民法

合意内容を電子メールで残すことの効果について

当事者間の諸事情により、あえて契約書等の正式な文書にせずに、合意内容を
お互い電子メールで残すという実務運用はよく見られると思います。
また、相手方が電話で認めたようなことについて、メールでその旨について
改めてやりとりをし、文章を残す(文章にしたことを相手に認識してもらう)
という運用もよくあると思います。

このような運用について、相応の効果はあるといいますか、少なくとも
相手方から「メールだから合意したことにはならない」などと言われることは
ほとんどないと認識しておりますが、実際に揉めたような場合や裁判になった
ような場合等におけるメールの効力としてはどのように考えておけばよろしい
でしょうか?

1 ご質問および回答の結論

>当事者間の諸事情により、あえて契約書等の正式な文書にせずに、合意内容を
>お互い電子メールで残すという実務運用はよく見られると思います。
>また、相手方が電話で認めたようなことについて、メールでその旨について
>改めてやりとりをし、文章を残す(文章にしたことを相手に認識してもらう)
>という運用もよくあると思います。
>実際に揉めたような場合や裁判になった
>ような場合等におけるメールの効力としてはどのように考えておけばよろしい
>でしょうか?

(1)当事者間の諸事情により、あえて契約書等の正式な文書にせずに、合意内容をお互い電子メールで残す場合

 メールでの合意は、契約書等と異なる取り扱いがなされる部分もありますが、証拠としての価値は契約書等にそれほど劣らないと考えていただいてよいかと思います。

 ただし、高額な不動産の売買契約など、契約書を作成することが通常である取引の場合には、契約書が作成されていないという事実自体が、契約の成立を否定する方向の事情になる場合もありますので、ご注意ください。

(2)相手方が電話で認めたようなことについて、メールでその旨について改めてやりとりをし、文章を残す(文章にしたことを相手に認識してもらう)場合

 相手からの返信があり、相手もその内容を承諾しているような場合には、メール記載のとおりのやりとりがあったと認定されると可能性が高いです。
 また、メールの効力は、他の証拠との関連で強まることもあり、メールでの合意のとおりに契約の履行がされているなど、メールの内容を裏付ける事実がある場合には、メールの効力としては格段に上がることになります。

 なお、(1)と比較して、相手から返信がない場合には、相手がその内容を了承していなかった等の反論をされるおそれは残りますので、できれば、相手から返信をもらっておくようにしてください。

2 回答の理由
(1)当事者間の諸事情により、あえて契約書等の正式な文書にせずに、合意内容をお互い電子メールで残す場合

 お互いの合意内容がメールの文面自体で明確になっている場合(こちらが、合意内容はこれでよいですか?と確認したのに対し、相手がOKの返事をしているなど)、書面ではなくメールだから、合意はしていないということにはなりません。
 ただ、以下の点で、正式な合意書を残す場合とは取り扱いが異なってきます。

ア 相手が、自分が送ったメールではないと争いになる可能性がある
(ア)文書の成立の真正(作成者が作成した文書であるかどうか)

 文書は、作成者により作成されたことを証明しなければなりません(民事訴訟法228条1項)。メールの場合、相手が自分で送った(または相手の意思で誰かに送らせた)メールであることを証明しなければ、証拠としては使えません。

 これは、正式な契約書の場合でも、相手が、自分が作成したものではないと争えば問題となります。ただ、文書の場合は、その文書に、相手の署名または捺印があれば、その署名・捺印をした人が文書を作成したことが推定されます(民事訴訟法228条4項)。
 一方、メールでは、署名・捺印がないので、この推定規定の対象にはならず、こちら側が、相手が送ったメールであることを立証しなければなりません。
 この点で、正式な契約書とメールでの合意とは扱いが異なります。

(イ)実際の裁判では

 もっとも、実際の裁判においては、相手がメールは送っていないなどと争ってくることはあまりありません。相手が争わなければ、立証は不要になるので、契約書での合意の場合と、この点について扱いはかわりません。

