その他

公務員の肖像権

インターネットを見ると、公務中の公務員には肖像権がない的な話が書かれていますが、政治家など社会的な影響力がある者を撮影することや、撮影に合理的な理由(警官が不正行為を目の前で行っている場合などが該当すると思いますが)がある場合は別にして、公務中の公務員の模様を無断で撮影しても問題ないのでしょうか?個人的には非常に違和感がありますので、教えていただきたく思います。

よろしくお願いいたします。

1 ご質問及び回答の結論

>公務中の公務員の模様を無断で撮影しても問題ないのでしょうか?個人的には非常に
>違和感がありますので、教えていただきたく思います。

公務中の公務員にも、肖像権は認められますが、
写真撮影を行ったからといって、必ずしも
肖像権侵害(違法)となるものではありません。
写真撮影が肖像権を侵害し違法となるかどうかは、
下記「回答の理由」に挙げたような要素を考慮して、
総合的に判断されます。

先生のご質問の中の
>インターネットを見ると、公務中の公務員には肖像権がない的な話が書かれていますが、
>政治家など社会的な影響力がある者を撮影することや、撮影に合理的な理由(警官が
>不正行為を目の前で行っている場合などが該当すると思いますが)がある場合は別にして

は、この考慮要素の部分かと思われます。

2 回答の理由

(1)肖像権について

肖像権に関する著名な判例は、最高裁平成17年11月10日判決です。
この判例は、和歌山カレー事件の被告人を裁判所の法廷内で撮影し、
週刊誌に掲載したことが、肖像権を侵害し、違法とされたものです。

この判例は、人は「みだりに自己の容ぼう、姿態を撮影されない権利」
があるとしており、これがいわゆる肖像権と呼ばれるものです。
肖像権は、誰にでも認められるもので、
政治家などの社会的影響力のある人や、
公務中の公務員も同様に、肖像権を有していると考えられます。

(2)写真撮影が肖像権侵害(違法)となるかどうかの基準

ですが、肖像権があるからといって、
すべての写真撮影が違法となるものではありません。

写真撮影が違法となるかどうかは、抽象的ですが、
その写真撮影が「社会生活上受任すべき限度を超える」
ものかどうかにより、判断されます。

その際には、切り分けが難しいところではありますが、
以下のような要素を総合的に考慮して判断します。

①被撮影者の社会的地位
②撮影された被撮影者の活動内容
③撮影の場所
④撮影の目的
⑤撮影の態様・必要性
その他の事情

ア ①被撮影者の社会的地位
被撮影者が、公的な存在であったり、
有名人であるというような場合には、
違法ではない、という方向に働きます。
政治家の写真撮影が違法となりにくいのは、このためです。

公務中の公務員という立場であれば、一般人に比して
違法ではないという方向に働きやすいとは思います。

イ ②撮影された被撮影者の活動内容

本人の社会的活動との関連の度合いや、
他人に知られたくない状況を写したものかどうかなど
が考慮されます。

公務といっても、様々なものがあると思いますので、
一概には言えませんが、
こちらも、公務中ということですと違法ではない
という方向に働きやすくなるとは思います。

ウ ③撮影の場所
公共の場所かどうかがよく問題になります。
たとえば、公開された公園のような場所での撮影であれば、
違法ではないという方向に傾きます。
逆に、家の中など、公開されていないプライベートな空間
での撮影となれば、違法とする一事情となります。

この部分は、公務中ということですので、特段
違法になるという方向性に働く事情にはなりがたい
かと思います。

エ ④撮影の目的
社会的に認められるような目的かどうかというのが、問題となります。
たとえば、報道目的などの場合には、違法ではないという方向に傾く事情になります。

公務中の場合は、この撮影の目的がどこにあるのか?という点の認定が
最終的な結論に大きな意味を持つかと考えられます。

オ ⑤撮影の態様・必要性
上記の判例においても、写真撮影が原則として認められていない
法廷において、裁判官の許可を得ずに隠し撮りしたという、
撮影の態様は、
違法とする事情として考慮されています。

(3)具体的な事例でいうと
政治家などの公共の存在であって、
公開されている公務を行っている姿を、
報道目的で撮影するというような場合には、
肖像権を侵害せず、違法性はないといえます。

逆に、公共の存在であったとしても、
家の中にいるプライベートな私生活を隠し撮りされた
というような場合には、肖像権を侵害し、違法となります。

公務中の公務員についても肖像権は認められますが、
その写真撮影が違法となるかどうかは、
上記の事情などを考慮して、個別に判断されるため、

違法となる場合もあれば、違法とならない場合もある
ということになります。

その時の状況などの事実認定に依存するところですので、
最終的には違法か否かという点は、裁判で決着をつけなくては
どちらとも言い難いということになるでしょう。
ただ、公務中であれば、一般人に比して、写真撮影
が適法とされる要素は多いかと思われます。

よろしくお願い申し上げます。