご確認ください。
1 祖父からSへの家屋の所有権移転により借地権を承継したか。
借地権付き建物について、
所有権の移転があると、
その移転した原因(売買、遺贈、贈与など)に
特別に借地権を伴わないものだという合意があった
と認定できない限り、建物の所有権とともに
借地権も移転します(民法87条準用)。
(今回のケースでは厳密には、祖父とS
の間では、そういう契約や遺贈があったと
されます。)
ただし、Sは、祖父の相続人ではない
ため、特定承継(契約による移転のような
ものと捉えてください。)になりますので、
借地権の譲渡には、地主の承諾がなければ、
その契約や遺贈を、地主に主張することが
できません。
具体的な事情は定かではありませんが、
地主がその後Yと更新契約をしている
ことから、地主が祖父→Sへの借地権
譲渡を承諾していたという認定は、
難しいかと思います。
そうすると、祖父からSへの家屋
移転があったことを理由に
Sは、地主との関係で、
借地権を有しているということは
できないかと思います。
2 祖父のSへの借地権移転義務の承継
上記の前提で、契約(または遺贈)の内容
としては、祖父は借地権をSへ移転する
義務自体は負っています。
そして、その義務は、厳密には祖父の相続に
より、相続人であるYに承継されています。
ですので、厳密には、Yは、祖父からSに対する
上記借地権の譲渡を、地主に承諾するよう働き
かけ、承諾をとり、借地権をSに対して移転させる
義務を負っている状態になります。
つまり、この義務を履行できていない
ので、概念的には、
SはYに対して、
借地権を移す履行請求権や
Yが自らこの義務と矛盾する
更新契約などをしたことによる
損害賠償請求権を
有しているということができ、
これが理論的には
借地権から借地料を引いた
金額についての請求権
として、相続財産になる
ということはありうるところでしょう。
ただし、実際にSは、
Yに対して、損害賠償・履行請求
など意思を表明していたとは
考えられませんし、
Sは生前、土地を利用できていた
わけですので、「損害」を
いくらで算定するのかなどは、
一義的には、決まりませんし、
通常このような債権が概念上あると
しても、相続財産に
入れることはかなり違和感があります。
3 SからYに対する転借地権などについて
祖父からSへの借地権の譲渡については、
地主(または国)からの承諾があったと
認めるのは困難かと思われますが、
地主や国とY自身が、借地権契約を
した部分については、地主・国は、
S所有の建物がその土地に建っている
前提を理解した上で、
借地契約をしたのであるから、
当然、Sへ転貸することも承諾
する趣旨の借地契約であった
と認定される可能性はあります。
そうすると、Sは転借地権を
有しており、それが相続財産に
なるという認定もなくはありません。
ただし、今回の事例では、
Sは、Yに対して、賃料などは
払っていなかったのでしょうから、
これは賃貸借ではなく、使用貸借
であったということで、Sの死亡と
ともに、使用借権が消滅し、相続
財産にはならないとの認定が
される可能性が高いかと思います。
(もちろん、上記の借地権譲渡の
履行義務の代わりに利用させていた
ということで、対価性があるという
認定もなくはないですが、
実際は、SもYも、このような認識で
合意していたとは認定することは、
難しいかと思います。)
4 まとめ
今回のようなかなり昔のことが
法律関係に影響を及ぼしたり、
おかしな法律関係が積みあがって
しまったケースの究極的な
認定は、裁判所でなくては、確定できません
(しかも弁護士の証拠の出し方のうまさや
裁判官によりまちまちの判断になる可能性が高い。)。
とは言っても、税理士の先生は、
相続税申告のために決めなければ
ならないというケースかと思います。
上記の通り、今回のケースは、依頼者
さんの言い分が全く通らないということも
ないでしょう(税務署との見解の相違が
あるとしても)から、可能性としては
(損害賠償請求権や転借地権などが)相続財産に
含まれることもありえ、加算税などの
説明をした上で、依頼者さんの意思決定として、
相続財産に含まないものとするか判断して
もらうということになろうかと思います。
そして、依頼者さんとして、
相続財産に含まないという判断をされるのであれば、
調査に向けて、申告内容に
沿う資料を準備(もちろん嘘をつくわけではなく)をして、
調査に臨み、
最後は、税務署に立証責任を果たしてくれ
という主張をしていくことになるのかと思います。
お願い致します。
質問も再度記載致します。
借地契約して地代を支払ってきた人と、借地上の建物の所有者が違
う人の場合、借地権は誰に帰属するかお教えください。
【概要】
平成29年5月に建物所有者であるS(女性)の相続開始です。
相続人はYのみ(被相続人Sの長男です)
SとYは当該家屋に1階と2階に分かれているが、同居してきまし
た。階段は外階段です。
もともとも借地契約は、今回の相続人Yの祖父の時代からだったよ
うです。
昭和38年に借地上に家屋を再建築しています。
昭和46年2月の祖父の相続時に、息子(Yの父親)の妻であるS
が家屋を相続しました。
家屋の取得原因が「相続」のため、SはYの祖父の相続人です。
前回の質問では、ここがはっきりしておりませんでした。
昭和62年2月に借地の更新契約をしています。
このときの契約者は、地主と家屋を所有していないYの契約になっ
ています。
(これがおかしいのではと思うのですが)
平成6年6月に国との借地契約締結しました。
もともとの地主が、底地を物納したためです。
国との契約も今回の相続人Yとの契約です。
【質問】
相続人Yは「自分が借地契約をし、地代も払ってきたから、もしか
したら借地権は自分のものではないか」という考えています 。
しかし、家屋の所有者は、Yの母親であるSです。
このような場合、借地権は誰に帰属するのでしょうか?
