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唯一の代表者が死亡した場合の取扱い

唯一の役員である代表取締役が死亡した場合の会社法の考え方について教えて下さい。

唯一の役員である代表取締役が急死したため、現在会社に役員がいない状況です。もちろん、後任を選定しているところですが、決まるまで多少時間がかかる見込みになっています。素人考えですが、遅滞なく選定すればいいと思っていますので、多少時間がかかっても、会社法的には問題ないと考えています。

会社法的に、このような役員不在の場合には、会社の法律行為を行うに際してどのような手続きを踏めばいいでしょうか。代表取締役の相続人が仮代表、みたいな形で対応することはできますか?

至急の対応として、法人税の申告期限が迫っていることがあります。法人税の申告書には代表者の署名押印が必要で、この署名押印については罰則があります。

税務に関し、代表者死亡で役員がいないケースに関しての事例が見つかりませんでしたので、会社法的に法的効力を考える必要があると考えています。

よろしくお願いいたします。

>唯一の役員である代表取締役が死亡した場合の会社法の考え方について教えて下さい。

結論と理由を分け難いため、「1 死亡等で役員不在の会社の法律行為について」という一般論と「2 税務申告の場合」という順番で回答いたします。

1 死亡等で役員不在の会社の法律行為について

(1)会社法の考え方
 まず、厳密な会社法の解釈では、役員のいない状況では、法律行為を行うことができません。会社を代表して法律行為を行うのは(代表)取締役ですが(会社法349条)、その役員が不在だと、会社を代表する人がいなくなってしまうからです。

 厳密に有効な会社の法律行為をするのであれば、取締役を新たに選任する、または、裁判所に申立てをして一時的な取締役を選任してもらい(会社法346条2項)、その選任された取締役が、法律行為を行うことになります。
 ただ、裁判所への申し立てを行うとなると、時間と手間がかかることになります。

 なお、代表取締役の生前の委任により、会社の正当な代理権限を有している代理人(税務申告であれば、税理士さん)がいる場合には、会社にかわり法律行為を有効に行うことができます。
(ただし、税理士の先生としては会社の意思確認ができないため、苦肉の策ということになります。)
 それ以外の場合、会社が法律行為を厳密には有効に行うことはできません。

(2)いざという時の実務的な対応

 上記の方法では、どうしても取締役の選任ができない場合になりますが、実務上は株主全員の同意をもらった上で、会社名義で法律行為を行っておけば、後に問題となることは少ないと思われます。もちろん全員の同意があることも証拠上残しておく必要があります。

 また、裁判で争われた場合でも、法律的には無効ではあるが、権利濫用(民法第1条3項)等の一般法理で、無効の主張ができないとされる可能性も高いです。

2 税務申告について
 先生のご指摘の通り、税務申告は、会社の納税義務確定行為となりますので、法律行為に該当します。ここについては、代表取締役の生前に顧問契約等の締結があり、その委託内容に申告業務が含まれている場合とそうはない場合によって考え方が異なります。以下、前者を①「顧問契約の場合」、後者を②「単発案件の場合」として、分けて説明します。

 また、釈迦に説法ですが、申告の有効性と署名押印義務違反についての罰則の議論は法律的には別の議論になりますので、「申告行為の有効性」→「署名・押印の罰則について」の順番で説明します。

(1)申告の有効性

 ア ①顧問契約の場合

 この場合には、既に税理士さんは、有効な申告を代理する権限を会社から委任されていることになりますので、会社を代理して申告行為を有効に行うことができます。

 なお、別の議論ですが、決算の確定の株主総会の開催について、今回の事例だとそもそも招集権者である取締役がいないということになりますが、株主全員の同意による招集手続の省略(会社法300条)という方法がありますので、これによれば総会を開催することは可能です。

 イ ②単発案件の場合

 単発案件の場合には、上記「1
死亡等で役員不在の会社の法律行為について」と同じ議論になります。株主総会での取締役の選任または裁判所による一時取締役の選任の上でなければ、厳密に有効な法律行為を行うことはできません。

 やむを得ず、全株主の同意のもと行う場合には、申告の場合、税賠のリスクヘッジとして、税賠請求等をしないことについての株主の同意書等を念のためもらっておいた方がベターだと考えられます。

(2)代表者の署名・押印の罰則について
 代表取締役が不在の場合、いずれにしても代表取締役の署名・押印を得ることができません。

 ア 署名・押印による申告行為の効力に対する影響

 釈迦に説法ですが、署名押印の有無自体は申告行為の有効・無効に影響を及ぼしません。
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法人税法151条 ・・・省略・・・
5  前各項の規定による自署及び押印の有無は、法人税申告書の提出による申告の効力に影響を及ぼすものと解してはならない。
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 イ 罰則の適用について

 署名・押印義務違反には、法人税法161条により、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」があります。
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第161条  第151条第1項から第4項まで(代表者等の自署押印)の規定(同条第1項に規定する書類に係る同項並びに同条第2項及び第四項の規定を除く。)に違反した者又は同条第1項から第4項までの規定に違反する同条第1項に規定する法人税申告書の提出があつた場合のその行為をした者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。
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 今回のような事例では、①顧問契約の場合はもちろん、②単発案件の場合にも、ただし書の存在もありますので、これで刑罰権を発動するということも実務的にはまずないかと思われます。

 また、仮にされたとしても、
①顧問契約の場合には、上記法人税法161条の要件に形式的に該当したとしても
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(正当行為)
刑法第35条  法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
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に該当し、違法性がなく無罪とされることになると思われます。

 ②の場合にも、延滞税を免れる等の目的もありますので、正当行為として違法性がないと解される可能性もあります。

 なお、署名・押印なしで申告される場合には、その理由は提出書類に記載しておいてください。

 よろしくお願い申し上げます。