相続 贈与 遺産分割 不動産 相続税 税理士法 税理士賠償責任

相続案件の遺産分割に関する説明範囲について

○前提
被相続人:88歳男性、不動産所得者、同族会社代表
相続人4名:後妻である配偶者、被相続人の実子3名
配偶者と実子は血縁関係なし
実子は皆既婚、長男(子2人)、長女(子0)、次男(子2人)
長男、次男は同族会社の役員、長女は公務員
他、近所に被相続人の実弟夫婦が居住
相続財産は不動産が主である

被相続人から相続人への特別受益の程度
①長男へ
・居宅の土地・建物は被相続人名義であり、長男へは使用貸借
固定資産税も被相続人が負担してきた。
・同族会社は数十年来、赤字経営につき、被相続人の不動産所得を会社へ貸付し
役員報酬を支払ってきた。被相続人は同族会社に対し過去において数千万円程度
の貸付債権放棄、相続時に数千万円の貸付債権残高あり。
・長男の実子2人の学資(小学校から私学)をそのつど贈与

②長女へ
当方の知る限り、過去の贈与はない
本人の給与所得により、マンションを取得し居住

③次男へ
長男とほぼ同等
違う点は、同族会社の利益獲得に貢献し、自分の給料分は稼いでいたといえる。

被相続人の実弟夫婦
十数年前から被相続人宅に出入り、被相続人夫婦(実家)とは生活レベルの交流が
ある
被相続人が「書いたもの」(遺言書)を持っていると言っている
実家は長男が継ぐべきと、公言している
(当方は相続人である次男から聞きました)

質問1.遺言書有無の確認
税理士としては、相続人に対して遺言書の有無を確認し、「ありません/ありま
す」の回答を得て、ありますとの回答なら、検認の手続きをしてもらえばよいの
でしょうか。

質問2.遺産分割協議の事前説明
税理士が相続人に対して、財産・債務の一覧表と特例適用前の評価額・相続税額
を説明する予定です。この際に
①上記の扶助が特別受益に該当するのでしょうか
②特別受益なら、遺産分割協議にあたり、持ち戻しが必要であることを税理士が
事前説明をする義務はあるのでしょうか。特別受益額の算定は困難です。

質問3.遺産分割協議の基準
血縁関係、過去の経緯、遺産は不動産が主であること、被相続人の実弟の存在な
どから、分割協議が難航することが必至です。申告期限があること、民法上の法
定相続分、不動産の時価は相続税評価額が一つの基準であること、また、賃貸物
件別の収益状況の説明、分割方法として現物・換価・代償があること、分割協議
は相続人間の話し合いで決めて下さいとの説明は税理士が相続人一同にする予定
です。税理士として、これ以上の説明は出来ないと考えていますが、これ以外に
説明すべき事項や注意点がありましたら、ご教示の程お願い致します。

1 ご質問①
>質問1.遺言書有無の確認
>税理士としては、相続人に対して遺言書の有無を確認し、「ありません/ありま
>す」の回答を得て、ありますとの回答なら、検認の手続きをしてもらえばよいの
>でしょうか。

ご指摘のとおりです。

また、
>被相続人の実弟夫婦
>十数年前から被相続人宅に出入り、被相続人夫婦(実家)とは生活レベルの交流が
>ある
>被相続人が「書いたもの」(遺言書)を持っていると言っている

という事情があるとのことなので、
これらを相続人にも伝えた上で、「遺言書があるのか、
ないのか確認してください。」
と相続人に伝えた方がよいでしょう。

その上で、実際に遺言書がないという
回答(できれば、メールなど
残る形でもらってください。)
であれば、それ以上に、
遺言書の有無を確認する義務まではない
でしょう。

2 ご質問②
>質問2.遺産分割協議の事前説明
>税理士が相続人に対して、財産・債務の一覧表と特例適用前の評価額・相続税額
>を説明する予定です。この際に
>①上記の扶助が特別受益に該当するのでしょうか
>②特別受益なら、遺産分割協議にあたり、持ち戻しが必要であることを税理士が
>事前説明をする義務はあるのでしょうか。特別受益額の算定は困難です。

