・会社A(委託元)が個人事業主B(委託先)と業務委託契約を締結予定。
・会社Aとしては、個人事業主Bに対し、委託業務に関連して個人事業主Bが
知り得た情報を利用して、すべての取引先(会社Aの顧客以外も含む)に
使用、活用、流用させないようにしたい。
これは、委託業務終了後も適用されるようにしたい。
具体的な条文案としては以下のとおりです。
第●条(情報の目的外利用の禁止)
1.乙は、直接・間接を問わず、委託業務の遂行により知り得た情報を他の
目的のために利用してはならず、当該情報を利用して新たな取引(甲の取引先
に限らない)を行わないものとする。
2.前項の規定は、委託業務終了後においても効力を有する。
【ご相談事項】
そもそも、このような定めについて、制限が厳し過ぎるとして、あるいは
何らかの法令や公正取引委員会関連のガイドライン等に抵触するものとして
無効になるような可能性はありますでしょうか?無効になるリスクがあるので
あれば、委託業務終了後2年間は効力を有するというように、期間を設ける
ことも考えておりますが、その場合はいかがでしょうか?
お手数おかけいたしますが、よろしくお願いいたいします。
>そもそも、このような定めについて、制限が厳し過ぎるとして、あるいは
>何らかの法令や公正取引委員会関連のガイドライン等に抵触するものとして
>無効になるような可能性はありますでしょうか?無効になるリスクがあるので
>あれば、委託業務終了後2年間は効力を有するというように、期間を設ける
>ことも考えておりますが、その場合はいかがでしょうか?
(1)有効期間について
秘密保持契約の有効期間を無制限とする条項は、厳密にいえば、法的に無効になる可能性がないわけではありませんが、実際に裁判等で有効性が紛争となっている事例は見当たりませんし、競業の禁止等と比べ権利の制約が強いものとまでは言えません。
ですので、契約書の定めとしては、相手が合意するのであれば、現状のまま無制限としていただいてよいかと存じます。
ただし、現状の文言ですと、秘密情報の範囲が不明確な点もありますので、将来に備えるのであれば、この条項に加えて、現状で、特に守りたい情報があれば、その情報を例示として個別具体的に記載しておくことも良いかと思います。記載例等の詳細は、「2
回答の理由(1)」をご覧ください。
(2)その他の条項について
ご質問の事項ではありませんが、契約終了後に情報を使用されるのを防ぐいう意味では、
以下のような条項を入れていただくこともご検討いただければと存じます。
・契約終了時に情報を返却・廃棄する旨の規定
・返却または廃棄したことを証明する証明書の提出を請求できる旨の規定
・違約金の規定
記載例等の詳細は、「2 回答の理由(2)」をご参照ください。
2 回答の理由
(1)有効期間について
秘密保持義務の有効期間について、秘密情報の種類・内容や秘密保持義務の範囲等の兼ね合いではありますが、期間を無制限とする定めは、合意理性を欠き、無効となる可能性が全くないわけではありません。
ただ、実務上、無効を主張して裁判等の紛争になっている事例は見当たりませんし、競業の禁止等と比べ権利の制約が強いものとまでは言えません。
ですので、契約書の定めとしては、相手が期間の短縮・限定を主張してこないのであれば、現状のままの規定としていただいてよいかと存じます。
ただし、現状の文言ですと、秘密情報の範囲が不明確な点があります(将来のことですので、このような規定になること自体はやむをえないのですが)ので、対象情報の範囲で、将来争いになる可能性があります。この条項に加えて、現状で、特に守りたい情報があれば、その情報を例示として個別具体的に記載しておくことも良いかと思います。
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第●条(情報の目的外利用の禁止)
1.乙は、次の各号に規定する情報を他の目的のために利用してはならず、当該情報を利用して新たな取引(甲の取引先に限らない)を行わないものとする。
一 【特に現状で守りたい情報を記載】
二 【特に現状で守りたい情報を記載】
三 その他、直接・間接を問わず委託業務の遂行により知り得た情報
2.前項の規定は、委託業務終了後においても効力を有する。
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(2)その他の条項(ご質問事項ではありませんが、ご参考になさってください。)
契約終了後に情報を使用されるのを防ぐいう意味では、以下のような条項を加えることもご検討いただければと存じます。
ア 契約終了時に情報を返却・廃棄する旨の規定
秘密保持契約では、契約終了後に、情報の返却・廃棄を相手に義務づける条項を入れておくのが一般的です。
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第〇条 乙は、次の各号のいずれかに該当する場合、直ちに乙が委託業務の遂行により知り得た情報が記載・記録された書類その他一切の記録媒体(電磁的方法を含むが、これらに限定されない)及びその複製物を、甲の指示に従って、甲に返却し又は廃棄するものとする。
(1)甲の請求があったとき
(2)本契約が終了したとき
