【概要】
・コンビニ本部の再編に伴い、店舗の統廃合(看板の掛け替え、改装のための休業)が予定されており
現在店舗を任せている店長に対し、解雇予告を行いました。(7月末日解雇、6月末日解雇通知)
・通知後、店長は有休消化のため現在まで店舗には出勤していません
・その後、店長から過去の未払残業代400万円(店長本人が算出)の支払を要求されました。
・労働基準監督署に相談したところ、店長は管理職に該当し、残業代は発生しないとのことでした。
・しかし、訴訟になるケース(その後和解で終結)も多いと聞きました。
【相談内容】
・未払残業代の支払義務の有無
・訴訟から和解に至った場合のおおよその相場(本人の昨年の年収は約400万円です。)
・解雇理由はコンビニ本部の再編によるものですが、これが不当解雇事由にあたらないか
以上です。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
(1)ご質問①~未払い残業代の支払義務~
>・未払残業代の支払義務の有無
支払義務があるかどうかは、
店長さんが「管理監督者」にあたるか
どうかがポイントになります。
判断基準等については、下記回答の理由をご参照ください。
いただいた事情のみでは、
該当性について確定的な判断はできかねますが、
一般的には、「管理監督者」に該当する範囲は限定的ですし
(なかなか認められない)、給与額が400万円とそれほど
高くないため難しいかなという印象です。
民事上の問題に関して、労基署が言っていたからといって、
裁判などでは、その通りにならないことも多いので、
ご注意いただければと思います。
もし、お客様にご希望があれば、メーリス会員さま及びそのご紹介先様の
無料相談もご活用いただければと思います。
(2)ご質問②~和解の場合の解決相場~
>・訴訟から和解に至った場合のおおよその相場(本人の昨年の年収は約400万円です。)
ア 残業代について
・管理監督者にあたるか
・残業代に関する証拠(タイムカードなど)が揃っているかどうか
によりますので、一般論として相場を申し上げるのは難しいです。
イ 解雇について(残業代は別)
解雇が無効であることを前提とした解決相場は、
統計等に基づく数字ではないですが、実務的な感覚からすると、
以下のような感じかと思います。
〇訴訟の場合
給与額の6か月分~1年分
〇労働審判の場合(裁判所で行う協議手続のようなもの)
給与額の6か月分前後
〇労働局のあっせん手続
給与額の1、2か月分ぐらいで、一般的には低額に収まる。
ただし、明確な解雇事案では、相手方がこのような手続を
使ってくる可能性は低いです。
(3)ご質問③~解雇の有効性~
>・解雇理由はコンビニ本部の再編によるものですが、これが不当解雇事由にあたらないか
解雇の有効性に関する判断要素は、
下記回答の理由をご覧ください。
有効性は、様々な要素を総合して判断されるので、
いただいた事情のみでは判断はできかねますが、
一般的には、解雇が有効とされるハードルは
相当高いです(なかなか認められない)。
ですので、解雇無効である可能性もある、
という前提で対応された方がよいかと思われます。
2 回答の理由
(1)ご質問①~未払い残業代の支払義務~
ア 管理監督者について
今回問題となるのは店長さんが
「管理監督者」(労働基準法41条2号)
にあたるかどうかだと思われます。
これは、「労働条件の決定その他労務管理について
経営者と一体的な立場にある者」などと定義されますが、
ざっくり言うと、従業員ではあるけれども、
ほぼ経営者としての立場にあったような人を言います。
このような立場の人は職責の重要性から、
時間外労働が余儀なくされますし、
また、自分自身で労働時間をコントロールすることができるので、
残業代の対象としなくてもよいという考え方の下、作られている制度です。
「管理監督者」にあたれば残業代の支払義務はないですが、
当たらなければ、これまで残業を行った分の残業代の支払義務
が発生します。
なお、いわゆる「管理職」と呼ばれる人が、
必ずしも「管理監督者」に該当するわけではなく、
以下のような要素によりその該当性が判断されます。
イ 判断要素
実際には、様々な要素を検討し総合して判断することになりますが、
ポイントとなるのは、以下の3点です。
①職務内容、権限および責任の重要性
・事業経営に関する決定過程にその程度関与しているか
・他の従業員と同様の現場業務を行うのに
どの程度の時間を割かれていたか
・他の従業員の採用・人事評価・解雇等に関する
決定権限があったか、
・他の従業員の労働時間管理の権限
(シフトの作成・時間外労働の指示の権限)の有無など
②本人の勤務態様(労働時間の裁量・労働時間管理の有無、程度)
以下のような事情を考慮して、
自分の労働時間を自分の裁量で決定できていた
といえることが必要です。
・労働時間が会社所定の就業時間に拘束されていたか
・労働時間の管理がタイムカードなどによりなされていたかどうか
・遅刻、早退等をした場合には、減給があったり、人事評価において
不利益な取り扱いがなされていなかったか
③賃金等の待遇
・給与(基本給、役職手当等)また賃金全体において、
職務内容、権限および責任に見合った待遇がなされていたか。
・他の従業員のと比較において、給与額にどの程度の差があったか
