A夫妻が離婚することになり、
下記自宅物件を、居住し続ける妻に譲渡することで合意したのですが、
財産分与か売却か、あるいは別のスキームがあるのか、悩んでおります。
取得日 土地=平成25年4月 建物(新築)平成26年4月
取得価格 土地6570万円、建物2940万円
持分割合 各50%
住宅ローン残高(連帯債務) 6800万円
●質問1
現在の時価を8000万円程度と想定して、
住宅ローン(連帯債務)残高が6800万円ありますので、差引1200万円の財産です。
所有権を妻に移転して、妻が居住し続けるとなると、
財産分与としては、夫の持分50%相当の600万円を妻から夫に支払う必要があると考えています。
これを支払わない場合、財産分与とは認められず、
この600万円が、贈与と認定されるリスクはありますでしょうか?
●質問2
今後のローン返済は奥様が実行(負担)するとした場合、
実質的に、ローン残高の50%に相当する3400万円は、夫の妻に対する債務と考えられますが、
現状では連帯債務のままであって、上記600万円との関係をどのように考えれば良いでしょうか?
不動産取得税を考えると、財産分与で行きたいとは思うのですが、
贈与と認定されるリスクが大きければ、売却という選択肢も考えております。
どのようなスキームがよろしいか、ご教示ください。
あり、その部分も含めた意味で「贈与」という言葉を使用
されているかと思いましたので、
その前提で、回答いたします。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)
相続税法第7条 著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があつた時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価(当該財産の評価について第三章に特別の定めがある場合には、その規定により評価した価額)との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与(当該財産の譲渡が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
なお、こちらの規定では、「譲渡」とされており、
譲渡の原因が、売買なのか、財産分与なのかは
問題にされていませんので、契約内容のみでなく
実態面が考慮されます。
1 ご質問1について
(1)質問
>所有権を妻に移転して、妻が居住し続けるとなると、
>財産分与としては、夫の持分50%相当の600万円を妻から夫に支払う必要があると考えています。
>これを支払わない場合、財産分与とは認められず、
>この600万円が、贈与と認定されるリスクはありますでしょうか?
(2)回答
ア 財産分与の1/2の意味
財産分与の場合、財産分与の計算対象財産全体
(婚姻生活中に夫婦で協力して築き上げてきた財産)
を基準に判断されます。
自宅物件の持分だけではなく、対象財産全体の中で、
約1/2ということになりますので、
全体から見てどのくらいかを一度ご確認いただければ
幸いです。
例えば、夫の方が稼ぎが良く預金がある場合には、
妻との預金の差も考慮に入れた上で、600万円
相当の自宅物件持分を妻に渡した代わりに、
夫が妻に分与すべき預金が600万円以上あるの
でしたら、そもそも問題ありません。
つまりは、財産分与が
財産分与義務の消滅と財産の移転が対価関係
にあるということであれば、贈与とされる
ことはありません。
イ 贈与と認定されるリスク
上記の通り、そもそも計算対象財産全体から考えなければ、
なんとも言えないところです。
ただ、財産分与の趣旨としては、大別して、
①清算的財産分与(夫婦が婚姻中に形成した財産の清算ため)
②扶養的財産分与(離婚による困窮する配偶者への扶養のため)
③慰謝料的財産分与(相手に対する慰謝料的な意味)
等々様々な要素から判断されます。
どのような経緯で離婚されたのかも関連しますので
あくまで一般論になってしまいますが、
1/2とは、①の意味ですので、自宅物件に、
妻が居住し続けるため扶養的な意味も含めて考えることも
可能かと思いますので、対税務署との関係で言えば、
1/2と多少ずれている程度(大きくかけ離れていなければ)
では、贈与と認定されるリスクは、高くはないかと思います。
もちろん、指摘されれば適切に反論する必要はありますが、
なぜ、その金額になったのかについて、合理的な説明ができれば良いのではないかと思われます。
タックスアンサー
https://www.nta.go.jp/taxanswer/zoyo/4414.htm
を見ても、「すべての事情」(単純な金額ではない)
を考慮した上で、多過ぎる部分としているのも
その趣旨からだと考えられます。
立証面も含めて、簡単には更正できないでしょう。
なお、リンク先の下にある「3114」も念のため
ご確認ください。
ただし、繰り返しになりますが、
財産分与の計算対象財産全体から計算し、そのほかの
事情を考慮しても、
そもそも分与義務がない、あったとしても
600万円と比べてあまりにも
かけ離れているという事例では、リスクが残りますので、
まずは、財産分与の計算対象財産全体を
ご確認ください。
2 ご質問2
(1)ご質問
>売却という選択肢も考えております。
>どのようなスキームがよろしいか、ご教示ください。
(2)回答
税務の問題は別として、
離婚に伴う財産分与ケースにおいて、「売買」等
他のスキームを利用されるということですと、
法務的にいうと、
夫が財産分与請求に応じる義務が消滅しないことに
なります。
そうすると、
離婚成立後、どちらか(一般的には妻)から
財産分与請求があった場合、改めて紛争が顕在化
するおそれがあり、離婚に伴い財産を移転する意味
合いがなくなってしまいます。
なお、もちろん、この売却の合意の真の合意内容は、
財産分与だったという主張・立証をして、分与義務を
免れるという主張をするということになると思われますが、
これは、税務上も同じ議論(売買を仮装した財産分与の合意)
になりえます。
ですので、計算対象財産全体からして、分与義務が
そもそもないとか、あるとしても、かなりの低額(あとで
夫が払えと言われても別に良い金額)でない限り
他のスキームで調整
というのは、当事者の合意の意味が
なくなってしまうと思われます。
なので、質問1との兼ね合いで、
売買とするという意向であれば、
財産分与義務の調整(代償)として、
妻から夫に一定の金額を
支払うということの方が
良いかと思います。
冒頭の相続税法第7条からすると
譲渡の原因が形式的に何であったら問題ない
というものではなく、あくまで実態で
判断されます。
もちろん、そもそも
分与義務がない、あったとしても
かなりの低額(あとで夫が払えと言われても別に良い金額)
であれば、売買とすることに問題はないかとは思います。
3 その他のご質問(連帯債務の扱い)
(1)ご質問
>ローン残高の50%に相当する3400万円は、夫の妻に対する債務と考えられますが、
>現状では連帯債務のままであって、上記600万円との関係をどのように考えれば良いでしょう
>か?
(2)回答
今回の財産分与の内容を、法律的な条項として整理すると
①自宅物件の夫持分1/2を、財産分与として妻に譲渡する
②銀行に対するローンは妻が全額負担(返済)するものとし、
夫がその返済をしたときは、返済金額全額に
ついて妻に請求することができる
(③妻が夫に対して、財産分与として600万円を支払う)
という趣旨の内容になると思われます。
②について、対銀行との間では、現状、
夫と妻との連帯債務になってはいますが、
妻が全額負担すること、夫が銀行に返済をした
場合には(連帯債務なので、銀行は夫にも請求できる)、
その分を妻に請求できるという内容にしておけば、
その実質は、全額6800万円が妻の債務と考えてよいと思われます。
よろしくお願い申し上げます。