(1)①特別受益の該当性について

一般的に、特別受益となるかどうかは
様々な事情を考慮して、
最終的には裁判所が判断を下すものです。

遺産分割協議などの
当事者間の交渉においては、
当事者間で特別受益だという主張がなされ、
他の相続人もそれを認めれば、
特別受益であることを前提として、
法定相続分を算定し、
その割合に基づいて遺産分割の合意をする
という流れになるものです。

特別受益にあたる可能性のある贈与などが
あったとしても、当事者間で「特別受益だ」という主張
がなされなければ、特にこれを考慮することなく、
遺産分割がなされるケースも往々にしてあります。

このように、特別受益にあたるかどうかは、
一義的に明確に定まるものではありません。
以下、これを前提として、
先生が挙げられているもののうち、
特別受益にあたる可能性があるのか、あたる可能性はないのか、
というレベルでご説明します。

>・居宅の土地・建物は被相続人名義であり、長男へは使用貸借
>固定資産税も被相続人が負担してきた。

特別受益になる可能性はありますが、
建物の無償使用は、恩恵的な要素が強く、
持戻し免除の意思表示があると認定され
特別受益になることはあまりない
という考え方が一般的かと存じます。
(ただし、これも最終的には、
裁判所によるケースバイケースの判断が
伴います。)

>・同族会社は数十年来、赤字経営につき、被相続人の不動産所得を会社へ貸付し
>役員報酬を支払ってきた。被相続人は同族会社に対し過去において数千万円程度
>の貸付債権放棄、相続時に数千万円の貸付債権残高あり。

特別受益は、
基本的には「相続人に対する」もの
しか該当しませんが、債権放棄により利益を
受けたのは、会社であり、相続人ではないため、
特別受益には当たりません。
ただし、法人格否認されるような特殊例外的な事情
(会社が全く動いていない等)があれば、極めて例外的に
ですが、特別受益とされる可能性も0ではありません。

>・長男の実子2人の学資(小学校から私学)をそのつど贈与

これは、相続人である長男が負担すべき費用を
代わりに出したということで、
長男への特別受益になる可能性はあります。

(2)②特別受益に関する事前説明の必要性について

相続税申告を受けられている
先生の立場で、

遺産分割協議にあたって
上記の特別受益に該当する可能性がある
取引があり、特別受益による持ち戻しを
考慮すべきと説明をする義務までは
ないものと考えられます。

あくまで、遺産分割協議の中で、
当事者間で、
特別受益の主張をするのかどうか、
これを考慮して遺産分割の割合を決めるのか、
という当事者間のレベルの問題であり、
先生が積極的に説明するなどの必要は
ないでしょう。

遺産分割協議が長引く(紛争になる)可能性がある
ということなので、先生が、上記の特別受益に
なる可能性がある取引などがある旨を
説明し、遺産分割協議もこれを前提に
行うべきなどの意見を言ったりされると、
当事者間のトラブルに巻き込まれる可能性
もありますので、
むしろ控えられた方がよいかと考えます。

なお、未分割申告をしなければならない
場合には、特別受益は考慮して行うとの
説明がされますが、

あくまでも、
各当事者が主張しているもので
対応するしかないかと思います。
(もちろん、依頼者にご説明の上
申告は、特別受益を考慮しない
法定相続分でするということでも
良いと思います。)

3 ご質問③
>質問3.遺産分割協議の基準
>血縁関係、過去の経緯、遺産は不動産が主であること、被相続人の実弟の存在な
>どから、分割協議が難航することが必至です。申告期限があること、民法上の法
>定相続分、不動産の時価は相続税評価額が一つの基準であること、また、賃貸物
>件別の収益状況の説明、分割方法として現物・換価・代償があること、分割協議
>は相続人間の話し合いで決めて下さいとの説明は税理士が相続人一同にする予定
>です。税理士として、これ以上の説明は出来ないと考えていますが、これ以外に
>説明すべき事項や注意点がありましたら、ご教示の程お願い致します。

相続税申告の依頼を受けている
という観点からは、

基本的に、税務申告に際して必要な
事項に関するご説明をいただければ
良いかとは思いますので、
先生のご指摘事項の説明があれば
良いかと思います。

プラスで、税務に関するご質問
であれば、回答しますので、
質問をしてください。
と付け加えると良いかと思います。

特別受益については、
突っ込んだ説明をして、
当事者間の紛争に巻き込まれること
のないようご注意いただければと
いうのは上記のとおりです。

よろしくお願い申し上げます。