 また、仮に争ってきたとしても、メールが普段相手が使用しているアドレスから送られたものであれば、相手において、自分が送ったメールではない(自分のアドレスを使って別人が送った)というような事情を具体的に立証できなければ、結論はひっくり返らないかと思われます。
 ですので、この点では、メールと契約書の扱いはそれほど異ならないかと思います。

イ メールの改ざんのおそれ

 他に、合意書とメールとの違いとしては、メールは電子データなので、通常の文書よりは改ざんすることが簡単だという点が挙げられます。
 相手がメールの内容が改ざんされたものだと主張してきて、改ざんが疑われるような事情があると、メールの証拠としての価値が下がってしまいます。

 もっとも、実際の裁判において、このような主張がなされることはあまりないですし、改ざんを主張する場合は、相手が具体的に改ざんされていると思われる根拠を証明しないと、このような主張は認められない可能性が高いです。

ウ 最終的な合意には至っていないと認定されるリスク

 契約書ではなく、メールだと最終的な合意に至ったという認定がなされないということではありませんが、通常契約書が作成されるような高額な不動産売買等で、メールのみのやりとりで終わっているという場合には、裁判所に最終的な合意には至っていないのではないかと疑われる1つの事情になる可能性もあります。最終的に契約書が作成されていないのは、まだ仮の段階だったのではないかというふうに思われかねないということです。

 メールの効力とは少し別の話ですが、契約書が締結されていないという事実自体がマイナスに働いてしまう可能性もありますので、ご注意ください。

エ まとめ

 メールでの合意と契約書による場合とでは、上記のような違いはありますが、裁判において、証拠としての価値は契約書等にそれほど劣らないと考えていただいてよいかと思います。
 もちろん、上記のように、メールは、証拠として合意書に劣る部分がありますので、可能であれば合意書にしていただいた方がよいです。

(2)相手方が電話で認めたようなことについて、メールでその旨について改めてやりとりをし、文章を残す(文章にしたことを相手に認識してもらう)場合

ア 相手からの返信がある場合

 相手から、メールの返信があり、電話での話の内容がこのメールのとおりであったということが了承されていれば、上記の(1)と同様に考えていただいてよいかと存じます。これにより、電話で、メール内容記載のやりとりがなされたことが認定できると思います。

イ 相手からの返信がない場合

 メールに対して相手の返信がない場合でも、相手が通常使用しているアドレスに送っているのであれば、「相手はその内容を認識して、異議を述べなかった」ととらえられ、電話の内容がそのメール記載のものであったということは認定される可能性は高いです。
 ただ、相手は、メールを見ていなかった、または、見たけど内容を認めたわけではないというような反論を許してしまう余地はあるので、できれば、相手からメールに対して何からの返信をもらっておくのがベターです。
 なお、メールの効力は、他の証拠との関連で強まることもあり、メールでの合意のとおりに契約の履行がされているなど、メールの内容を裏付ける事実がある場合には、メールの効力としては格段に上がることになります。

ウ 相手からの返信をもらう方法(ご質問事項ではないですがご参照ください。)

 その方法としては、以下のようなものが考えられます。

・単純に「間違いなければその旨ご返信ください。間違いがあればご指摘ください。」という文言をつけておく
→これで間違いない旨の返信があればOKです。

・電話でのやりとりの内容とは別に、返信が必要になるような事項を付け加えておく
→返信があれば、相手がメールを見たこと自体は間違いないといえます。そして、電話内容について触れていなかったとしても、触れていないという事実自体で、認識に齟齬はなかった(異議はないんだろう)ということが推認される可能性が高いです。

 このような運用にしていただければ、仮に紛争となった場合に、メールの証拠としての価値も上がってきます。ご参考にしていただければと存じます。

 よろしくお願い申し上げます。