相続 遺言

準禁治産者の相続人にいる場合

(前提)
被相続人A(母)
相続人B(長男・今回の申告の依頼者)
相続人C(二男)

Aは公正証書遺言を作成していて、「全財産をBに相続させる。ただし全財産の32%
にあたる金額に達するまでBはCに毎月20万円を支払う。Cが途中で死亡した場合以
降は支払わなくて良い」という内容です。負担付遺贈と考えています。また、遺言執
行人はBが指定されています。

相続人Cの戸籍を見ておりましたら、準禁治産宣言の裁判確定日、保佐人就職日、保
佐人が記載されておりました。保佐人は被相続人であるAです。Bからは、Cは判断
能力等は通常だが過去に浪費癖があったと聞いており、今回の遺言についても受け入
れているようです。

(質問)
従来保佐人であったAが亡くなって保佐人がいない状況と思われますが、この状況
で、

1.相続税の申告を行う際、Cに法定代理人等の選任が必要でしょうか?
2.遺産分割協議であれば法定代理人等の選任が必要と思いますが、遺言書がある場合
にも(その内容を確認させる意味などで)法定代理人等の選任が必要なのでしょう
か?

宜しくお願いします。

1 ご質問および回答

>1.相続税の申告を行う際、Cに法定代理人等の選任が必要でしょうか?
>2.遺産分割協議であれば法定代理人等の選任が必要と思いますが、遺言書がある場合
>にも(その内容を確認させる意味などで)法定代理人等の選任が必要なのでしょう
>か?

いずれについても、保佐人(法定代理人)の選任は不要で、
Bが単独で行うことができます。

なお、負担付相続させる旨の遺言を受けたBが、
遺言の約定により、その負担を履行(Cへの毎月20万円の支払い)しなければ、
Cにより、家庭裁判所に遺言取消しの請求をされる可能性がありますので、
ご注意ください。

2 回答の理由

(1)被保佐人が単独ではできない行為

被保佐人(C)は、民法13条1項1号~9号に掲げる行為をするには、
保佐人(法定代理人)の同意を得なければならないとされており、
同意なくして行った場合には、
その行為は取り消される可能性があります(民法13条4項)。

具体的には、以下の行為が対象になります。

①元本を領収し、又は利用すること。
②借財又は保証をすること。
③不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
④訴訟行為をすること。
⑤贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法 (平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項 に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
⑥相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
⑦贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
⑧新築、改築、増築又は大修繕をすること。
⑨第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。

なお、上記の①~⑨以外にも、
家庭裁判所の審判により、同意を要する行為を追加することができるとされています(民法13条2項)。
今回のケースでも、このような審判がなされていないかどうかは、
一応ご確認いただいた方がよいかとは思います(おそらくないとは思いますが)。

(2)相続税申告について

相続税申告については、
①~⑨の中で、特に問題になり得る規定はありません。
別途、民法13条2項で同意を要する行為として
指定されていない限り、C本人が単独で行うことができますので、
保佐人の選任は不要です。

(3)遺言に伴いBから20万円を受領することについて

今回のAの遺言は、厳密には、負担付相続させる旨の遺言にあたると考えられます。

①~⑨の中でいうと、
「⑥相続の承認」と
「⑦負担付遺贈を承認すること」が
問題となりそうに見えますが、結論としては
こちらも問題ありません。
以下、個別に見ていきます。

ア ⑥相続の承認について

今回は、相続放棄や限定承認をするわけではない
と思われます。
そうすると、期間の経過と
ともに、法定単純承認(自動的な承認)となるものと思われます。

この場合、被保佐人の意思表示などは介在しませんので、
保佐人の同意は不要です。

イ ⑦負担付遺贈を承認すること

負担付相続させる旨の遺言を承認するのは、Bであり、
Cではありません。

Cは、負担付遺贈の「負担部分」に基づいて、
Bから金銭を受け取るだけなので、
特に、C側から意思表示が必要となるわけではありません。

よって、⑦にはあたらず、また、その他に問題となる規定もありませんので、
Cは単独で、問題なく、Bから20万円を受領することができ、
保佐人を選任する必要はありません。

なお、ご質問とは離れますが、
Bが、遺言の約定に従い、Cに対して毎月20万円を支払わない場合には、
Cにより、家庭裁判所に遺言取消しの請求をされる可能性がありますので、
ご注意ください(民法1027条後段)。

よろしくお願い申し上げます。