質問1
贈与者で意思はありますが高齢で字を書くのが困難のため少しでも記載を減らすために
上記の契約の証として本書を作成し、贈与者甲はその写しを受贈者乙がその原本を保有する。
として原本は1通にすることに対しての問題はありませんでしょうか?
そうすると通常2通記載するのが1通になれば贈与者の記載作業が減るので提案したいです。
(売買契約書でもお互いがよければ印紙税の節約のため1通しか作成しないことが
あるためお互いのトラブルにならなければ個人的には問題はないと考えています。)
質問2
仮に今は字が書けますが、意思はあるけど字を書くのが困難になってしまった場合には
どのような対応が一般的なのでしょうか?
手を添えて記載する行為は法律的にはグレーなのでしょうか?
よろしくお願いします。
で回答いたします。
1 ご質問および回答の結論
(1)ご質問①
>質問1
>贈与者で意思はありますが高齢で字を書くのが困難のため少しでも記載を減らすために
>上記の契約の証として本書を作成し、贈与者甲はその写しを受贈者乙がその原本を保有する。
>として原本は1通にすることに対しての問題はありませんでしょうか?
>そうすると通常2通記載するのが1通になれば贈与者の記載作業が減るので提案したいです。
>(売買契約書でもお互いがよければ印紙税の節約のため1通しか作成しないことが
>あるためお互いのトラブルにならなければ個人的には問題はないと考えています。)
先生のご指摘の通り、特段問題はありません。
(2)ご質問②
>質問2
>仮に今は字が書けますが、意思はあるけど字を書くのが困難になってしまった場合には
>どのような対応が一般的なのでしょうか?
>手を添えて記載する行為は法律的にはグレーなのでしょうか?
字が書けないということであれば、
署名ではなく、記名(住所・氏名を印字)にして、
実印で本人が押印しておくというのがよいかと思います。
また、このようなケースでは、争いになった場合に備えて、
贈与の意思があること、贈与する理由などを本人が話している様子や、
実際に契約書に押印をする様子などをビデオで撮影しておき、
本人が真に贈与する意思があったこと、本人が印鑑を押したことを、
証拠として残しておいた方がよいでしょう。
2 回答の理由
(1)ご質問①
契約書の原本をお互いが持っておくのは、後に争いになった場合に、
原本の方が証拠力が高いと考えられているからです。
写しだと、原本の内容をそのまま反映しているかどうかに、
一応の疑義があります。
(原本の中の一部を隠してコピーすれば、その部分はなかったように
して作成することも可能です。)
とはいっても、実際の裁判では、写しも原本も証拠としての扱いに
それほど大きな違いはありませんので、
片方が写ししか持っていないことが不自然でなければ(一定の理由があれば)、
写ししか持っていないことについて、特に問題となることはないでしょう。
(2)ご質問②
ア 契約書に署名することの意味
裁判で契約書を証拠として使うためには、
契約書が作成者(本人)の意思に基づいて作成されたことを
証明しなければなりません(民事訴訟法228条1項)。
そして、契約書に、本人の署名または捺印があれば、
その署名・捺印をした人の意思で文書を作成したことが推定されます(民事訴訟法228条4項)。
契約書に署名をしておくというのは、法律上は、このような効果があります。
ただ、「署名または捺印」なので、契約書には絶対に署名がないといけないわけではなく、
捺印でも大丈夫です。
ですので、署名ではなく、住所・氏名などは印字しておき(記名)、
本人に印鑑を押しておいてもらえばよいかと思います。
(もちろん、後に争いになった場合を想定すると、本人の署名もあった方が望ましいです。)
また、このような争いになる可能性がある場合には、印鑑は実印にしておくべきです。
認印だと、本当に本人の印鑑かどうかの証明がしづらいですが、
実印であれば、印鑑証明書と整合することで、本人の印鑑であることが
確実に証明できます
イ ビデオなどで証拠を残しておく
状況にもよりますが、高齢で字も書けない状態の方が贈与をするということだと、
後に相続の際に、他の相続人から、
親族が無理やり本人に契約書を作成させたのだ、などと、
争いになる可能性が比較的高いです。
そのような場合に備えて、
贈与の意思があること、贈与する理由などを本人が話している様子や、
実際に契約書に押印をする様子などをビデオで撮影しておき、
本人が真に贈与する意思があったこと、本人が印鑑を押したことを、
証拠として残しておいた方がよいでしょう。
ウ 意思能力(蛇足)
贈与契約は、契約である以上、本人に「意思能力」
(自分の行為の結果を判断することができる能力(契約の意味を理解できる能力))
が必要になります。
仮に高齢で字が書けない状態であれば、意思能力にも問題がある可能性があります。
未成年者の場合は、7歳ぐらいから意思能力が備わりだすといわれています。
また、意思能力の有無は、締結する契約の内容の複雑さや、
対象となる契約の金額などによっても異なってきます。
高齢者の意思能力について、まず重視されるのは、
診断書などの医学的な診断です。また、
契約内容の複雑さや財産額なども考慮の対象とされます。
さらに、今回は、贈与契約で、自分は何の利益も得ず、
相手に利益を得させる(一方的に自分が不利な契約)ので、
他の類型の契約に比べ、意思能力の有無は慎重に判断されることになるかと思います。
この点も、ご注意いただければと存じます。
よろしくお願い申し上げます。