私として、やはり、家屋の所有者であるSが借地権者であり、
この借地権は相続財産となると思っております。
地主に支払ってきた地代は、Yから建物所有者であるSへの贈与な
のかなあと思っています。
よろしくお願いいたします。
そうなのですね。
SがYの祖父の養子になっていたという
ケースなのでしょうかね。
前回と説明が重複する部分も
ありますが、
だいぶ法律構成などが変わりますので、
ご確認ください。
法律構成が複雑になるため、順を追って解説します
(少しまどろこしい前提が入ります)が、ご了承下さい。
事実認定の争点が複数ありますので、
最初に全体の流れを説明し(「1」)、
その後に争点(事実評価に関する部分)
について説明します(「2」)。
また、事実認定もいただいた事情のみでは判断できない
部分(調べても最後は決めの問題になる部分)
も多い点はご了承いただければと思います。
最後は、税理士の先生としては、
「3」のような対策になるのかなと思います。
依頼者様への
より詳細なヒアリングなどをご希望でしたら、
メーリス会員さまの無料相談を
ご利用ください。
1 法律構成全体の説明
(1)遺言や遺産分割がない場合
今回は、ありえないのですが、下記の説明
の前提です。
相続人が、S・Yであったとすると
借地権(厳密には、賃貸借契約の
契約上の地位)が、1/2ずつ準共有
状態になります。
(2)祖父の相続による借地権の所在
ア 建物所有権との関係
ここは前回の説明どおり、
借地権付き建物について、
建物所有権の移転があると、
その移転した原因に
特別に借地権を伴わないものだという合意
(遺言の場合は遺言)があった
と認定【争点①】できない限り、
建物の所有権とともに借地権も移転します
(民法87条準用)。
今回は、建物の所有権移転の原因が
相続ということなので、
祖父からSに対して建物について、
「相続させる」旨の遺言があったか、
または
祖父の相続人間(S・Y)で遺産分割がなされたか
のいずれかの
理由になるかと思われます。
そして、「相続」を原因(包括承継)とする
場合には、借地権の移転に地主の承諾(民法612条)は
不要です(前回と異なる)。
イ Sが承継した賃借権全部を地主に主張できるか
ただし、上記でSが借地権を全部承継したとしても、
これを地主に主張できるか、
という問題が別途あります(民法612条の承諾の議論とは別です)。
「借地権」というのは、厳密には
賃貸借契約の契約上の地位(債権・債務の集合体)
になります(そういう意味で所有権などの物権とは異なる。)。
そして、ご承知のとおり、
遺言や遺産分割で債務を誰かに承継したとしても、
債権者の承諾がなければ、
これを債権者に主張することはできません。
(たとえば、S・Yが遺産分割で、すべての債務を
Sに引き継ぐという合意をしたとしても、
債権者は、法定相続分どおり、S:2分の1、
Y:2分の1の債務があるとして扱える。)
債権・債務の集合体である
「賃借権」についても同じ議論がありえ、
賃借権の全部がSに移転することについて、
債権者(地主)が承諾していなければ、
地主は、賃借権はS:2分の1、
Y:2分の1という前提で扱えば足りる
ということも理論的にあり得ます。
逆に、「賃借権」が債権・債務の「集合体」であるという点を
強調しない考え方で行くと、
地主の承諾がなくても、
純粋な「権利」としての借地権は、
地主の承諾なく100%Sに移転する、
ただし、賃料支払の「債務のみ」は、
SとYの両方にある(不可分債務なので、
地主はSとYの両方に賃料を請求できる)
と考えることもできます。
この点について、法令・裁判例上の
明確な答えはありません(【争点②】)。
これは、賃貸借契約という債権・債務の集合した
ものに、「借地権」という物権類似の
効果を法律が特別に認めてしまったため、
生じる問題です。
これは、
あくまでも、私見になってしまいますが、
この場合、地主との関係では、承諾がないと
不可分債務(賃料支払債務)自体はSとYの両方が負うものの、
Sに「権利」としての単独の借地権が
移転しているという考え方が、適切と
考えております。
借地権の物権的な性質を重視する考え方です。
この見解に立つと、下記の三者間合意が
認められなかった場合には、
借地権は単独でSのものとなります。
(上で、あくまでも債権・債務の集合である
契約上の地位に過ぎないとの考えを
取ると、1/2ずつとなります。)
(3)その後の三者間の合意の有無
上記の考え方を前提に、Sが、一旦は、
単独の借地権を有していたとしても、
その後の
昭和62年2月更新契約の
の際にYと地主で契約を締結しています。
この更新契約の際に、例えば地主
が借地権継続をSとYと話をして、
SもYに任せるということで、
地主とYで、更新契約をしたという
ような事情があると
この時点で、Sと地主の賃貸借契約は
終了し、Yと地主間で新たに賃貸借
契約がなされたと評価される可能性は
あります(これは国との間でも同様)。
(【争点③】)
2 争点①、③について
(1)争点①?建物所有権が移転した原因に特別に
借地権を伴わないものだという遺産分割または遺言があったか?
