<株主>
A社の代表取締役会長Xの一家(持株会社として所有)
Xの弟の一家
亡A社の代表取締役社長Y(X・Xの弟とは親族ではない)の弟の一家
<取締役>
X(代表取締役会長)
Xの弟
Yの弟
Z(X・Xの弟・Yの弟とは親族ではなく、代表取締役社長)
<監査役>
Xの長女
Yの弟の長男
X会長は、300年続く会社を目指すためには、社長はこの3家から出さず、社員の
中から登用するということを強く主張しています。そして、この内容を定款に
盛り込みたいというお話をされているのですが、会社法(及びその他の法律)上、
可能なのでしょうか。
株主が取締役を選任し、取締役会で社長を選任する以上、歯止めをかける方法が
無いように思うのですが、ご教示いただければ幸いです。
300年続く会社を目指すということで、Xさまのご意向としては、Xさまご自身が「代表取締役」を退任された後にということを前提に回答します。
また、「社長」「会長」は、法律上の概念ではないので、会社の業務執行者である「代表取締役」を3家から出さず、従業員の中から選定するというルールを定款で定めることができるかという点について回答します。
1 ご質問および回答の結論
>X会長は、300年続く会社を目指すためには、社長はこの3家から出さず、社員の
>中から登用するということを強く主張しています。そして、この内容を定款に
>盛り込みたいというお話をされているのですが、会社法(及びその他の法律)上、
>可能なのでしょうか。
現状の実務を前提にすると、有効と判断されるものと考えられます。
注意点もございますが、そちらは回答の理由をご参照ください。
2 回答の理由
代表取締役の資格を制限する定款の効力の有効性は、①代表取締役の選任という取締役会の権限に制限をかけるもので無効ではないかという点、②会社法上の「機関」についての資格制限を定款で行うことが可能なのかという2点で法律上の問題点を含んでいます。
(1) ①取締役会の権限に制限をかけること
取締役会設置会社では、代表取締役の選任(どんなバックグランドの人を選定するかを含む)をについては、ご指摘の通り、取締役会の権限とされており、所有と経営の分離の考え方を強調すれば、その権限を定款で制限することは無効であるという考え方は、会社法上根強くありますし、実務上有力な会社法学者の中にも、無効であるという見解を示されている方は多くいらっしゃいます。
ただ、現状の裁判例や実務家の考え方からすると、やはり会社の実質的所有者かつ最高意思決定機関は、「株主総会」であり、株主総会で定めた定款によるならば、取締役会の権限を制限することも、明確な会社法上の規制がない限り認められるとの考えが大勢だと思われます。
また、今回は、代表取締役の選任権は、あくまでも取締役会にあり、その選定の対象資格を制限するというものですので、取締役会の権限を制限する程度は、小さいと考えられます。
ですので、①についての法律上の問題は、クリアできるかと考えられます。
(2) ②会社法上の「機関」の資格を制限する定款規定の可否
ア 総論
定款による「代表」取締役の資格の制限については、あまり議論されていませんが、定款により取締役の資格を制限することについては、その内容が合理的なものであれば有効と考えられています。
非公開会社(株式すべてに譲渡制限がつけられている会社)であれば、株主以外は取締役になれないという定款の規定は有効ですし(会社法332条1項ただし書)、裁判例では、取締役を日本人に限るという定款が有効とされた例があります。また、一般に、取締役の資格を成年者に限る、定年制(一定の年齢以上の人は取締役になれない)を採用するなどの定款は有効と解されています。
このように、定款により取締役の資格を制限することは、その内容が合理的なものであれば、有効と考えられています。
定款による取締役の資格の制限が有効と考えらえられているのは、定款自治によるものなので、①がクリアできることを前提とすると、取締役と同様、合理的な内容であれば、代表取締役の資格を制限することもできるとして良いものと考えられます。
イ 合理的な内容か否か
今回の定款の規定は、「代表取締役は株主以外の者、かつ、会社と雇用契約のあった経歴を持つ者に限る」という趣旨等の規定を置くということになるかと思われます。
この部分は、今後、代表取締役になる社員に「株式」も与えたい等のXの具体的要望により定款の規定は工夫することになると思いますが、説明の便宜のためこの趣旨の規定を前提に回答します。
取締役を株主以外から選任するというのは、会社法上の原則である「所有と経営の分離」を徹底するものとして、一定の合理性があるものと考えられますし、同族経営ではなく会社のことをよく知っており、会社に貢献してきた社員に任せるということは、組織マネージメントとしても一定の合理性があるものと考えられます。
ですので、②の点からしても、有効と判断される可能性が高いと考えられます。
(3)注意点
以上より、代表取締役を「3家から出さず、社員の中から登用する」という旨の定款の規定は有効と判断されるものと思います。
ただし、上記の回答の理由の通り、あくまでも解釈として認められるもの(反対の考え方もある。)ですので、長い年月が経てば、実務の流れが変わるということもありえます。
また、Xがご健在のうちに、定款を変更しても、今後、株主構成が変わってきたときに、株主総会の2/3以上の特別決議により、定款変更は可能なものですので、将来にわたって必ず効力がある(変更されない)ものでもないという点もご留意いただければと存じます。
なお、定款の規定は、創業者の意思等を後世に残すという法務からは離れた意味あいもあると思いますので、Xの具体的なご意向を組んだ上で、規定することは良いのではないかと思います。また、持株比率等は明らかでないですが、このあたりの具体的事情をふまえた上でのアドバイスもできるかとも思いますので、面談による無料相談のご利用もご検討くださいませ。
よろしくお願い申し上げます