ネットで見る限りなさそうです。
質問1
大家さん側から見た考え方ですが、
退去時に店舗の店子が退去した際の原状回復費は徴収することはできないものでしょうか。
立ち合いをした管理会社の力量によると思われますが、実務上は徴収できるものでしょうか。
またはできるものとしてどようような項目、状況だと徴収できやすくなるのでしょうか。
質問2
仮に徴収できるものとした場合に管理会社が知識がない、怠慢などにより徴収できない場合は
管理会社からお金を大家さんは徴収できる権利はあるものでしょうか。
ただし、仮にあったとしても大家さんで見積もりすることができる人は少ないので工事を見積
書を依頼して、その項目の中から一部でも管理会社に負担させることは可能でしょうか?
若しくは、退去精算した後からでも退去した店子から間違っていたとすることは信義則から
できないものでしょうか?
参考URL
http://www.chusho.meti.go.jp/faq/jirei/jirei015.html
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf
(1)ご質問①~原状回復費用を店子に請求できるか~
>質問1
>大家さん側から見た考え方ですが、
>退去時に店舗の店子が退去した際の原状回復費は徴収することはできないものでしょうか。
>立ち合いをした管理会社の力量によると思われますが、実務上は徴収できるものでしょうか。
>またはできるものとしてどようような項目、状況だと徴収できやすくなるのでしょうか。
契約に原状回復に関する定めがある場合には、
それに従い、負担することになります。
原状回復の定めがない場合には、
いわゆる「通常損耗」と呼ばれる範囲は大家(賃貸人)負担、
それ以外は、店子(賃借)負担(店子に請求できる)と考えられます。
どの範囲までが「通常損耗」なのかは、
使用の態様や劣化の程度、使用年数など、
様々な要素により異なるため、最終的には、
裁判官の判断によるところが大きいです。
ただし、ご指摘の通り、営業店舗用の建物には
適用がないものの、国土交通省による原状回復義務
のガイドラインは実務上は、営業店舗用でも
考え方の指針になっている部分があるので、
ご参考にしていただけると思います。
上記の通りですので、契約段階で、しっかりと
緻密に契約書を作成することで、リスクヘッジ
をするということが、最善の策ということになります。
(2)ご質問②~原状回復費用を管理会社に請求できるか~
>質問2
>仮に徴収できるものとした場合に管理会社が知識がない、怠慢などにより徴収できない
>場合は
>管理会社からお金を大家さんは徴収できる権利はあるものでしょうか。
>ただし、仮にあったとしても大家さんで見積もりすることができる人は少ないので工事>を見積
>書を依頼して、その項目の中から一部でも管理会社に負担させることは可能でしょう
>か?
原状回復費用の一部を管理会社に負担させることは、難しいでしょう。
>若しくは、退去精算した後からでも退去した店子から間違っていたと
>することは信義則からできないものでしょうか?
店子からの不当利得返還請求が考えられます。
これが「信義則に反する」ということは考えにくいですが、
精算したことにより、当事者間に店子が負担するという合意
が成立していれば、「不当利得」にはならないという論理は
考えられます。
2 回答の理由
(1)ご質問①~原状回復費用を店子に請求できるか~
以下、長くなりますが、便宜上、
(法律上の前提)
ア 原状回復費用を請求できる法律上の根拠
イ 原状回復義務の範囲
↓
(今回のケースについて)
ウ ご質問への回答
の順で回答いたします。
ア 原状回復費用を請求できる法律上の根拠
賃貸借契約の終了時に、
店子には原状回復義務(民法616条、597条1項参照)があり、
本来、原状回復は、店子側で行うべきものです。
これを、大家がかわりに行った場合には、その費用を
店子に請求できることになります。
これが、先生のおっしゃっている原状回復費用の返還請求です。
問題は、店子が負っている原状回復義務の範囲は、
どこまでか(大家はどこまで請求ができるのか)ということです。
この点について、よくトラブルになります。
イ 原状回復義務の範囲
(ア)総論
原状回復の範囲について契約に定め(特約)がある場合には、
基本的にはその定めた範囲で
原状回復の範囲が決まることになります。
契約に定め(特約)がない、または、
定めはあるが内容が抽象的でどこまでの原状回復義務があるかが不明確、
という場合には、その範囲は法律により決まります。
(イ)契約の定めがある場合
営業店舗用の建物の場合には、基本的に
契約に定めた方が負担することになります。
法律の規定より、契約による当事者の合意の方が
優先されるためです。
(ウ)契約の定め(特約)がない、または不明確な場合
上記のとおり、原状回復費用を請求できるかどうかは、
契約の定めがない場合には、法律により決まります。
この点について、法律上の明確な規定はありませんが、
判例上、以下のように考えられています。
原状回復とはいっても、法律上、
店子は「借りたままの当初の状態」にしなければいけ
ないわけではなく、店子の原状回復の範囲は、
