相続

相続放棄と法定単純承認について

【質問事項】

支払委託書を金融機関に提出したことにより、
民法921条(法定単純承認)に該当し、
相続放棄が認められない可能性があるでしょうか?

【前提】

・個人事業者である母が死亡(7/3)
・法定相続人は子3名のみ(長男が母と一緒に小売業を行っていた)
・母は金融機関より多額の事業用資金の借入をしている
・長男以外の法定相続人2名は相続放棄を検討している
・長男は事業を継続したい
・金融機関から法定相続人3名に対し、支払委託書に自署押印を求められている

●支払委託書の内容抜粋

被相続人が生前当座勘定取引契約にもとづき振出(引受)した
下記小切手、手形の支払呈示があった場合には、
同人死亡による取引契約の終了にかかわらず、
お支払いいただきたく、支払資金を添えて依頼します。
なお、後日これに関し何らかの問題が生じましても、私どもが連帯してその責任を負います。

・約束手形・・・記番号 金額 振出日 支払日
・小切手 ・・・記番号 金額 振出日 支払日

【補足】

①相続人による準確定申告を行う(単純承認をするという意思表示)
②準確定申告により被相続人の所得税が還付される(相続財産の処分)
 行為が、単純承認をしたものとみなす見解があるため、
 支払委託書の提出行為も同様の見解になるかどうか不安に思っております。

宜しくお願い致します。

1 ご質問と回答の結論

>支払委託書を金融機関に提出したことにより、
>民法921条(法定単純承認)に該当し、
>相続放棄が認められない可能性があるでしょうか?

法定単純承認に該当する可能性が高い行為です。
少なくとも、長男以外の2名は相続放棄を
検討中は支払委託書の提出は控えられた方が
良いかと存じます。

なお、対応方法としては、一旦
長男の固有財産からの支払いをするという方法があります。

2 理由

(1)相続債務の弁済が法定単純承認事由に該当するのか

相続債務の弁済については、弁済行為それ自体は、
民法921条1号のただし書きの「保存行為」に該当し、
法定単純承認の事由にはなりません。

ただし、諸説あるところではありますが、
過去の裁判例等から、
「相続財産」(例えば被相続人の預金等)
からの弁済した場合には、
「相続財産の・・・処分」
ということで、単純承認にあたるというのが
実務上の考え方となっています。

ですので、この支払委託書の
委託内容として、相続財産から
弁済してくださいという趣旨
のものであれば、

相続財産の処分権を金融機関に
与えてしまっていますので、
法定単純承認に該当する
可能性が高いです。

なお、実務上、相続財産ではなく、
相続人自身の固有の財産からの
弁済の場合には、法定単純承認
に該当しません。

支払委託契約書の内容抜粋より、
「【支払資金を添えて】依頼します。」
となっている点から、相続人の
固有財産からの弁済の可能性
もあるかとも思いましたが、

相続人の固有財産からの支払いであれば、
法定相続人全員ではなく、
実際に弁済される方がお金を払う
ということになりますので、

>法定相続人3名に対し、支払委託書に自署押印を求められている
というのは不自然ですので、
その意味でも、支払委託書の
提出は、控えられた方が良いでしょう。

(2)対応方法

長男は、相続放棄をせずに、事業を
引き継がれるということですので、
一旦、長男の固有財産から支払いをするという
方法を銀行にご提案するということが
良いかと思われます。

よろしくお願い申し上げます。