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個人事業主の共同経営について

個人事業主の共同経営についてご質問をさせてください。

(前提条件)
・業種:スマートフォン修理業

・個人事業主(A氏)で、2店舗目(以下「支店」とします。)を検討中。

・支店については、新たに共同経営者としてB氏を責任者に設ける。

・支店については、A氏が事業のノウハウをB氏に提供し、B氏がお店を切り盛りするような形態。

・支店の経費は全部A氏が負担する。

・A氏は、支店の利益(収入-経費)のうち、予め決められた金額をB氏に支払う。

・B氏に支払う金額は、基本金額(例え支店の売上がゼロであったとしても必ず支払う金額。)と歩合給(売上に応じて予め割合を決めておく。)の合計金額を支払う。

(質問事項)
ご質問の内容としては、共同経営の形態を「B氏への支払いを給与」とするのか、それとも「外注費扱いにするのか」、あるいは「B氏は別の事業体として、支店の利益の内、一定割合をロイアルティとしてB氏からA氏がもらう形」にするのか、それ以外にも他にも方法があるのか。ということです。

ちなみに、法人成りについては今後の収益次第で要検討ということで、すぐは考えていないみたいです。

それと有限責任事業組合は経理が煩雑になるのかなと思い、こちらも難しいかと考えています。

仮に、A氏がB氏に支払う金額を「給与」として支払った場合に、B氏とは「雇用契約」を結んだ形となるため、労働基準法が適用がされることとなり、例えば1週間に40時間以上労働させてはならなかったりといった制約が出てしまうということでいいのでしょうか。

税務上は、「給与」にすることによって、B氏は確定申告ではなく、年末調整で済むことにより、B氏の確定申告が不要になります。
「外注費」や「別の事業体」とする場合は、B氏にも確定申告を行う必要が出てきます。

また、「外注費」については、A氏が経費を負担するとなると、「役務の提供に係る用具等を供与されている」ということになり、外注費の要件を満たさないようにも感じます。
「別の事業体」とする場合には、B氏への取り分として上記の基本金額(例え支店の売上がゼロであったとしても必ず支払う金額)としてA氏がB氏に支払う名目はどうしたらいいかなどの問題も出てきます。

それぞれの形態の法的なメリット、デメリットなどを教えていただけたらと思います。
よろしくお願いします。

一般的に問題となる
労働法と税務の観点から解説します。

なお、労働法・税法ともに、契約書の名義が
なんであれ、裁判などになれば、実態を中心
として、契約の性質が判断されます。

ただし、もちろん書面も重要な証拠の1つになりますので、
その意味で、回答させていただきます。

1 契約書の名義

個人間で契約をする場合、今回のケース
ですと、ご指摘いただいた通り、

①雇用契約書
②業務委託契約書(外注費)
③Bをお客さんからの売上げの帰属主体にする
(フランチャイズに近い契約書)

があるかと思います。

任意組合という方法も、個人の共同経営では
取られますが、

>限責任事業組合は経理が煩雑になるのかなと思い、
>こちらも難しいかと考えています。

損益分配などは生じ経理が
煩雑にはなりますし、
いただいた前提条件には
合わないかと思いますので、

今回は割愛します。

2 ①雇用契約書

(1)税務
こちらは、先生のご質問の通り、
B氏に確定申告が
不要というメリットがあります。

あとは、源泉の問題や消費税の仕入税額控除
に入れられないなどの一般的な
給与と外注費の違いによる
な税務のデリメリがあります。

(2)労働法
こちらもご指摘の通りです。
この場合、労働基準法の適用が
明確になってしまいます。

労働基準法の適用がある場合、
Aから見た主なデメリットとしては、
・残業代の支払い
・労働時間の制約
・B氏を解雇(雇用契約の解除)する際の規制
などがあります。

また、
・雇用保険への加入強制
という問題も生じます。

3 ②業務委託契約書

(1)税法

①雇用契約書に比較すれば、
給与と認定されるおそれは
低くはなるでしょう。

ただし、

上記の通り、給与か外注費かは
判例上も、実態で判断
されますので、

いただいた前提ですと
給与認定されるおそれは残ります。

ご質問の趣旨とは異なると
思いますので、詳細は避けますが、
裁判例上も

①労務提供の態様の従属性
②報酬受給の態様の非独立性

があるかないかで決まってきます。
最後は事実認定の問題です。

名義が業務委託やコンサル契約でも
給与とされるものは裁判例上は多々
ありますのでご注意ください。

また、Bに確定申告が必要
というのもご指摘の通りかと
思います。

(2)労働法

①雇用契約書に比較すれば、
労働法の適用がある労働契約で
あると認定されるおそれは
低くなります。

ただし、こちらも
契約書の名義が業務委託契約
であるからと言って、労働契約
ではないとなるわけではありません。

「使用従属関係」が実際にあるか否か
というところで判断されます。

税務の給与と外注費の
違いに近いですが、
少し詳しめに書きますと
==========================
・仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由がない
・業務遂行上の指揮監督の程度が強い
・勤務場所・勤務時間が拘束されている
・報酬の労務対償性がある
※報酬が、仕事の成果ではなく働いたことそのものに対するものである場合や、
報酬が時間給や日給によって定められているような場合を指します。
・機械・器具が会社負担によって用意されている
・報酬の額が一般従業員と同一である
・専属性がある(「その会社の仕事しかしない」など)
==========================
の事情から判断されます。

3 ③Bをお客さんからの売上げ(契約)主体にする(フランチャイズに近い契約書)

(1)税法

①雇用契約書②業務委託契約書
に比較すれば、給与と認定される
おそれは低くはなるでしょう。
(売上げが直接帰属する点で)

ただし、あくまでも最終的には実態判断に
なります。

>B氏への取り分として上記の基本金額の名目

こちらは、どのような経費があって
どの程度売上げがあるのかによって、
ちょうどよくなるように調整する必要
はあると思いますので、かなり手間は
かかると思いますし、契約書が
当事者の約束として、あまり意味が
ないものになってしまうという
デメリットもあります。

B氏の確定申告はご指摘のように
必要です。

(2)労働法

こちらも、
①雇用契約書②業務委託契約書
に比較すれば、労働契約と認定される
おそれは低くなるでしょう。
(売上げが直接帰属する点で)

ただし、あくまでも最終的には実態
判断になります。

(3)その他

この契約書の内容をどのようにしていくか
にもよりますが、その場合、
原則として、顧客リストなどについても、
Bに帰属することになります。

あくまでも、「B」のお客さん
ということになりますので、
その辺りは、注意が必要です。

また、お客さんとトラブルに
なった場合にも、契約主体が
「B」であるため
その対応は「Bがする」という
ことになります。

4 まとめ

上記の通り、いただいた前提
ですと、法的にはグレーな状態を
回避することは難しいです。

「共同経営」ということをどのように
捉えるかですが、

個人間で、共同経営
という実態を貫くという
ことですと、
煩わしさは伴いますが、

組合(有限事業組合含む)
などを検討されるか、
それとも、法人化して
役員にするかというところに
なるのかと思われます。

いただいた前提を動かさない
ということであれば、

①雇用契約書
②業務委託契約書(外注費)
というのが実態に合っているかと
思います。
(実態は、B氏はノーリスク
ということで、①雇用契約に近いでしょう。)

よろしくお願い申し上げます。