・給与額自体の高低
(管理監督者としての職務内容、権限に見合ったものであったかどうか)
ウ ご質問のケースでは
いただいた事情のみからでは、「管理監督者」に
あたるかどうかは判断しかねるところではありますが、
「管理監督者」に該当するとされるのは
比較的狭い範囲の方に限定されています(なかなか認められない)。
今回の事情の中だと、年収約400万円という点について、
もちろん他の従業員さんとの比較もありますが、
「管理監督者」として見合うだけの待遇を受けているというのは、
なかなか難しいのではないかという印象です。
(2)ご質問②~和解の場合の解決相場~
まず、総論として、訴訟での和解では、
「判決が出た場合にどの程度の請求額が
認められる可能性があるか」
が和解金額の大きなポイントになります。
ア 残業代に関しての和解金
残業代に関していえば、
・タイムカードなど実際に残業したことの証拠がしっかりとそろっているかどうか(残業の証明ができるか)
・管理監督者にあたるか
が今回のポイントになると思われます。
「管理監督者」の該当性は、上記のとおりなかなか厳しいのが一般的です。
ですので、残業に関する証拠がしっかりと揃っているのであれば、
請求金額(今回は相手方算定で400万円でしょうか)に近い金額にもなりますし、
証拠がとても弱いというケースだと、相当低額になるケースもあります。
歯切れが悪く申し訳ないですが、和解金額は、
どの程度証拠が揃っているかに依存する部分が大きいです。
イ 解雇に関しての和解金
上記と同様、まずは、相手の請求が認められる(解雇が無効の)
可能性がどの程度あるかによりますが、
一般的に解雇が有効とされる事案は極めてまれです。
ほとんどのケースでは解雇無効(不当解雇)になりますので、
以下では、解雇が無効であることを前提に解決相場についてご説明します。
なお、和解金額はその他さまざまな事情で変わってきますので、
あくまで一般論である点はご留意ください。
解雇が無効であれば、理論的には、
解雇日から和解日までの間に未払給与が発生します。
判決になった場合、この給与相当額を支払え、
ということになるので、解決までに時間がかかればかかるほど、
支払額は膨らんでいきます。
〇訴訟の場合
訴訟になれば、解決までに1年程度はかかるのが一般的なので、
和解額もそれに見合った金額になることが多いです。
一般的には給与額の6か月分~1年分が相場になるかと思います。
〇労働審判の場合(裁判所で行う協議手続のようなもの)
労働審判になった場合には、訴訟より期間は短く終わります。
だいたい、労働審判の申立てがあってから3、4ヶ月程度で解決まで至ります。
その場合は、給与の6か月分前後が相場と言われています。
〇労働局のあっせん手続
労働局が行っている解決あっせん手続では、すぐに解決まで至るので、
給与額の1、2か月分を支払っておしまいになるということもありますが、
明確な解雇事案では、相手方がこのような手続を使ってくる可能性は低いです。
(3)ご質問③~解雇の有効性~
ご質問の事情を見る限り、今回の解雇は、
店長側の事情によるものではなく、
会社側の経営上の理由によるものなので、
いわゆる「整理解雇」と呼ばれる類型と思われます。
ア 整理解雇が有効か無効かの判断要素
以下のような要素を総合して、その有効性が判断されます。
(ア)人員削減の必要性があったかどうか
店舗が完全になくなってしまうということであれば、
人員を削減する必要があると言えますが、
いったん改装のため休業しているだけで
再開の予定があるということであれば、
人員削減の必要性があったといえるかどうか
微妙なところです。
(イ)解雇回避措置の相当性
解雇を回避するため、
他の経営上の努力が尽くされているかどうか
というポイントです。
解雇回避措置としては、
一定程度の金銭的な補償を
提示した上で自主退職を促したかどうかや、
他店舗への移転などにより雇用を継続していくことが
できなかったのかなどの点が問われることになるか
と思われます。
(ウ)人選の合理性
本当に解雇の対象者がこの人で適切であったのか、
という視点です。
今回、店舗に所属する人を全員解雇(自主退職含む)
にしたということであれば、
「廃止店舗の従業員」という解雇対象者の選定は
適切である可能性は高いかと思います。
ただ、よくあるのは、整理解雇という理由ではあるが、
特定の従業員を解雇するために狙い撃ちにしたという事案では、
人選の合理性がなかったという判断になることが多いです。
(エ)手続の相当性
今回の解雇について、十分な説明が複数回にわたり行われたか
どうかということが問われることになります。
この点で引っかかって解雇は無効となってしまう事案も多いです。
イ ご質問のケース
いただいた事情のみからでは、解雇が無効であるかどうかの
判断は難しいところですが、
一般的に、解雇の要件がすべて揃っていて、
完全に有効であるという事案は稀です。
ですので、解雇は無効である可能性もある、
という前提で対応された方がよいかと思います。
ただ、解雇が完全に有効であるということは
いえないまでも、
会社側に解雇に関して、一定の理由がある場合には、
相場より低額で和解に至るということもあります。
よろしくお願い申し上げます。