相続 遺言 遺留分 相続税

遺言により分割完了後に遺留分の裁判がある場合の税務処理

【前提】

Aさん26年1月に死亡(申告期限26年11月)

公正証書遺言があった

長男Bさん、その他の親戚2名CさんDさんへ遺贈の内容であり
相続税申告は公正証書遺言の内容に応じて、完了している

公正証書遺言の分割割合は、Bさん10%、CさんDさんでそれぞれ45%45%の程度。

その後に、長男Bさんより遺留分の訴えがあった(26年12月)

【質問】

現在、裁判継続中であるが、仮に判決が出た場合の相続税の申告のあり方と
資産の持ち分の考え方についてご指導ください。

あくまで仮ですが、長男Bさん20%、CさんDさんがそれぞれ40%40%のような
内容で判決が出た場合において、
公正証書遺言ではなく、裁判所の判決に基づいて相続税修正申告をすることと、
考えてよいでしょうか。

その場合、判決から申告までの期日は、10ケ月と考えるのでしょうか。

また、相続税の調整(相続税の全体額は変わらないと仮定して)は、
個々に、更正の請求(CさんDさん)が行うものとして、
Bさんが修正申告をすると考えてよいでしょうか。

勉強不足で恐縮ですが、上記の件、御指導のほどよろしくお願いします。

一旦、
遺留分に関する紛争が生じた場合の
相続税関係の処理について解説し
個別の質問に回答します。

紛争案件の相続税に関して、
実務上の注意点を「4」で記載しましたので、
ぜひ、ご参考になさっていただけると
嬉しいです。

1 遺留分減殺請求を受け財産が減少した者(Cさん、Dさん)の処理

この場合、相続税法32条1項3号に基づいて

Cさん、Dさんは、Bさんからの遺留分減殺請求
により、「返還すべきまたは弁償すべき額が確定した日の翌日
から4ヶ月以内に限り」
更正の請求をすることができます。

裁判中に和解が成立すれば、和解成立の日、
判決であれば確定日の翌日から
4ヶ月以内に更正の請求をするということに
なるでしょう。

2 遺留分減殺請求を行うことにより財産を取得した者(Bさん)の処理

Bさんとしては、修正申告をすることができます(相続税法31条1号)。

この場合、法定の期間制限はありませんが、
上記1(Cさん、Dさん)の更正の請求があり、
その請求を税務署長が認めた場合、
Bさんから修正申告がなされていなければ、

税務署長は、Bさんに更正をすることになります。
この場合の更正処分の期限は、1の更正の請求があった
日から1年経過した日と法定申告期限から5年を経過する日の
いずれか遅い日になります(相続税法35条3項)。

なお、Bさんが修正申告をした場合、
過少申告加算税は「正当な理由」があるものとして、
課税されません(通則法65条5項)。

また、延滞税については、申告期限の翌日から
修正申告書を提出した日までの期間は
計算の基礎には算入されません
(相続税法51条2項)。

3 ご質問への回答

>公正証書遺言ではなく、裁判所の判決に基づいて相続税修正申告をすることと、
>考えてよいでしょうか。

上記の通り、
裁判所の判決に基づいて、
各々、更正の請求、修正申告をすることになります。

>その場合、判決から申告までの期日は、10ケ月と考えるのでしょうか。

更正の請求は、判決の確定日の翌日から4ヶ月となります。

修正申告は、特に制限はないですが、上記の通り、
更正されることがあります。

>相続税の調整(相続税の全体額は変わらないと仮定して)は、
>個々に、更正の請求(CさんDさん)が行うものとして、
>Bさんが修正申告をすると考えてよいでしょうか。

はい。おっしゃる通りです。

実務的な話をすると、
相続税の全体額が変わらない
場合、税務署は何もいってこないので、
和解の場合には、
そのあたりも当事者(Bさん、Cさん、Dさん)
間で、和解の対象として、

更正の請求、修正申告はしない
というケースも比較的
多いかと思います(もちろん、判決の
場合はできませんが)。

4 実務上の注意点

相続に関して、紛争になると
弁護士さんが関与することになると
思いますが、税務のことは基本的に
考慮しない方が圧倒的多数なので、

税理士の先生方が知らないうちに
更正の請求期間が過ぎて
しまっていたというケースで
なんとかならないかという
ご相談を弊社にいただくことが
多くなってきています。

ですので、もし、弁護士さんに
お客様の相続案件をご紹介された
りする場合には、

弁護士さんに税務の関係があるため、
事件終了したらすぐ連絡してくれ
ということはお伝えになった方が
良いかと思います。

その他、実務上は遺留分紛争に対して、
和解がなされた場合、いずれにしても、
相続税の総額が変わらない前提であれば、
合意金額として相続税相当額も調整した上で行い、
更正の請求、修正申告をせずに終了させているケースもあります。
(法的に問題がない行為とは言えませんが、実務上
行われているという趣旨です。)

よろしくお願い申し上げます。