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著作物の利用許諾の規定について

著作物の利用許諾に関してのご相談です。

【前提】
AがBのために新規に創作する著作物について、AがBに利用許諾するのですが、
それに際してBより以下の内容(条文案)が提示されております
(なお、Aが私のお客様です。)

【BからAに対して提示された内容の骨子】
Bは当該著作物を無償かつ無期限で任意の方法で独占的に利用(加工含む)
できる。
ただし、従前よりAが権利を有する部分については非独占的に利用(加工
含む)できる。

【ご質問】
これをそのまま条文に落とした場合は、以下の解釈で合っておりますで
しょうか。その他、お気づきの点がございましたらよろしくお願い
いたします。

■新規に創作された著作物の他社への利用許諾等
「独占的に利用」とあるため、A単独ではできず、Bの許諾も必要。ただし、
従前によりAが権利を有する部分についてはA単独でもOK。

■著作権法第27条及び第28条に基づく権利の取扱い
今回は譲渡ではなく利用許諾のため、著作権譲渡の際に論点となる著作権法
第27条及び第28条に基づく権利の留保については直接は関係しない。
ただし、「任意の方法で独占的に利用(加工含む)できる」ことから、Bは
第27条に基づく翻訳、翻案等もできる。

■著作者人格権の取扱い
「任意の方法で」で利用できることから、実質的に、Aは著作者人格権の
不行使を受け入れていることになる。

お手数おかけいたしますが、よろしくお願いいたします。

1 ご質問および回答の結論
(1)ご質問①
>■新規に創作された著作物の他社への利用許諾等
>「独占的に利用」とあるため、A単独ではできず、Bの許諾も必要。ただし、
>従前によりAが権利を有する部分についてはA単独でもOK。

 はい。他社への利用許諾についてはその通りになります。

 なお、このままの規定ですと、新規に創作された著作物を、Bの承諾なくA自身が利用すること自体も禁止されていると解釈される可能性があります。仮に、Aが利用したいという要望があるのであれば、Aの利用が禁止されないということを明確に定めておいた方がよいでしょう。
 従前よりAが権利を有する部分は、Bの承諾を得ることなくAが利用することが可能です。

(2)ご質問②
>■著作権法第27条及び第28条に基づく権利の取扱い
>今回は譲渡ではなく利用許諾のため、著作権譲渡の際に論点となる著作権法
>第27条及び第28条に基づく権利の留保については直接は関係しない。
>ただし、「任意の方法で独占的に利用(加工含む)できる」ことから、Bは
>第27条に基づく翻訳、翻案等もできる。

 はい。ご理解のとおりでよいと考えます。

(3)ご質問③
>■著作者人格権の取扱い
>「任意の方法で」で利用できることから、実質的に、Aは著作者人格権の
>不行使を受け入れていることになる。

 その他の事情にもよりますが、この規定のみからでは、著作者人格権の不行使を認めていると読むのは難しいと考えられます。

2 回答の理由
(1)ご質問①
 ア 新規に創作された著作物について
 (ア)独占的利用許諾契約の種類
 今回の契約のうち、新規に創作された著作物に関する部分は、著作権の利用許諾契約の中でも、「独占的利用許諾契約」と呼ばれるものです。そして、独占的利用許諾契約の中には、以下のように完全独占と非完全独占の2種類があります。

〇非完全独占:著作権者Aが、B以外の第三者に対して利用許諾を行うことができないだけで、A自身が利用することはできる。
〇完全独占:AがB以外の第三者に対して利用許諾ができないだけでなく、著作権者であるA自身も利用することができない。

 (イ)ご質問の「独占的に利用」の意味
 今回の表現について、Aが第三者に利用許諾できない、という非完全独占の効果があることは争いがないと思います。
 ですので、他社への許諾については、先生のお考えの通りです。

 それを超えて、完全独占(著作権者であるA自身の利用も禁止している)の意味を有しているかどうかというと明確ではありませんが、そのようにとらえられる可能性はあるかと存じます。
 Aとして、著作物を利用したいという要望があるのであれば、上記の非完全独占であることを明確にするため、
「AからBに対する本著作物の利用許諾により、Aが自ら本著作物を利用することが妨げられるものではない。」
というような条項を入れておいた方がよいと考えます。

 イ 著作物のうち従前よりAが権利を有する部分について
 「非独占的に利用(加工含む)できる」という表現から、非独占的利用許諾契約にあたるものと考えられます。
 この契約は、B以外の第三者に利用許諾することも禁止されませんし、もちろん、A自身が利用することも禁止されません。
 ですので、Bの承諾を得ることなく、B以外の第三者に利用許諾をすることもできますし、A自身が利用することができます。

(3)ご質問②
 ア 第27条及び第28条の権利の留保について
 ご指摘のとおり、第27条及び第28条に基づく権利の留保が問題となるのは、著作権譲渡の場合のみです。これは、著作権譲渡の場合に適用される第61条2項により、譲渡の対象に第27条及び第28条に基づく権利を含むことを明示していない場合には、これらは譲渡されていないものと推定されるからです。
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著作権法61条2項
 著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。
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 今回は、譲渡ではなく利用許諾なので、61条2項の適用はなく、これらの権利の留保の推定は問題となりません。

イ 利用許諾の範囲について
 利用許諾契約の場合に、どのような利用の仕方ができるかは、契約において、利用許諾の範囲がどこまでと定められているかという問題です。
 「任意の方法で独占的に利用(加工含む)できる」という表現から、あらゆる利用の方法を含んで許諾をしているという解釈ができるかと思いますので、第27条、第28条の権利も、利用許諾の範囲に入っていると考えられます。

(4)ご質問③
 著作権と著作者人格権は性質の違うものであり、著作者人格権は、譲渡や利用許諾の対象にはなりません。
 ご指摘のとおり、著作者人格権の不行使特約というのは可能ですが、不行使特約があるというためには、著作権の利用許諾とは別に、著作者人格権の不行使について、ある程度明確に定めていることが必要と考えられます。
その他の事情にもより黙示的に著作者人格権の不行使の合意があるという認定もないわけではありませんが、
この規定を見る限りでは、著作者人格権の不行使特約まで認めることはできないと思われます。

 よろしくお願い申し上げます。