民法 倒産法

倒産した相手に対して債権と債務がある場合

以下のことに関してご教示をいただきたく思いますのでお願いいたします。

(前提)
1.A社は不動産賃貸を営んでいる。
2.A社の賃貸ビルのテナントである甲社が倒産したということを不動産屋
(仲介などをお願いしている会社)から知らされた。
3.その不動産屋がそのことを知ったのは、保証会社又は甲社の倒産手続き
関してついた弁護士さん(弁護士事務所)からの連絡だと思うということで
ある。
4.甲社に対してA社は債権としては家賃の未収入金(1ヶ月分+日割分)と
光熱費の立替もいくらかあり、債務として保証金(敷金)があるということ
である。
金額は債権のほうが多いため債務を相殺しても債権額が残るということで
ある。
5.何による倒産かはまだわからないということである。すなわち、甲社が手
形の不渡りを出したのか、民事再生法によるのか、会社更生法によるのか、
破産法によるのかなどについて今はまだわからないということである。
6.上記A社に対する債権及び債務について、債権者集会でテーブルの上に
乗るのは、相殺後の債権の残額であるのか、あるいは、相殺前の債権額は
切り捨てられて債務はそのままになってしまうのかと問われました。(この
6については、内容としてこういうことをきいているのだろうと解釈したこ
とを記しました)
7.常識的に考えて、最終的にはA社に対する債務は同社に対する債権と相殺
されるべきものであり、よって、債務が残ってしまうことはないでしょうと
いう旨の答をした。
8.今後どうしたらよいのか、あるいはとりあえずそのままにしておけばよい
かということをきかれたのでこれに関しては明確な回答をするのは避けてお
いた。

以上の前提においては、上記5のように事実関係で現時点ではわからないこと
もありますが、できる範囲でのお答えでもいただきたく思います。

(質問等)
1.前提6のことを一番気にされている様子でした。
 すなわち、債権者集会のテーブルに乗るのはA社に対する債権と債務を相殺
  した後の債権の残額になるのか、あるいは、両者がテーブルの上に乗るのか。
  両者がテーブルの上に乗る場合は、その後、どういう流れになるのかというこ
 とです。(いずれにして最終的には債権と債務は 相殺された形に当然なると思
 うのですが)
 以上のことに関して、大まかな形でも結構ですからお教えください。
2.倒産の手続に入っているため、A社独自で甲社に対する債務を同社に対する債
 権と相殺する手続をとる(そういうやりとりをする)ということはできないと考え
 ますがいかかでしょうか。
3.A社としてどう動けばよいのかは、今後、そういうことについては弁護士さんか
 ら何らかの通知(連絡)が来るのではないでしょうか。そして、その連絡の内容に
 従っていけばよいと考えますがいかかでしょうか。

上記のことに関してご教示をいただきたく思いますのでよろしくお願い致します。

1 ご質問①

(1)ご質問
>1.前提6のことを一番気にされている様子でした。
>すなわち、債権者集会のテーブルに乗るのはA社に対する債権と債務を相殺
>した後の債権の残額になるのか、あるいは、両者がテーブルの上に乗るのか。
>両者がテーブルの上に乗る場合は、その後、どういう流れになるのかというこ
>とです。(いずれにして最終的には債権と債務は 相殺された形に当然なると思
>うのですが)
>以上のことに関して、大まかな形でも結構ですからお教えください。

(2)回答
ア 敷金(保証金)の返還債務について

甲社からの敷金返還請求は、賃貸借契約を解除し、
甲社が建物の明渡しをした後に、
はじめて請求できるものです。

ですので、現時点でA社の具体的な債務
となっているわけではありません。

そして、敷金からは、
未収賃料や原状回復工事費用等を
控除することができるので、
甲社が建物を明け渡した時点で、
これらの金額を控除した結果、
敷金がゼロになれば、
返還債務はないということになります。
(相殺と似ているようで違うものです。)

甲社が破産等の手続に入るにしろ入らないにしろ、
A社が敷金からこれらの金額を控除してはいけない
ということにはなりませんので、
未収賃料等の金額が、
敷金の金額を上回っているのであれば、
今後いずれの手続に進むにせよ、
A社が敷金を返還しなければならなくなるということはありません。

イ 今後の流れ(破産の場合)

倒産の場合に最も多い破産手続を例に、
今後の流れを大まかにご説明します。

甲社(の依頼している弁護士)が裁判所に
破産の申立てを行うと、裁判所からA社に対し、
破産開始決定の通知とともに債権届出書が送られます。

これにより、
A社は破産の申立てがなされたことを知ります。
そして、A社は、自らの債権の額・発生原因など
を、債権届出書に記載して裁判所に届け出る必要があります。

また、破産の申立てを行った場合、
裁判所は破産管財人(弁護士)を選任し、
破産管財人が、甲社の負債状況の整理や、
現状である債権の回収を行うことになります。

破産管財人が選任されたら、
A社と破産管財人との間で、
賃貸借契約の解約、保証金の返還等も含め、
協議を行います。

その中で、A社としては、
未払賃料額や原状回復工事費用等を控除すれば、
返還すべき敷金はないということを主張していく
ことになります。

法的には、敷金から未払賃料や原状回復工事費用等を
控除することができるので、
A社の債権が上回る状態であれば、
敷金債務が発生するということはない
と考えられます。

そして、敷金を差し引いてもなお未払いの賃料などが残る
ことになると思いますが、
これは、残っている甲社の財産の範囲で
配当を受けることになります。
(配当はないか、あっても極めて少額ということが多いです。)

2 ご質問②
(1)ご質問

>2.倒産の手続に入っているため、A社独自で甲社に対する債務を同社に対する債
> 権と相殺する手続をとる(そういうやりとりをする)ということはできないと考え
> ますがいかかでしょうか。

(2)回答

ご質問①のとおり、敷金返還債務は、
甲社が賃貸借契約を解約して、
建物を明け渡した時点で発生するもので、
現時点では具体的な債務とはなっていません。

したがって、相殺の対象にもなりませんので、
現時点で相殺する手続きをとるということは
必要ありません。

今後、敷金の返還を請求された際に、
未払賃料や原状回復費用があり、
これらを控除すると、
返還すべき保証金(敷金)はないという主張をして、
支払を拒否するということになります。

3 ご質問③
(1)ご質問

>3.A社としてどう動けばよいのかは、今後、そういうことについては弁護士さんか
> ら何らかの通知(連絡)が来るのではないでしょうか。そして、その連絡の内容に
> 従っていけばよいと考えますがいかかでしょうか。

(2)回答

まず、現時点でできることとしては、
甲社がどのような状況かを把握するため、
A社から甲社に直接問合せを行うということ
が考えられます。

その際に、弁護士に手続きを依頼している
ということであれば、
その弁護士の連絡先を聞いて問合せを行い、
今後の方針(破産・民事再生等のいずれをとるのか)を
聞けばよいと思います。

いずれにしても、相手方が法的な手続(破産等)を
とるということであれば、

その申立ての時期の目途を聞いて、
裁判所からの開始決定を待つ
という対応でよいでしょう。

それ以上に現時点で行っていただくべきことはないと思います。

その後、破産であれば、
上記のような流れになるため、
A社から破産管財人(弁護士)に連絡をとってみるとよい
と思います。

よろしくお願い申し上げます。