いわゆる「通常損耗」と
呼ばれる範囲は除かれる。
「通常損耗」とは、時とともに劣化していく部分や、
通常の使用に伴って汚損・破損が発生する部分であり、
この範囲については、店子は原状回復をしなくてよいと
ということです。
建物は通常使用していれば、時とともに古くなり、
壊れていくので、そのような自然に価値が落ちていく部分まで
店子に修繕させるというのは、大家に有利すぎるので、
この部分は、大家が負担してくださいという考え方です。
この店子が負担しなくてよい「通常損耗」がどの部分なのか
が不明確なので、国土交通省がガイドラインを設けて、
この範囲までなら負担しなくていいという
一定の具体的な基準を示しているのです。
なお、これはあくまで行政が出しているガイドラインなので、
法的な拘束力はなく、裁判にもっていったらこれとは違う結論になる
ということもありうるところです。
ただ、国土交通省による原状回復義務のガイドラインは、
ご指摘のとおり、住宅に関するものなので、
営業用店舗の賃貸借の場合には、適用されません。
また、店舗について定めたガイドラインはありませんので、
「通常損耗」の範囲内かどうか、という法的な判断に基づき、
どちらが負担すべきかが決まることになります。
ウ ご質問への回答
(ア)今回の契約に原状回復に関する定めがある場合
営業用店舗等の賃貸借契約では、ほとんどの場合、
賃貸借終了時の原状回復に関して、
特約で定めています。
一般的には、「通常損耗」の範囲も含めて、
店子が原状回復義務を負うことを定め、
店子が行うべき工事の内容等を、明確に定めている
ものも多いかと思います。
この場合には、特約で定められた範囲で原状回復義務が認められ、
かわりに大家がこれを行った場合には、
その費用を店子に請求できることになります。
要は、契約内容に従って、定められた範囲で請求ができる
ということです。
(イ)今回の契約に原状回復に関する定めがない場合
上記のとおり、原状回復に関する特約がない場合、
原状回復費用を請求できるかどうかは、
その修繕した部分が、
「通常損耗」の範囲かどうかにより決まります。
なので、原状回復として、大家が工事を行ったからといって、
全額請求できる、または、
全額請求できないというものではありません。
使用の態様や劣化の程度、使用年数など、
様々な要素により異なるため、
一概にどの範囲が「通常損耗」の範囲内なのか、
明確ではありません。
ただ、国土交通省による原状回復義務のガイドラインは、
営業店舗用の建物についても参考になり、実務上
原状回復の範囲は、同ガイドラインと
そこまで大きくはズレないと思われます。
このガイドラインは、
営業店舗用の建物には適用はありませんが、
「通常損耗や経年劣化によるものは店子の原状回復の範囲ではない」
という考え方の下その内容を具体化したものなので、
その考え方は共通するところがあるからです。
ですので、実務上は、まずは、
このガイドラインを参考にし、
大家が負担すべきか、店子が負担すべきか
を考えていくということになるかと思います。
(2)ご質問②~原状回復費用を管理会社に請求できるか~
>質問2
>仮に徴収できるものとした場合に管理会社が知識がない、怠慢などにより徴収できない>場合は
>管理会社からお金を大家さんは徴収できる権利はあるものでしょうか。
>ただし、仮にあったとしても大家さんで見積もりすることができる人は少ないので工事>を見積
>書を依頼して、その項目の中から一部でも管理会社に負担させることは可能でしょう
>か?
管理会社と大家の契約がどのようになっているか
にもよるところですが、
基本的には、管理会社は、大家にかわって工事の
依頼を行っているにすぎません。
工事費用も、本来、大家が負担すべきもので、
管理会社がこれを一時的に負担しているだけなので、
大家に対して全額請求することができます。
ですので、管理会社に一部を負担させることは、
法律上は難しいでしょう。
(もちろん、契約でそのようなことが定められていれば別ですが。)
なお、管理会社の手落ちにより店子から徴収できなかった分を、
管理会社に請求する(一部負担してもらう)ということも考えられますが、
これも難しいと考えます。
店子から回収できなかったとしても、
それが管理会社のミスだというのは難しいですし、
また、店子が負担しないというのであれば、
最終的には、管理会社ではなく、
大家自身が訴訟等により、回収すべきものだからです。
これを管理会社の責任であるとするのは難しいでしょう。
>若しくは、退去精算した後からでも退去した店子から間違っていたとすることは信義則から
>できないものでしょうか?
法律上、店子が負担すべきでない費用を負担した
ということであれば、払いすぎた分を、
不当利得返還請求として、
退去精算後に返還を求めることはあり得ます。
この請求が認められるかどうかも、結局は、
店子が、契約上または法律上、
本来負担するべき原状回復費用だったのかどうかの
問題になります。
この請求が「信義則に反する」ということはあまりないとは
思いますが、精算したことにより、
当事者間で、店子が負担するという
合意が成立したとして、「不当利得」にならない
という論理はあるかと思われます。
よろしくお願い申し上げます。