けますでしょうか。
【前提】
・登場人物:相談者A(相続人)、相談者の父B(被相続人)、相談者Aの甥C(相続
人、Bの孫、未成年)
・父Bの妻(Aの母)及び甥Cの両親(Aの兄夫婦)は数年前に他界
・今回父Bが亡くなり、Aと甥Cが相続するにあたり、遺言はなし
・相続財産は父Bが運営していた事業会社の非上場株式5,000万円(Aが事業承継)、
現預金5,000万円の計1億円
【現在の状況】
・相続人としてAと甥Cがいるが甥Cは未成年のため、Cの母方の祖父Dを特別代理人に
選任する予定
・相続財産のうち株式5,000万円はAが100%相続する予定
・上記の場合、現預金5,000万円は法定相続分に従えば全額が甥Cのものとなるが、甥
C及び祖父Dは2,000万円で構わないと言っている
(元々3,000万円は事業会社の設備更新投資資金として父Bが貸付ける予定のものと説
明した結果、Aの財産とすることに納得した)
【問題点】
・司法書士から「特別代理人の選任を家裁に請求する際、添付する遺産分割協議案は
法定相続分に従ったものでないと認められない。
例えばAに株5,000万円及び現預金3,000万円、甥Cに現預金2,000万円といった分割案
は未成年の利益保護の観点から通らない」
と指摘されました。
【ご質問】
①本件では、事業会社の存続のために甥C及び祖父Dが法定相続分以下でも良しとして
います。
(祖父Dが特別代理人となる場合、将来甥Cから3,000万円の損害賠償請求を受けるリ
スクはあったとして、祖父Dは了承しています)
この場合でも、家裁は当該遺産分割を認めることはできないでしょうか?
それとも、祖父Dがリスクを承諾すれば認められますでしょうか。
②当事者の全てが合意していても未成年者の相続財産が法定相続分を下回る分割案は
不可だとして、これを可能にする手立てをご存知であればご教示頂けますでしょう
か?
③仮に祖父Dが甥Cを養子に迎え入れた場合、祖父Dは特別代理人になれますでしょう
か?
またなれたとして、上記の状況(法定即相続分を下回る分割案が困難な状況)は特に
変わらないでしょうか。
何卒宜しくお願いいたします。
ご質問にある「特別代理人の選任」は、民法826条1項のものと思われますが、
これは、親権者である父親、母親などの親権者または未成年後見人(裁判所の選任により、親権者の代わりに未成年者の財産管理等を行う人)とその未成年の子の利益が相反する場合に、選任が認められるものです。
たとえば、父親が死亡し、相続人が母親と未成年の子の2人の場合、母親と未成年の子(母親が親権者として代理)の間で遺産分割協議を行うことになるので、利益相反の関係になります。このような場合に特別代理人を選任し、母親と未成年の子(選任された特別代理人が代理)との間で遺産分割協議を行うことで、利益相反の状況をなくし、未成年者の利益を保護しようという制度です。
ご質問のご事情を拝見する限りですと、今回のAとCの遺産分割協議が、上記のような利益相反の関係にあるというご事情は見受けらません。
今回のケースで特別代理人の選任されるべき利益相反の状況があるとすれば、Aが、未成年者Cの未成年後見人に選任されているため、AとC(未成年後見人AがCを代理)との遺産分割協議にあたり、利益相反の状況が生じているということかと思われます。
司法書士さんにもご確認いただいているとのことで、お間違いはないと思いますが、以下、上記のような状況である(Aが未成年後見人になっているため利益相反の状況が生じており、特別代理人選任申立ての要件を満たしている)という前提で、ご回答します。
もし、上記のような状況でないとすると、ご質問の前提が変わってきますので、再度ご質問いただければと存じます。
1 ご質問①~特別代理人選任の可否~
(1)ご質問および回答の結論
>①本件では、事業会社の存続のために甥C及び祖父Dが法定相続分以下でも良しとして
>います。
>(祖父Dが特別代理人となる場合、将来甥Cから3,000万円の損害賠償請求を受けるリ
>スクはあったとして、祖父Dは了承しています)
>この場合でも、家裁は当該遺産分割を認めることはできないでしょうか?
