不動産 所得税

譲渡所得申告の引渡日につきまして(急ぎでお願いします)

(前提条件)
1.父親所有の投資物件を子供が代表者であるA社が購入
2.父親もA社の取締役
3.売買契約書の日付は平成28年12月28日だが、29年分の譲渡としたい
4.契約書の所有権移転、引渡し条項は下記の通り
 ①所有権は買主が売買代金全額を支払い、売主が受領したときに移転。
 ②売主は買主に前項と同時に本物件を引渡し。別に表記引渡日を定めたときは
  それによる。
 ③第1項と同時に本物件の所有権を買主の名義に移転する登記申請手続きを行う。
5.所有権移転登記は「28年12月28日売買」で完了済
  父親の抵当権、根抵当権も「28年12月28日解除」で抹消登記済
6.投資物件の収益は28年分まで父親で申告予定

(質問)
上記の前提条件で、引渡日が29年1月と認められるためには、
どのような方法が考えられますか?

ご多用のところ大変恐縮ですが、急ぎご回答頂けるとありがたいです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

>5.所有権移転登記は「28年12月28日売買」で完了済
  父親の抵当権、根抵当権も「28年12月28日解除」で抹消登記済

 通常の登記実務ですと、売買代金の支払いを条件として所有権移転を行う場合、登記原因は、
 「平成○年○月(代金支払い日付)売買」とされますので、28年12月28日時点で代金の支払があったという前提で回答します。
 (ただ、所得税基本通達36-12から考えると代金の支払いがなかったケースかとも考えられるので、その場合はご指摘ください。)

1 回答の結論

>(質問)
>上記の前提条件で、引渡日が29年1月と認められるためには、
>どのような方法が考えられますか?

 今回の前提ですと、法的に引渡日を1月と認められることは困難かと思われます。
 なお、下記の理由では、一旦契約を無効(利益相反取引、錯誤)として再度契約をする方法も検討しておりますが、今回は法的に難しいと考えられます。

 ただし、法律論(税法含む)は別として、現場では、その他の状況によっては税務署との交渉で、利益相反取引による無効や錯誤無効等を根拠に更正登記等をして、そのように認められるケースも100%ないわけではないかもしれません。ただ、法律的には、やはり難しいので、その場合、あくまでも税務署に説明・交渉し、税務署が良いといえばということになるかと思います。

2 回答の理由

(1)引き渡しの有無の判断について
 引渡しのは、事実的支配を移転することを意味します。不動産の場合、明白な基準ではなく「引渡し」の有無は、①代金の支払い状況②登記または登記申請に必要な資料の提供の有無③現実的な管理等を総合考慮して判断されます。

 本件においては、上記を前提とすると、代金の支払は12月28日になされているということになりますので、①からは、引き渡しがあったもの強く推認されます。また、「12月28日売買」ということになっておりますので、その日時を前提とした登記申請に必要な資料の提供があったということですので、②からも12月28日に引き渡しがあったと推認されます。

 さらに、③についてですが、自ら使用していた建物であれば、鍵を渡したか等が重要なファクターともなりますが、今回は投資物件ということですので、「鍵」を渡したことが所有権を確保することに対して、強い意味を持ちませんので、③の視点からも12月28日に引渡しがあったものと認定されやすいかと思われます。
 また、父親は、A社代表の親であり、A社の取締役であることを考えても、③の要素から引渡し日を1月以降にするということは困難かと思われます(現実管理に変更がない分①②の要素が重要視されるという意味です。)。

(2)利益相反取引や錯誤の主張
 ア 利益相反取引による主張

 今回の取引は、A社取締役である父親とA社の取引であるため、会社法上の利益相反取引に該当し、取締役会設置会社であれば、取締役会の承認決議(会社法365、356条)、そうでなければ、株主総会決議(同法356条)の承認が必要です。
 そして、この決議のない利益相反取引は、当事者間では無効と解され、純粋な法律理論からするとA社は無効を主張できることとなります。

 ただし、今回の事例では、一旦無効を主張し、その後今年に改めて売買契約を締結するとなると、裁判においては、法的には「追認」として12月28日の売買を復活させるものと評価される、または無効主張が権利濫用とされる可能性が非常に高いです。

 イ 税額についての錯誤無効の主張

 今回は、課税の時期により、負担する税額が異なっていた(12月での課税であれば負担税額が多くなり、1月であれば税額が少なくなる)ということかと思われます。この点について、錯誤(勘違い)があったとして、売買契約の無効を主張するという方法もないではありません(民法95条)。判例では、負担する税額について錯誤が生じていた場合に、その法律行為(売買など)を無効と判断したものもあります。錯誤による無効が認められるためには、大まかにいうと、その錯誤がなければ、その行為を行わなかったといえるほど、重大な点に関するものであることが必要です。
 ただ、そもそも、税額についての錯誤による無効が認められるケースは少ないことに加え、今回の場合、売買をいつにするか(課税時期)という点について錯誤があったのみで、売買をすること自体には錯誤はないため、重大な点についての錯誤とはいえず、無効と認められる可能性は低いと考えられます。

 ただし、法律論(税法含む)は別として、現場では、その他の状況によっては税務署との交渉で、利益相反取引による無効、錯誤無効等を根拠に更正登記等をして、そのように認められるケースも100%ないわけではないかもしれません。ただ、法律的には、やはり難しいので、その場合、あくまでも税務署に説明・交渉し、税務署が良いといえばということになるかと思います。

 よろしくお願い申し上げます。