源泉徴収制度というのは、法律関係の主体として国(税務署長)、税を「徴収して納
付する」徴収義務者(法人を前提)及び税を負担する本来の納税義務者(個人)の3者が存在する中で、
所得税法上、国と直接債権債務関係に立つのは個人である納税義務者ではなく、
徴収義務者である法人となると思います。
徴収義務者の負う納税義務は、給与等の支払の際に成立即確定することとされてお
り、通常の申告納税制度とは異なり、自動的に確定するといえるかと思います。
弊所の関与先(法人)が支払っていた養老保険料が、役員の給与等と認定され、納税
告知処分を受け、所得税を国に納めました。
このとき、徴収義務者である法人は、本来の納税義務者である個人に対して、当然に
その納税告知額を請求することができるのでしょうか?
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所得税法第222条 前条の規定により所得税を徴収された者がその徴収された所
得税の額の全部又は一部につき第一章から第五章まで(源泉徴収)の規定による徴収
をしていなかつた場合又はこれらの規定により所得税を徴収して納付すべき者がその
徴収をしないでその所得税をその納付の期限後に納付した場合には、これらの者は、
その徴収をしていなかつた所得税の額に相当する金額を、その徴収をされるべき者に
対して同条の規定による徴収の時以後若しくは当該納付をした時以後に支払うべき金
額から控除し、又は当該徴収をされるべき者に対し当該所得税の額に相当する金額の
支払を請求することができる。この場合において、その控除された金額又はその請求
に基づき支払われた金額は、当該徴収をされるべき者については、第一章から第五章
までの規定により徴収された所得税とみなす。
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この条文が一つの根拠になるのかなと思うのですが、これ以外に、何か根拠になるも
のはありますでしょうか。
よろしくお願いいたします。
>徴収義務者である法人は、本来の納税義務者である個人に対して、当然に
>その納税告知額を請求することができるのでしょうか?
>所得税法第222条以外に、何か根拠になるも
>のはありますでしょうか。
はい。国、徴収義務者及び本来の納税義務者(個人)の
法律関係は、先生のご指摘の通りです。
(なお、「当然に」の意味に語弊があるかも
しれませんので、その部分は「2」を
ご覧ください。)
このあたりの法的性質を明らかにした
代表的な判例として、
最高裁昭和45年12月24日があります。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/176/053176_hanrei.pdf
(なお、蛇足ですが附帯税については、徴収義務者の責任
になりますので、除外されます。
民事法定利率の請求のみが可能です。上記判例参照。)
ご指摘いただいた所得税法第222条は、
その旨を規定したものですが、この規定が
なくとも、法律関係の性質上は、
支払請求が可能となるとされています。
ただし、なぜ所得税法第222条が
あえて規定されているかというと、賃金全額通過払いの原則(労働基準法24条1項)から、給与からの
強制控除はできないのではないか?
という疑問が生じるため、この点のケアも含めて、所得税法222条が存在しているという見方が有力です。
2 本来の納税義務者(個人)の納税義務範囲などを争う機会
先生のご質問の
>当然に
>その納税告知額を請求することができるのでしょうか?
「当然に」の趣旨として、
本来の納税義務者(個人)が納税義務の有無や範囲
について争う機会が与えられないのか?という
意味の場合には、
上記判例の記載の通り、
源泉徴収による所得税についての納税の告知
があったとしても、
民事(徴収義務者VS本来の納税義務者(個人))
の争いの中で、
源泉納税義務のないことを
本来の納税義務者が主張して、
支払いを拒む(控除の場合は、
損害賠償請求する)ことは可能として、
本来の納税義務者(個人)の権利
保障を図っています。
最終的には、
徴収義務者VS本来の納税義務者(個人)
の民事の裁判の中で、確定される
ことになります。
よろしくお願い申し上げます。