>それとも、祖父Dがリスクを承諾すれば認められますでしょうか。
未成年者の取り分が法定相続分以下でも、法定相続分以下となっている合理的な理由があれば、裁判所が特別代理人の選任を認める可能性自体はあります。
ただ、特別代理人候補者である祖父Dが当該遺産分割を承諾していれば認められるというわけではありません。
(2)回答の理由
ア 法定相続分以下の遺産分割協議の場合の特別代理人の選任の可否
もちろん、原則的には司法書士の先生のおっしゃる通りですが、
未成年者の法定相続分以下の遺産分割協議だと絶対に通らないかといえば、そうではありません。
特別代理人の選任について、明確な条文上の許可基準はありませんが、未成年者の取り分が法定相続分以下になっていることについて合理的な理由があれば、裁判所も許可を出すこともあるという運用がなされています。
特別代理人の制度は、利益相反が生じる場合に、利害関係のない者を選任して、特別代理人に公正な判断をさせ、未成年者の利益を保護するための制度です。そのため、裁判所は、特別代理人選任の時点で、未成年者の不利益とならない(不利益な内容であれば、その点についての合理性がある)内容かどうかを審査するという運用がなされているのです。
ですので、特別代理人(候補者)が、遺産分割協議案に合意しているからといって、どのような内容でもよいというものではありません。
イ 実務上の対応
では、どのような内容であれば通るのか、という点については裁判所の運用に任されており、明確な基準があるわけではありません。
少なくとも、今回のケースでは、いただいた事情の中ですと、合理的な理由となり得る事実としては、以下のものが挙げられると考えます。
・会社の株式は、会社を事業承継したAが取得するのが合理的
・5000万円の預金のうち3000万円は、設備更新投資資金として、父Bが会社に貸し付ける予定であったため、会社を承継したAのものとすべき(会社の資金として運用する予定である。)
・特別代理人候補者である祖父Dも分割協議案を了承している。
・DはCの母方の祖父であり、AとDは近しい関係にはないため、Aの意向に流されることなく、Cにとって公正な判断ができる立場にある
(Cがある程度の年齢に達しており、自身でしっかりと損得を判断することができるのであれば、Cが遺産分割協議案に納得していることも有利な事情になる可能性があります。)
申立のときに、このような内容を裁判所に対する「上申書」のような形で伝え、Cに不利益な内容となっているのには合理的な理由があるのだということを主張していただくことになるかと存じます。また、申立後に裁判所から申立人や特別代理人候補者に照会があるのが通例なので、その時にも事情を伝えていただけばと存じます。
2 ご質問②~特別代理人の選任以外の方法~
(1)ご質問
>②当事者の全てが合意していても未成年者の相続財産が法定相続分を下回る分割案は
>不可だとして、これを可能にする手立てをご存知であればご教示頂けますでしょう
>か?
(2)回答
※AがCの未成年後見人になっていることを前提とします。
以下の2つの方法が考えられますが、裁判所の判断に左右されず、確実に実現できるのは②です。
ア ①Aが未成年後見人を辞任し、誰かほかの人を未成年後見人に選任する
未成年後見人は、裁判所の許可を得て、辞任することができます。その後、他の者を未成年後見人とする申立てを行い、これが裁判所に許可されれば、新たに未成年後見人になった人が、未成年者Cの未成年後見人として、Aとの間での遺産分割協議を行うことができます。
なお、A以外の人がCの未成年後見人としてAとの間で遺産分割協議を行うのであれば、利益相反の問題は起こりませんので、特別代理人の選任も不要です。
ただし、未成年後見人の辞任の許可は、「正当な事由」(民法844条)がなければ認められません。また、未成年後見人の選任についても裁判所の許可が必要なので、確実に実現できる方法ではないです。
イ ②未成年者Cを誰か(たとえば祖父D)の養子とする方法
CをDの養子とすれば、Dは、親権者として、Cに代わりAとの間で遺産分割協議を行うことが可能になります。Dは相続人ではなく、遺産分割協議に相続人として関与することもないので、遺産分割協議にあたり、CとDとの間で利益相反の問題もなく、特別代理人の選任も不要です。
このようにすれば、裁判所の関与なく、遺産分割協議を行うことが可能になります。
なお、Dが養親となったことで、Aの未成年後見人の地位も終了します。未成年後見人というのは、あくまで親権者がいない場合に、補充的に未成年の財産管理などを行う人なので、親権者が新たに現れれば、必要がなくなるからです。
この方法であれば、裁判所の判断に左右されず、確実に実現できます。
3 ご質問③~Cが祖父Dの養子になった場合~
>③仮に祖父Dが甥Cを養子に迎え入れた場合、祖父Dは特別代理人になれますでしょう
>か?
>またなれたとして、上記の状況(法定即相続分を下回る分割案が困難な状況)は特に
>変わらないでしょうか。
上記のとおり、CがDの養子になれば、裁判所の関与なく、Cの代わりにDが親権者として遺産分割協議を行うことが可能です。また、特別代理人の選任も不要になります。