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イ 返却または廃棄したことを証明する証明書の提出を請求できる旨の規定
相手が秘密情報を返却・破棄したことを確認・担保するため、証明書の発行を請求できるようにする規定を入れることもあります。このような証明書を提出してもらうことで、相手がすべての情報を廃棄・返却することへの強制力になりますし、何らかの紛争になった場合に、証拠として使用することができます。
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第〇条 乙は、情報開示者が要請した場合には、速やかに第〇条【※上記の秘密情報の返却・破棄の規定の条文番号を記載してください】に基づく乙の義務が履行されたことを証明する書面を甲に対して提出するものとする。
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ウ 違約金の規定
これはあまり一般的ではありませんが、情報の目的外利用の禁止や情報の返却・破棄の条項に違反した場合に、支払う違約金をあらかじめ定めておくことも稀にあります。そうすれば、違反した場合に支払う金額が明確になり、相手への抑止効果が相当高まります。ただ、違約金の金額が明確になってしまうため、相手からの反発も強いところかと思います。
なお、違約金として具体的な金額を定めない場合(「相手方が被った損害を賠償する」というような定め)、違反により生じた損害額の立証が難しく、実際の裁判では、損害賠償を請求することは困難になります。
相手との関係性も踏まえ、このような条項を入れるかどうかを検討いただければと存じます。
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第〇条 乙が、第〇条【※情報の目的外利用の禁止の条項の条文番号を記載してください。】、または、第〇条【※返却・破棄の条項の条文番号を記載してください。】に違反した場合には、甲に対し、違約金として〇〇万円を支払う。
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よろしくお願い申し上げます。
会社Aでは、個人事業主Bとの間で別途に秘密保持契約を締結予定であり、
そちらには比較的詳細に記載されております。
今回、ご相談させていただいたのは、実は、秘密保持というよりは競業の
禁止的な要素(要は、個人事業主Bは会社Aを通さずに新たな取引をする
ことはできない))も含まれているのではと考えたからであります
個人事業主Bは、会社Aが顧客から受けた業務の再委託先であり、同業者とも
いえる状況です。今回のご相談とは別契約にて再委託しております。
現状の文言のままでは、単なる秘密保持として解釈されてしまうということ
でしょうね。
もし、両者が同業者であるという前提が加わった場合でも、見解は変わらない
でしょうか?
>現状の文言のままでは、単なる秘密保持として解釈されてしまうということでしょうね。も
>し、両者が同業者であるという前提が加わった場合でも、見解は変わらないでしょうか?
詳細は「2」に譲りますが、現状の文言のままでは、競業禁止的な意味合いまで含まれていると解釈することは困難でしょう。
なお、競業禁止の規定を定める場合、禁止の期間についてのみ言えば、具体的な要素との兼ね合いでかなり変動のあるところですが、一般的には2年程度を定める場合が多いと思われます。
2 回答
(1) 現状の契約書の解釈
秘密保持を超えて、競業禁止を定めたというものと解釈することは困難かと思われます。
競業禁止の場合、義務を負う側の権利(「職業選択や営業の自由といった憲法上の権利」)の制限は強いものになりますので、契約上競業禁止をするのであれば、真正面から規定し、お互いが納得している証拠がなければ、競業禁止の効力が発生するとは考え難いです。
確かに現状の規定の仕方ですと「情報を利用して」として、広く対象とすることで、実質的に競業することをできなくするという意図も見てとれないこともないですが、現状の規定ですと、「情報を利用」、「情報」や「利用」の解釈として、競業を禁止できてしまうような情報や使用(経験で得た一般的な知識等)まで、禁止しているとは上記理由から考えられないと考えられます。
税理士業を例にとると、税理士業の下請けをして、そこで得た税務知識や技能等の使用を禁止することはできません。
(2) 競業禁止規定を定める場合の有効性について
競業を禁止されたいということであれば、正面からそのような規定にした方がよいでしょう。
競業を禁止する規定の有効性は、一律に期間のみで決まるわけではなく、①相手の利益が制限される程度がどの程度か(禁止される範囲、期間、地域的な限定など)、②守るべき会社側の利益がどのようなものか(営業秘密の保護、顧客の確保など:制約の必要性)、③代償措置がとられているかどうか(相手がその契約により得る報酬等の利益の大きさ等)などを総合して判断されます。
禁止の期間についてのみ言えば、具体的な要素との兼ね合いでかなり変動のあるところですが、一般的には2年程度を定める場合が多いと思われます。
よろしくお願い申し上げます。