不動産 民法

宗教法人の土地の時効取得などについて

事実関係などはっきりせず、ざっとした質問になってしまって恐縮ですが、
土地の時効取得について教えてください。

(前提)
・宗教法人Aは、宗教法人Bが墓地として使用している土地を所有している。

・宗教法人Aは、当該土地を貸している認識はなく、宗教法人Bが不当に使用していると考えている。

・先代の頃(おそらく50年位前)から、現在の状況が続いている。

・5年くらい前に、Aが現状に気付いて、AB間で話し合いを行ったが、平行線のまま、何も進展していない。
(20年の期間等は完全に満たしているという前提で結構です。)

・当該土地の固定資産税等は宗教法人Aが支払っている(非課税ではない部分のものだと思われる)。

(質問)
・宗教法人Aはできれば当該土地を取り戻したいと考えておりますが、
宗教法人Bが拒否している現状では、取り戻すのは難しいでしょうか。

・固定資産税を負担しているところあたりから攻めることはできないでしょうか。

・そもそもAは今後どう動くのが得策なのでしょうか。

ざっとした質問で恐縮ですが、宜しくお願い致します。

1 ご質問及び回答の結論

>(質問)
>・宗教法人Aはできれば当該土地を取り戻したいと考えておりますが、
>宗教法人Bが拒否している現状では、取り戻すのは難しいでしょうか。
>・固定資産税を負担しているところあたりから攻めることはできないでしょうか。
>・そもそもAは今後どう動くのが得策なのでしょうか。

本件で、土地を取り戻そうとする場合、

①「B」との所有権の取得時効の問題
② Bの檀家(墓地の使用者)との使用関係の問題

という2つの問題をクリアしなければなりません。

ですので、交渉をしていく場合、B自身とその檀家両者と
交渉をして、出て行ってもらうということになります。

交渉が功を奏しない場合には、裁判をするということに
なります。歯切れが悪く申し訳ないのですが、

檀家の墓地の使用権の問題は、日本の長年の慣習をどのように
考慮するかということもあり、
最終的には、裁判所の判断を待つということになる可能性
が高いです。
また、BとBの檀家との契約関係にも依存してくる
ところですので、実際にやってみなければわかない部分です。

50年経過しているという事情からすると、Aに所有権が
あるかという点は別としても、
Bの檀家に対して、墓地を明渡せと主張して、裁判所
で認められるかというとなかなか難しい事案かなと個人的
には思います。

なお、現実的な交渉として、
Aに所有権があることを前提として、Bとの間で賃貸借をし
土地の賃料を支払うよう交渉する、というのもあり得る選択肢
だと思います。

以下、理由について、
Bとの関係と墓地の使用者との関係を分けて説明します。

2 回答の理由

(1)Bとの関係(所有権の帰属)

Aとしては、土地の所有権に基づき、
明け渡しを請求していくことになります。

方法論としては、まずは交渉、Bが全く応じないのであれば
最終的には訴訟を起こすことになります。

Bから考えられる反論としては、
ご指摘の通り、
土地の時効取得をしたというものが考えられます。

土地を時効取得するためには、「所有の意思をもって」土地を
占有(使用)することが必要です(民法162条1項、「自主占有」といいます。)。

この「所有の意思をもって」する自主占有とは、勝手に自分のものだと思って使用していた
だけでは認められず、
「外形的客観的にみて」独自の所有の意思に基づく占有といわれています。

固定資産税をAが支払っている(Bが支払っていない)という事実は、
Bが自分の土地だと思っていることと矛盾する事実なので、
自主占有を否定する事情になり得ます。

ただ、通常の不動産の所有権の時効取得の事案では、
Aが固定資産税を払っているという事情は、
この「自主占有」を否定する強い事情になりますが、
墓地の場合には、固定資産税の支払いが決定的な意味を持つかというと
なんとも難しいところで、こちらも最終的には他の具体的な事情も
総合的な裁判所の判断ということになってしまうでしょう。

(2)Bの檀家との関係

BとBの檀家(墓地の使用者)との関係で、どのような契約が
なされたかという点が不明確ではありますが、

一般的に多いのは、墓地の「永代使用権」(期限がなく永久の権利で、
使用者の権利は代々に渡って受け継がれていくという内容の権利)

です。

こちらの「永代使用権」は、法律上明示的な規定はないのですが、
日本の慣習上認められる権利とされています。

墓地の「永代使用権」は、あくまでも物権ではなく
債権なので、取得時効の対象になるのかという点は問題があります。

ただし、内容として、とても強い権利ですので、
裁判例(福岡高裁昭和59年6月18日判決等)で、
あくまでも債権ではあるが、
「物権『的』」な権利とされているものも多いです。

そうすると、借地権と同じように、債権でも物権類似のものと
捉えて、時効の対象となるという判断がなされる可能性は
高いと思われます。

こちらも決定的な最高裁判例があるわけではなく、あくまでも
事案の内容や裁判官によって結論が変わりうるものでは
あるとは考えられます。

ただ、50年も利用している墓地から出て行けという主張を
裁判所が認めるのかというとかなり厳しそうというのが
ご質問についての印象です。

(3)その他の交渉方法

現実的な交渉として、
所有権はAにあることを前提に、Bとの間で賃貸借をし
土地の賃料を支払うよう交渉する、というのもあり得る選択肢
だと思います。

よろしくお願い申し上げます。