(事実関係)
○被害者甲(85歳)は、歩行中、交通事故に遭い、1年半にわたり、
入院生活を送りましたが、今年6月10日に死亡しました。
○加害者の保険会社からの損害賠償について、次の提示がなされています。
・被害者甲の過失割合0%
・傷害による損害として
治療費 170万円(すでに病院へ支払い済み)
雑費その他 36万円
慰謝料 300万円
・死亡による損害として
逸失利益 680万円 年金額260万円に対して生活費4割を控除した
0.6を乗じ、さらに5年生存するものとして
4.329を乗じた金額となっています。
慰謝料 1300万円
葬儀費 100万円
○上記提示がなされたのは、被害者甲の死亡後です。
○被害者の遺族は保険会社からの提示に納得せず、弁護士に依頼することも
考えています。
○相続人は、配偶者と子2人の3人です。
(質問)
○損害賠償金について、誰に帰属するかということは、決まっていますか。
といいますのも、もし例えば法定相続分で取得するにもかかわらず、子2人で
分けてしまうと、配偶者から子に贈与したことになってしまうからです。
あるいは、法定相続分ではなく、保険金の受取人が相続人となっている場合の
最高裁判決だったと思うのですが、相続人の頭数とか・・・。
⇒生命保険金の場合は、受取人以外の者が受け取ると、
受取人からその受取人以外の者に贈与したことになってしまいます。
○相続分を無視して、協議で配分することはできるのでしょうか?
○上記の保険会社の提示で終結する場合と、弁護士に依頼して終結する場合とで、
誰がいくら受け取るかの結論が変わってきますか?
お忙しいところ、申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
している部分を含むところの
ご質問ありがとうございます。
1 ご質問と結論
(1)損害賠償金が帰属するのは誰か?〜ご質問①〜
>○損害賠償金について、誰に帰属するかということは、決まっていますか。
損害賠償金は、
不法行為に基づく損害賠償請求権という金銭債権
として、各相続人に分割して相続されます。
その割合は、法定相続分に基づき、
配偶者:2分の1
子:4分の1ずつ
となります。
>もし例えば法定相続分で取得するにもかかわらず、子2人で
>分けてしまうと、配偶者から子に贈与したことになってしまうからです。
なお、
相続税務実務上は、相続税の対象とならないとされている
https://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4111.htm
(その法律的な根拠は明確でなく、どのような構成で
相続税の対象としないとしているのかは実は
明らかではありません。)
ことから、その後法定相続分と異なる割合で
分割などがされれば贈与税対象となるということは、
一応考えられますが、
民法上は相続対象になるものですので、
贈与税の対象とならないと反論することは
十分に可能ですし、実務上も税務署が
贈与税で更正などをするのは難しいと思われます。
(2)遺産分割協議の可否〜ご質問②〜
>○相続分を無視して、協議で配分することはできるのでしょうか?
金銭債権ではありますが、
相続人全員で、遺産分割の対象に含める合意があれば、
実務上、協議により配分を決めることも可能と
されています。
現時点で分割をされる場合には、
損害賠償金(請求権)の金額が確定していないので、
誰がどういう割合で受け取るかという
割合を定めることになるかと存じます。
(3)弁護士への依頼すべきか否か〜ご質問③〜
>○上記の保険会社の提示で終結する場合と、弁護士に依頼して終結する場合とで、
> 誰がいくら受け取るかの結論が変わってきますか?
受け取る総額(いくら)については、弁護士に
依頼した方が多くなる可能性が非常に
高いと思われます。
2 回答の理由
(1)損害賠償金が帰属するのは誰か?〜ご質問①〜
死亡事故により発生した損害賠償請求権は、
財産的損害(逸失利益など)
が相続されるのは当然ですが(大判昭和15年2月16日)、
非財産的損害である「慰謝料請求権」についても、
相続人に相続されるとされています(最高裁昭和42年11月1日)。
損害賠償金は、
不法行為に基づく損害賠償請求権という金銭債権
として、各相続人に分割して相続されます。
その割合は、法定相続分に基づき、
配偶者:2分の1
子:4分の1ずつ
となります。
相続税務実務上は、相続税の対象とならないと
されています。
https://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4111.htm
(実は、その法律的な根拠は明確でなく、
どのような構成で
相続税の対象としないとしているのかは
明らかではありません。
税務上は、そもそも相続財産と見ないという
構成なのか、それとも、
国民感情を考慮して実務上
相続税対象に含めないとしているのか
権利確定?的なニュアンスを持ち込んで
いるのか。
民法上の解釈から
1番上の相続財産と見ないという
構成は、かなり厳しいと思われますが。)
ですので、その後、法定相続分と異なる割合で
分割などがされれば贈与税対象となる
ということは、一応は考えられますが、
民法上は上記の通り、相続対象になるもので、
下記質問②の通り、実務上
金銭債権であっても、相続人
全員の同意があれば、遺産分割の
対象とするということも可能です。
ですので、
贈与税の対象とならないと反論することは
十分に可能ですし、実務上も税務署が
贈与税で更正などをするのは難しいと思われます。
(2)遺産分割協議の可否〜ご質問②〜
本来、交通事故による損害賠償請求権は、
金銭債権ですので、相続開始とともに、
法定相続分に従って、法定相続人に、
当然分割帰属するものとされています。
しかし、金銭債権について、
相続人全員で、
遺産分割の対象に含める合意があれば、
実務上、協議により配分を決めることも可能と
されています。
現時点で分割をされる場合には、
損害賠償金(請求権)の金額が確定していないので、
誰がどういう割合で受け取るかという
割合を定めることになるかと存じます。
(3)弁護士への依頼すべきか否か〜ご質問③〜
>○上記の保険会社の提示で終結する場合と、弁護士に依頼して終結する場合とで、
> 誰がいくら受け取るかの結論が変わってきますか?
受け取る総額は、弁護士に依頼した方が多くなる可能性が高いです。
一般的に、交通事故の損害賠償について、
保険会社は、弁護士が入る前は、
法的に認められる金額より
低い額を提示してくることがほとんどです。
死亡事故の場合、
差額も大きくなると思いますので、
ぜひ弁護士にご相談されることをお勧めします。
一方、受け取る割合については、
特別な取り決めがなければ、
法定相続分で受け取る(請求する)ことになります。
別途、分割協議などで割合が定められているのであれば、
その割合で受け取ることになります。
そういう意味では、保険会社の提示で終結する場合と
弁護士に依頼して終結する場合で、
割合に差はありません。
ただ、今後、受領するまでに、
遺産分割協議等で、
別途の割合を合意するのであれば、
その割合に変更になります。
よろしくお願い申し上げます。