民法 その他

個人事業主が離婚した時の分与財産の範囲

青色事業主が離婚する場合、事業用の財産(預金や備品、有価証券、火災保険、倒産防止共済等)は分与財産の対象になるのでしょうか?

また、対象から外すためにはどのような証拠を提出すればいいでしょうか?

1 ご質問および回答の結論
>青色事業主が離婚する場合、事業用の財産(預金や備品、有価証券、火災保険、倒産防止
>共済等)は分与財産の対象になるのでしょうか?
>また、対象から外すためにはどのような証拠を提出すればいいでしょうか?

 事業用財産が、結婚してから取得された(資産形成された)ものであれば、原則として財産分与額計算の対象となります。事業用財産であるということのみで、財産分与計算額の対象から外れるわけではありません。なお、預金以外の事業用資産については、その物自体を分けるということではなく、金銭の支払義務の金額がいくらかという部分で考慮されます。

 結婚前からすでに有していた財産(独身時代に貯めていた預金など)や相続など明らかに一方が得た財産は、財産分与の対象とはなりません。また、このような財産により、事業用財産を購入したということであれば、これもまた、財産分与の対象にはなりません。
 ですので、このような事情があれば、それを示す証拠(結婚前の直近の日付の記帳されて通帳、相続の事実と受け取り金額がわかる資料、それらの金額の範囲内で事業用資産が購入されている証拠(帳簿等で可能かと思われます。))を提出すればよいです。

 なお、なかなか認められるのは難しいですが、事業用財産の形成についてのこちらの寄与度が非常に高いとして、相手への財産分与の割合を2分の1より低くすべきという主張も考えられます。また、調停等になったとしても、最終的にはお互いで合意をすれば良い部分ですので、事業用財産にまで話が及ばずに合意にいたるケースも実務上ままあります。

 また、事業上の借入れ等の債務がある場合の計算方法は、下記をご覧ください。

2 回答の理由
(1)財産分与の対象となる財産

 「夫婦が共同して築いた財産」が財産分与の対象となります。
 基本的には、結婚してから別居するまでの間に、どちらかが得た財産は、財産分与の対象となります。事業用の財産だという理由のみで、財産分与の対象とならないわけではありません。

 一方、結婚前からすでに有していた財産(独身時代に貯めていた預金など)、相続など明らかに一方のみが得た財産は、財産分与の対象とはなりません。また、このような財産により、事業用財産を購入したということであれば、これもまた、財産分与の対象にはなりません。
 ですので、このような事情があれば、婚姻前に取得していた財産であること、相続財産であるということやそのような財産を利用して事業用財産を取得したことを示す証拠(結婚前の直近の日付の記帳されて通帳、相続の事実と受け取り金額がわかる資料、それらの金額の範囲内で事業用資産が購入されている証拠(帳簿等で可能かと思われます。))を提出すればよいでしょう。

(2)補足
 「事業用財産が財産分与の対象となるか」というご質問からは外れますが、以下、事業に関して借入れ等の債務がある場合の扱い、財産分与の割合による調整についてもご説明します。

ア 事業に関して借入れ等の債務がある場合の扱い
 事業用財産の場合、事業主の借入金等の債務があるということも多いと思われます。この場合、この借入金等の債務も財産分与の際に考慮されます。
 以下、事例を用いて、簡単に説明します。

(事例)
 夫:資産(事業用財産)3000万円
   負債(事業用借入)2000万円
 妻:資産0円
   負債0円

 この場合、夫から妻への財産分与の額は、
 (3000万円-2000万円)×1/2=500万円
 となります。
 財産分与の際には、夫の資産の額から負債の額を控除した純資産の額を2分の1にしますので、事業資金として借入れや債務を負っているからといって、不当に夫が不利になるということはありません。

イ 財産分与の割合による調整
 上記のとおり、基本的には、純資産を2分の1に按分するというのが財産分与の原則ですが、一方が財産形成に及ぼした影響が非常に大きいという場合には、按分割合による調整がなされることもあります。

 裁判例の中には、夫が一部上場会社の代表取締役で、婚姻中に約220億円の資産形成をした事案で、妻への分与額を10億円とした、というものがあります。

 資産形成への影響の程度により、分与の割合を調整した例です。
 さすがに、ここまで極端な額でなくても認められる場合もありますが、基本的には2分の1ずつが原則なので、これを覆していくのは法的にはなかなかハードルが高いです。
 ご質問のケースでも、按分割合による調整ができるような事情があれば、主張されてもよいかと思います。

 なお、調停等になったとしても、最終的にはお互いで合意をすれば良い部分ですので、事業用財産にまで、話が及ばずに合意にいたるケースも実務上は、ままあります。

 よろしくお願い申し上げます。