遺言執行者の変更について、
気を付けなければならない点を教えて頂けますでしょうか。
【前提】
現在、
公正証書遺言により信託銀行が遺言執行者に指定されている状況です。
【補足】
変更理由は遺言執行報酬が高額のため変更したい。
変更後の遺言執行者は、身内の方又は顧問税理士等を考えております。
経験がないため、質問させて頂きました。
宜しくお願い致します。
1 ご質問及び回答の結倫
>遺言執行者の変更について、
>気を付けなければならない点を教えて頂けますでしょうか
(1)被相続人がご存命の場合
ア 遺言書の作成
被相続人がご存命の場合、遺言書のうち、遺言執行者の指定について定めている部分を撤回し、新たな遺言執行者を定める遺言書を作成することになります。新たな遺言書を作成するに際して、どの遺言のどの部分を撤回するかなどを明確に記載する必要があります。具体的な記載例は下記、回答の理由をご覧ください。
イ 信託銀行との約款違反の可能性
信託銀行との約款の中に、変更に伴う違約金条項の規定があるケースがありますので、約款をご確認ください。
(2)被相続人がお亡くなりの場合
ア 遺言執行者が就任の承諾をしている場合
裁判所から、遺言執行者の辞任または解任の許可を得た上で、裁判所に新たな遺言執行者の選任をしてもらうことになります。
ただし、この場合には、解任等の「正当な事由」が法律上求められますが、報酬が高額という理由のみでは、この事由が認められるのは困難です。
イ 遺言執行者が就任の承諾をしていない場合
まだ遺言執行者が就任の承諾をしていない場合には、遺言執行者に就任を拒否する旨の意思表示(通知)をしてもらった上、新たな遺言執行者を裁判所に選任してもらうことになります。
このケースでは、あくまでも信託銀行が就任するかしないかを決められるので、就任するということであれば、上記(2)アの手続きになります。
ウ 信託銀行との約款違反の可能性
なお、これらの場合にも、信託銀行との間の契約にそれを妨げるような条項はないかご確認いただければと存じます。例えば、「相続人の求めに応じて遺言執行者の就任を拒絶した場合の違約金」等があるかないかをご確認ください。
2 回答の理由
(1)被相続人がご存命の場合
この場合、遺言のうち、遺言執行者を指定している部分の撤回+新たな遺言執行者を指定する旨の遺言書の作成という方法によることになります。
ア 新たな遺言書の作成
遺言執行者の指定の撤回、新たな指定のどちらも、遺言の形式に従って行わなければならないため、2つを同時に定めた遺言を作成するのが通常です。
具体的には、以下のような遺言書を作成してもらうことになるかと思います。
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遺言者は、平成●年●月●日公証人●●作成にかかる平成●年第●号の原遺言(※現在の遺言は公正証書で作成されているものと思いますので、作成日付、作成した公証人、公正証書遺言の番号等で、どの遺言かを特定してください。)の第●条中
「●●●●(※変更する部分を記載してください。)」の部分を撤回し、
「●●●●(※変更後の文言を記載してください。)」と改める。その余の部分はすべて原遺言公正証書記載のとおりである。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ポイントは、どの遺言のどの部分を撤回し、どのように改めるかを明確に記載しておくことです。これがあいまいになると、後にトラブルになる可能性がありますので、ご注意ください。
もとの遺言を公正証書で作成されていたとしても、遺言の撤回+新たな指定は自筆証書遺言で行うことも可能です。ただし、法的に間違いのないものを作成する、という意味では、公正証書にしておかれた方がよいでしょう。
イ 信託銀行の契約違反
信託銀行との約款の中に、遺言執行者を変更、または、撤回した場合等に関する違約金条項の規定があるケースがありますので、約款を十分にご確認いただければと思います。
(2)被相続人がお亡くなりになっている場合
被相続人がお亡くなりになっている場合には、信託銀行に遺言執行者の地位をやめてもらい、新たに遺言執行者の選任をするということになります。
遺言執行者が①すでに就任の承諾をしている場合と遺言執行者が②まだ就任の承諾をしていない場合で扱いが異なります。以下、分けてご説明します。
ア ①遺言執行者がすでに就任の承諾をしている場合
(ア)遺言執行者をやめてもらう手続
遺言執行者は、就任の承諾をすることにより、遺言執行者の任務を開始する義務が生じます(民法1007条)。
信託銀行の場合、就任承諾の意思表示として、遺言執行者に就任した旨の通知を相続人に送ってくるのが通例かと思います。
その後に、遺言執行者がその地位をおりるためには、
①遺言執行者が、家庭裁判所に辞任の申立てをして、許可を得る(民法1019条2項)
または、
②相続人等から家庭裁判所に遺言執行者の解任の申立てをして、解任の決定をしてもらう(民法1019条1項)
のうちどちらかを行わない限り、信託銀行の遺言執行者としての地位は失われません。
ただし、辞任するにしても、解任するにしても、「正当な事由」が必要とされています。
この「正当な事由」は、あくまでも、適切に業務を執行することが期待できないといえることが必要になりますので、報酬が高額にすぎるという理由では、「正当な事由」が認められるのは困難かと思われます。
(イ)遺言執行者の選任の手続
仮に、上記の辞任または解任の手続により、遺言執行者が不在になった場合には、家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立てをし、新たな遺言執行者の選任をしてもらうことになります(民法1010条)。
なお、遺言執行者がいない状態でも、相続人全員で遺言どおりに財産の分配等を行うことは可能ですので、新たな遺言執行者を選任することは必須ではありません。
イ 遺言執行者がまだ就任の承諾をしていない場合
(ア)遺言執行者をやめてもらう手続
遺言執行者が就任の承諾をしていない場合には、遺言執行者が就任を拒否することで、遺言執行者としての法的地位を免れます。
この場合には、辞任や解任のように、家庭裁判所の許可やそれにあたっての「正当な事由」も必要ありません。
遺言執行者である信託銀行の一存で、遺言執行者の法的地位を免れることができますので、就任を拒否する旨の通知をしてもらえればよいということになります。
今後の対応としては、信託銀行に就任を拒否してもらいたい旨交渉していくことになるかと存じます。
ただし、就任を拒否するもしないも信託銀行次第で、信託銀行が遺言執行者に就任するという意向であれば、これを強制的に止める手段はありません。
なお、信託銀行は、相続人間で紛争が生じているようなケースでは、遺言執行者に就任せず、就任を拒否するという運用がなされてます。相続人間で紛争が生じているケースでは、遺言執行をして相続人間の紛争を巻き込まれることで、非弁行為に該当するリスクが出てくるからです。
(イ)遺言執行者の選任の手続
上記と同様に、遺言執行者が不在になったとすれば、家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立てをして、選任してもらうことになります。
なお、遺言執行者の選任が必須ではない点も、上記と同様です。
ウ 信託銀行との契約上の留意点
このようなケースでも、契約書(契約約款)をよくご確認いただき、支障となるような条項が入っていないかどうかもご確認いただければと存じます。
例えば、「相続人の求めに応じて遺言執行者の就任を拒絶した場合の違約金」等があるかないかをご確認ください。
よろしくお願い申し上げます。