労働法 その他

外国人労働者・パワハラ対策予防

●前提
・調剤薬局店舗
・パート含め6名程度
・就労ビザではないが、パート勤務程度であれば就労できるビザで勤務しているインド人
・上記インド人が在籍社員に上からの言い方でクレームが出てている
・現在、インド人には特別休暇として勤務はさせていない

●質問
・上記の前提において、インド人の処分は法律的にどのような対応ができますでしょうか?
・また、ご指示いただいた対応によって、会社として出てくる今後の対応は何がありますでしょうか?
・さらに、今後、このようなことが出てくる前に、会社として整備しておくべきことは何でしょうか?
・法律的会社ではなく、ご関与されている法人では現実、どのような対応を取られていることが多いですか?

以上、宜しくお願い致します。

複数のご質問をいただきましたので、
1 ご質問①〜インド人に対する法律的な対応手段〜
2 ご質問②〜会社の今後の対策等について〜
3 ご質問③〜現実的な対応〜

という流れで、回答させていただきます。

1 ご質問①
(1)ご質問および回答の結論
>・上記の前提において、インド人の処分は法律的にどのような対応ができますでしょうか?
>・また、ご指示いただいた対応によって、会社として出てくる今後の対応は何がありますでしょうか?

 会社として取りうる法的な手段としては、以下のようなものがあります。
・改善指導・命令
・退職勧奨
・普通解雇
・懲戒処分(就業規則の定めによりますが、減給処分・出勤停止・降格処分・懲戒解雇などが代表的)

 今回のケースだと、具体的な事情にもよりますが、普通解雇や懲戒処分を行うことは難しいかと思います。
 全体の流れとしては、問題行為などの事実を確認・確定させながら、改善指導・注意等により、段階的に問題社員に改善を促し、それでも改善が見られない場合には、退職勧奨により合意退職にもっていくというのが現実的なラインであると考えます。

 なお、後の紛争に備え、発生した事実や、会社側が改善の指導を繰り返し行った事実は、書面などの形で、証拠として残しておくようにしてください。

(2)回答の理由
ア 総論

 会社がとり得る手段としては、以下のようなものがあります。
・改善指導・命令
・退職勧奨
・普通解雇
・懲戒処分(就業規則の定めによりますが、減給処分・出勤停止・降格処分・懲戒解雇などが代表的)
 ※ただし、懲戒処分に関しては、就業規則か本人との雇用契約書に、その種類や懲戒事由が定めてある場合しか行うことができませんので、ご注意ください。

 最終的には、普通解雇や懲戒処分に踏み切ることも考えられますが、今回のケースでは、このような処分を行うと、無効とされる可能性が高いです。また、普通解雇や懲戒処分を行う場合には、紛争化するリスクが高いため、最後の手段と考えていただいた方がよいでしょう。
 まずは、改善を何回も促し、それでも改善しない場合には、退職勧奨により、合意退職に持っていくというのが基本的なラインかと存じます。何回も改善を促したが改善が見られないという事情は、後に法的な処分を行う際に、こちら側にとって有利な事情となります。

イ 会社側がとるべきプロセス
(ア)事実の確認

 すでに行っていただいているかとは思いますが、まずは、会社側において正確な事実を確認してください。今回の場合、特に何か証拠が残るようなものではないでしょうから、方法としては

・両当事者からの聞き取り
・その他、関係者(目撃者)からの聞き取り
 などが考えられます。

 両者の言い分が食い違っている場合などは、関係者の話も聞いて、客観的な事実がどのようなものであったかを、会社側が判断してください。
 また、誰が、いつ、どこで、どのようなことを行ったか、について報告書などの形で、社員さんに作成してもらって下さい。どのようなことがあったかを証拠に残しておくと、最終的に法的な紛争になった場合に使えますので、何らかの形で、書面で残しておくことが重要です。

(イ)改善指導・命令

 事実を確認した結果、会社として、不適切であると判断した場合には、本人に改善を求めることなどを伝え、改善指導・命令を行います。これは、書面で行うようにしてください。後で会社が指導を行ったことを示す重要な証拠になります。

