民法

車検代金の消滅時効

自動車整備業を行なっている会社が、平成26年に行った車検代金の
支払いを受けておりません。
ところで、車検代金債権は、民法173条2号「自己の技能を用い、注文を受け
て、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の
仕事に関する債権」に該当し、その消滅時効は2年となるのでしょうか。

そうすると、相手が時効を援用すれば回収することができなくなってしまいますが、
車検代金の消滅時効は正しくは何年になるのでしょうか。
なお、今まで相手方は1円の入金もしておりません。

よろしくお願いします。

1 車検代金債権の「正しい」消滅時効について

(1)質問
>車検代金の消滅時効は正しくは何年になるのでしょうか。

(2)回答

意外に思われるかと思いますが、
この部分は実務上、明確な答えがでて
いない部分です。

歯切れが悪く申し訳ないのですが、
民法173条2号等の職業別の短期消滅時効については、
明確な判例実務が確立しておらず、最終的な解釈や事実認定について、
現状では、裁判をしなければ結論が出ないという状況です。

また、金額がそこまで大きくないケースも多く、
現実に裁判をするケースも少ないので、裁判実務の蓄積がありません。

時効(権利が消滅する)という重大な制度でこのようなことは
実務上とても困り、いつも回答する際に心苦しく思う部分です。

実は、今回の民法改正でこのような職業別の短期消滅時効が廃止され
契約により生じる債権であれば、原則5年ということになります。
これは、このような実務の混乱を回避するための改正です。
(2020年4月1日以降の契約に適用されます。)

2 現実的な対応

(1)弁護士実務上の感覚値

弁護士の実務上の感覚値でいうと、
車検代金とは少し異なりますが、
最高裁昭和40年7月15日判決が、自動車工場が行う
自動車の修理代金は、173条2号の債権には
「あたらない」と判断しています。

理由としては、173条2号は、いわゆる職人のような
小規模の事業者を想定しており、相当高度の技術を駆使
しまた相当の経営規模を有する自動車修理工場は含まないとして、
相当規模の修理工場が行った修理に対する修理代金債権は
173条2号の対象とはならないとしました。

173条2号は、いわゆる「職人」をイメージしてもらえればよく、
「職人」と呼べるような規模ではなければ、
173条2号が適用されないとしたものです。

なお、この判例が出てから173条2号の文言は改正(平成16年改正)
されていますが、基本的に解釈に変更はないというのが、
実務上一般的な考え方です。

ですので、事業者の規模等のに左右されるところは残りますが、
今回の車検代金債権は、173条2号にはあたらず、
時効期間は2年にならない可能性が高いといえると考えられます。

(2)173条2号の適用がない場合の時効期間

この場合、時効期間は、商事消滅時効の5年となります。

(3)今後の対応

今回は、上記より、時効期間は5年である可能性が高いです。
ですので、これを前提に、請求をしていけばよいと考えます。

そこで、相手が、時効の援用を主張してくるようであれば、
上記の判例を引用するなどして、173条2号にはあたらない
と反論をしていくということになります。

まずは、相手に請求をして、どのような反応を示すかを
見ていただければと思います。

よろしくお願い申し上げます。