まずは、遺言書や遺産分割協議書を確認
しなければならないかとは思いますが、
上の経緯からするとおそらく明確には
書かれていないかと思います。
祖父の相続開始後、賃料については、
すぐにYが支払っていたという
事情はあるのかと思いますが、
上述の通り、地主との関係では、
Yも支払義務を負う上、
今回新たな事実としてご教示
いただいた
>SとYは当該家屋に1階と2階に分かれているが、同居してきまし
>た。階段は外階段です。
という事情があるので、借地権自体はSにあるが
Yが便宜上、賃料全額を支払っているにすぎない
という見方ができます。
これらの事情からすると、
建物所有者をSと借地権者をYと
あえて分ける合意があったとまでは、
認定することは難しいのかなと思います。
これはあくまでも
いただいた事情からという前提になりますので、
Yにはどのような経緯
で建物所有者がSになったのかや
なぜYが賃料を払うことに
なったのかなどの事情はご確認ください。
なお、
上記のように
遺産分割や遺言に関しては、建物の移転と
借地権を分けるという特別の合意がなかった
という前提にすると、
少なくとも更新契約までは、
Yは、Sから建物を借りている
対価として、Sの代わりに
賃料を払っていたということに
なるのかと思います。
(こちらも、YS間の合意の
問題になりますので、いただいた
事情からは判断できまん。ここの
部分は誰も証拠を持ってないでしょうから
結局は、Yの認識に頼るしかないでしょう。)
(2)争点③?三者間の合意があったか?
次に、上記の通り、
Yと地主(または国)と更新契約(または賃貸借契約)
があった時点で、契約書には残っていなくても、Sがこの借地契約を
終了させる合意があったと評価できる場合には、
更新契約(または賃貸借契約)時点で、
Sの借地権は消滅していたと考えられます。
賃貸人である地主や国が、Y名義で契約書を作成
していることからすると、
建物所有者のSとしては、この時点で、
すべてをYに任せるということで、
自己の賃貸借契約を終了させて、新たに同居人であるYと
締結させたと評価できなくはありません。
ただ、こちらもSが死亡しているので、
なかなか確定的な認定ができるわけではなく
原則(建物所有者と借地権者が一致)を
ずらすことまでできるかというと厳密に法的には
難しいかなという印象です。
3 今後
このような状況でどう対応していくかですが、
上記争点②の考え方いかんも含めると
・Sに借地権はない
・Sの借地権は、1/2の共有持分
・Sの借地権は、単独のもの
という3つのパターンがあり得るかと
思います。
いただいた事情のみから法的に判断すると
先生のおっしゃる通り、
・Sの借地権は、単独のもの
という可能性が比較的高いのかなと
思います(どれも確定的ではない。)。
ただし、国自体もYと契約を
しているという状況ですので、
現実論として、
調査で反論すれば、税務署は
あまり強い態度を取れないという
こともあるかと思います。
それを踏まえると
(1)税務署との相談・協議など
まず、国が賃貸人という当事者の
立場ですので、税務署と相談・調整
してどのようにしていくかを
決めるというのが、一番の
安全策ではあります。
(もちろん、ここで
・Sの借地権は、単独のもの
ということになると後から
はやりにくくはなります。)
(2)リスクを説明した上で、依頼者の意思を
確認する。
(1)の方法をとらないということですと
・Sの借地権は、単独のもの
という可能性が比較的高いのかなと
思いますので、それを説明した上で、
Sの相続財産には入れないという
依頼者さまの要望がどれだけ強いかを
確認し、
もし相続財産に入れないということであれば、
・修正申告をしなければならないケースも出てきうることや
更正されることがあり得ることと加算税などの説明
・法的に相続財産に入らない可能性もあるので、
それをはっきりさせるためには最終的には訴訟
などで決めなければならないこと
を説明した上で、最後は依頼者さんの意思決定
に任せるということも今回のケースでは
ありかと思います。もちろん、その他の
情報もできる限りで調査してという前提には
なるのでしょうが。
歯切れが悪い回答で申し訳ないのですが、
よろしくお願い申し上げます。