質問がありまして、投稿しました。
【前提】
・法人Zの役員・株主(計4名)は以下の通り
A:代表取締役 497株保有
B:取締役 1株保有
C:取締役 1株保有
D:取締役 1株保有
・発行株式は上記の500株のみ
・Dは業務をきちんとこなせないことを理由に、昨年の7月ごろにやめてもらった
(口約束で特に書面はない)
・縁の切れたDがいつまでも取締役・株主でいるのは良くないと思い、
株の買い取り、取締役の辞任をお願いしようとしたところ、
連絡が取れなかった。
・AはDの夫と連絡が取れたのだが、DはDの夫からDVを受けたと言って、
シェルターに逃げてしまったため、夫もDと連絡が取れない
【質問】
この状況で
・Dの保有している株をAまたはZが引取る
・Dが法人Zの取締役でないようにする
ということをする方法はありますか?
よろしくお願いします。
(1)ご質問①~取締役から排除する方法~
>・Dが法人Zの取締役でないようにする
>ということをする方法はありますか?
株主総会の過半数決議で取締役Dを解任することにより、
Dの意思に関係なく、取締役の地位を失わせることができます。
(2)ご質問②~株主から排除する方法~
>・Dの保有している株をAまたはZが引取る
>ということをする方法はありますか?
いわゆるスクイーズアウト(少数株主の閉め出し)
の手法として、
◯支配株主による売渡請求を利用するスキーム
と
◯株式併合を利用するスキーム
が考えられます。
Aが90パーセント以上の株式を保有していることから、
あとはB、Cの協力さえ得られれば、
どちらのスキームでも対応は可能と考えられます。
ただ、どちらにもメリット・デメリットがあり、
また会社法上要求される手続が非常に複雑で、
作成する書類関係も特殊になりますので、
具体的に進められる場合には、
会社法を専門に扱っている
法律事務所にご依頼なさることを
強くお勧めします。
もちろん、弊社でも対応
可能ですので、いつでも
ご相談ください。
2 回答の理由
(1)ご質問 ①~取締役から排除する方法~
株主総会決議により、取締役Dを解任することができます(会社法341条)。
この場合の決議要件は、株主の過半数が出席し、
出席株主の過半数の決議により行うことができますので、
大株主のAが出席し、Aが決議に賛成すれば、決議は可能です。
このようにすれば、Dの意思に関係なく、
取締役の地位を失わせることができます。
(2)ご質問②~株主から排除する方法~
ア 支配株主による売渡請求を利用するスキーム
①支配株主による売渡請求(会社法179条)により、
B、C、Dの株式をAが取得し、その後
②AからBとCにそれぞれ1株ずつを株式譲渡することで、
A:498株
B:1株
C:1株
D:0株
という状況を実現できます。
①支配株主による売渡請求は、
90%以上の株式を持っている支配株主(今回のケースではA)が、
他の株主(今回のケースでは、B、C、D)から、
強制的に株式を買い取ることができる制度です。
大まかな手続の流れは、
・Aが、株式の取得日、買取代金の額等を決めて、法人Zに株式売り渡し請求をすることを通知
・法人Zにおいて、これを承認
・法人Zが、B、C、Dに対して株式の取得日の20日前までに、Aから売渡請求がされ、法人Zが承認したことを通知
・株式の取得日に、株式がB、C、DからAに移転
となります。
1点ご注意いただきたいのが、
法人Zにおいて売渡請求を承認する部分です。
この承認は
・法人Zが取締役会設置会社であれば、取締役会決議
・法人Zが取締役会非設置会社であれば、取締役の過半数の決定
により行うことになります。
Dが取締役を解任されていることを前提として、
取締役は、A、B、Cの3人のみとします。
この場合、
Aは株式を売り渡してもらう側
B、Cは株式の売り渡しを強制される側
となり、3人とも、今回の決議について、利益相反の関係にあることになると考えられます。
ですので、取締役会決議に参加できません(会社369条2項)。
また、取締役の過半数の決定で行う場合も同様と考えられます。
そうすると、決議を行う取締役がいなくなってしまいます。
解決策としては、このためだけに誰か1人を
株主総会で、取締役に選任して、
その方に決議をしてもらうという方法があります。
決議が終われば、その方には辞任してもらえばよいでしょう。
そうすれば、このスキームを実現できると考えます。
(ちょっと手続きは面倒にはなりますが。)
イ 株式併合を利用するスキーム
①株式併合(500株を250株にするなど)を行い、B、C、Dの株式を端数株式(1株に満たない株式)とし、B、C、Dの株式を処理する
②株式分割を行い、株式数をもとの500株に戻す
③AからB、Cに1株ずつを株式譲渡することで
A:498株
B:1株
C:1株
D:0株
という状況を実現できます。
特にご注意いただきたいのは、①株式併合についてです。
株式併合により生じた端数株式は、
競売にかけてAなどが取得し、競売によって得られた金額を端数株主に交付する(会社法235条1項)、
または、
裁判所の許可を得て法人Zが買い取るなどする(会社法234条2項)
のどちらかとなります。
どちらも裁判所が絡む点で、手続として重くはなります。
ウ まとめ
Aが90パーセント以上の株式を保有していることから、
あとはB、Cの協力さえ得られれば、
どちらのスキームでも対応は可能と考えられます。
ただ、どちらのスキームもメリット・デメリットがあること、
具体的に進めるにあたっては、会社法上の各手続(株主総会決議、取締役会決議、
株主宛通知、事前・事後開示書面備置等)を適法に行う必要があること、
対価が不相当な場合には、反対株主から価格決定請求、
差止請求、無効の訴え等がなされる可能性があることから、
会社法に強い専門家に相談しながら進めることがマストになります。
もちろん、弊所でもよいですし、
他の会社法関係の法務について知見のある事務所でもよいので、
相談しながら進められることをぜひおすすめします。
よろしくお願い申し上げます。