過去に永年会計事務所に勤務していた方が、会社の経理のパートをしております。
この方は、何社かの経理のパートを掛け持ちしてまして、自分で会計ソフトや税務ソフトを購入しており、全部申告書一式提出レベルまで出来てしまいます。
質問
この場合、この経理の方から提供された内容をしっかり確認した上で、この経理の方が作成した書類に署名押印することは、
税理士法及び、他の法律などに抵触するのでしょうか?
報酬も決算申告料として受領します。
あるいは、この申告書を原案として、こちらで確認し、再度自分のシステムに打ち替えて作成し、提出した場合も踏まえてご教示賜れますと幸いです。
下記の通り、法律的には非常にリスクが高いので、
関与することをお勧めしませんが、
もし、受任されるということであれば、税務申告書については、パートさんからは一切受け取らず、
会計書類のみ受けとり、税理士の先生の方で、税務申告書を自己の判断で作成するという流れが良いかと思います。
下記の通り、実質判断になりますので何か書面をかわしていれば、リスクをヘッジできるという性質のものではないと思われます。
2 理由
事実認定も含む問題ですが、このパートさんの行為を税理士法上どのように
評価されるのかが関係する問題になりますので、
①パートさんの行為 を説明したのち、②税理士の先生の行為
という流れで説明します。
(1)①パートさんの行為が非税行為にあたるか。
まず、税理士法2条1項により、
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◯「他人の求めに応じ」
◯「業」として
・税務代理
・税務書類の作成
・税務相談
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は、税理士の先生以外が行うことができないもの(非税行為)になります(税理士法52条)。
今回は、「税務書類の作成」にはあたる行為かと思われます。
ですので、「他人の求めに応じ」て
と言えるか否かが判断の分かれ目になります。
形式的に見ると、パートということで各会社に雇用されているということですので、
「他人の」ではなく、あくまでも各会社が「自己の」行為として行なっているとして、
非税にはならないという考え方になると思います。
ただ、この「他人の求めに応じ」て、というのは形式的にではなく実質的に判断されるところだと考えられます。
複数社を掛け持ちしており、さらに自己の負担で税務ソフトを購入して、申告書の作成行為をしているということですと、
実質的には、税理士の先生しか行えない「他人の求めに応じ」ていると法的には判断される可能性が非常に高いと考えられます。
事実認定を伴う(このパートさんが複数会社に勤められた経緯等含む)ものですし、
形式面(雇用であることの証拠)は整えているでしょうから、実務上問題になる(問題が顕在化する)ケースなのか
というのは別としても、
法律上は「非税行為」にあたる可能性が非常に高い行為かと思われます。
なお、「他人の求めに応じ」と判断され、複数社ということになると
「業」としてと評価されるものと思われます。
(2) ②税理士の先生の行為
ア 名義貸し(第37条の2) との関係
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(非税理士に対する名義貸しの禁止)
税理士法第37条の2 税理士は、第52条又は第53条第1項から第3項までの規定に違反する者に自己の名義を利用させてはならない。
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上記の通り、今回のパートさんの行為は、税理士法52条違反の可能性が非常に高い行為です。
税理士の先生が、「自己の名義を利用させ」たといえるか否かも、事情を総合考慮して決されます。
今回でいうと、実質的に税理士の先生の行為が、各会社ではなくパートさんの非税行為に対して、名義を利用させたか否かによると考えられます。
今回は、あくまでも報酬は、決算申告料として、各会社から受領するということで、
会社と税理士先生と直接の契約関係に基づくものとも思われますが、
パートさんの非税行為(非税行為に当たるということではなく、パートさんが複数社にわたり申告書を作成していたという事実)を
認識した上でのものだとすると、この報酬は、実質的には申告書に名前を載せるだけの名義料である
とされる可能性があります。
さらに、このパートさんが働いている複数の会社について、1つの税理士事務所が署名・押印等を行っている等があると、
税理士の先生は、パートさんの非税行為を適法化するために、パートさんに名義を貸していると判断されるおそれは非常に強くなりますので、ご注意ください。また、その会社と契約した経緯として、パートさんとしか会ったことがない等の事情があると、よりパートさんの非税行為を適法のようにみせかけるための、実質的には「名義貸料」であったと評価されるおそれもかなり強くなります。
なお、名義貸しは、上述の通り、総合考慮されますので、
パートさんが作成した申告書をしっかり確認した上で書類に署名・押印するよりも、自分のシステムに打ち替えて作成・提出した方が、名義貸しには当たらないという判断がされる可能性自体は高くはなりますが、そこまで大きな意味をもつところではないかと思われます。
イ 会則違反(税理士法39条)
これは、すべての税理士会に全く同じ規定があるわけではないのですが、基本的には同趣旨の規定が入っている会が多いです。各先生方の税理士会の会則をご確認頂ければと思います。
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〇〇税理士会会則
(非税理士との関連排除)
第〇〇条 会員は、直接であると間接であると又は有償であると無償であるとを問わず、法第52(非税行為の規定)条又は法第53条第1項若しくは第2項の規定に違反する者又はその疑いのある者と次の関係を結んではならない。
(1)税理士業務を行うための事務所を共同使用し又は賃貸借すること。
(2)業務上のあっ旋を受け、又は紹介すること。
(3)実質上の使用人となり、又は雇用すること。
(4)業務を代理し、又は業務に関与すること。
(5)業務上の便宜を与えること。
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今回問題になるのは、
(4)業務を代理し、又は業務に関与すること。
の部分かと思われますが、今回は上述の通り、会社と税理士の先生の直接の契約関係があるため、パートさんの業務を「代理」しているとは評価されることは可能性としては低いと思いますが、パートさんの複数社に及ぶ税務書類作成の事実を知った上ですと、「業務に関与」と評価されると思われます。
会則違反は、税理士法39条違反になりますので、税理士法に違反する行為であると評価されるかと思われます。
以上から、法律的にはかなりリスクがある行為になります。
関与することをお勧めはしませんが、
もし、受任されるということであれば、税務申告書については、パートさんからは一切受け取らず、会計書類のみ受けとり、税理士の先生の方で、税務申告書を自己の判断で作成するという流れが良いかと思います。
このあたりは実質判断になりますので、何か書面をかわしていれば、リスクをヘッジできるという性質のものではないと思われます。
よろしくお願い申し上げます。