 それでも、本人に改善の意思が見られず、状況が改善しない場合、再度指導等を行います。
 一般的には、これを複数回繰り返します。

(ウ)退職勧奨

 複数回の改善指導にもかかわらず、本人に全く改善が見られず、会社としてその社員に退職してもらいたいと考えた場合には、合意による退職を促します(退職勧奨)。ただ、これは、社員が任意に退職することを促すものなので、強制的に退職に追い込むような方法にならないようご注意ください。
 「退職しなければ解雇をするぞ」というように、解雇を後ろ盾として退職を迫るような手法によると、退職勧奨が違法とされ、損害賠償等の可能性もあります。
 あくまで、クレームが出ている事実、注意をしても改善されないこと、その他の事情により、退職をした方がよいという形で、「説得」するということを心掛けてください。場合によっては、退職金的なものを支払ってでも合意により退職してもらった方が、紛争化のリスクを考えると、トータル的に会社にとってメリットがある場合もあります。

(エ)普通解雇・懲戒処分の検討

 退職に合意しない場合、普通解雇・懲戒処分をするかどうかについて検討することになります。
 懲戒処分の種類としては、就業規則に定めがあると思いますが、一般的には、以下のようなものがあります(正確には、就業規則をご確認ください。※就業規則や本人との雇用契約書に明確な定めがない限り、懲戒処分は行えませんのでご注意ください。)。
・減給処分
・出勤停止
・降格処分
・懲戒解雇

 ただ、今回の事案では、違反行為の重大性が高くないため、懲戒処分や普通解雇が適法とされる可能性は低いと思います(もちろん、具体的な事情によりますが、一般的に適法と認められるハードルは高いです。)
 どうしても、懲戒処分や普通解雇を行う場合は、後に紛争になるリスク、違法とされるリスクがあることを承知の上で行うというスタンスになるかと思われます。

 なお、仮に普通解雇・懲戒処分を行う場合には、本人に弁明の機会(言い分を聞く機会)を与えてください。後で紛争化し、処分の有効性が問われた場合に、処分をする際に適正な手続をとっていたかどうかが問われますので。

ウ まとめ

まずは、改善指導を繰り返し、改善されるかどうかを見ます。

複数回の指導にもかかわらず改善する意思や、改善の状況が見られなければ、次のステップへ

退職勧奨により、合意による退職を目指します。退職の合意ができれば問題はなく、その後に紛争化する可能性は低いです。ですので、合意退職にもっていくのが最も安全策です。
↓(それにも応じなければ)
普通解雇・懲戒処分(減給処分・出勤停止・降格処分・懲戒解雇など)の検討
いずれも、相当重い事由がないと有効とは認められません。
また、紛争化する危険が高まりますので、いずれかの処分を行う場合には、後に紛争になるリスクがあることを覚悟の上で行うということになります。

※各段階において、事実の確認をしっかりと行うこと、事後の紛争に備え書面にて証拠を残しておくことを心掛けてください。

2 ご質問②
(1)ご質問および回答の結論
>・さらに、今後、このようなことが出てくる前に、会社として整備しておくべきことは何でしょうか?

 全体的な会社の具体的な状況による判断になりますが、就業規則がないということであれば、いざという時のために、就業規則を定め、懲戒処分等を明確に定めておくことが必要です。また、何より、このような事態が起こった場合に、適切に対応するということが重要です。

 また、辞めてほしいときに辞めてもらえるという意味では、期間雇用にしておくということも一案かと存じます。期間雇用としておけば、契約期間が満了した場合、その時点で契約が終了します(継続する義務はありません。)。ですので、それほど長く雇用する予定がないということであれば、期間雇用としておいてもよいかもしれません。
 もっとも、形式的には、契約期間を限定した雇用としていても、更新が何回も繰り返されていたり、契約更新の際の手続が全くされていなかったり(通常の雇用契約のように扱われていたり)、従業員に対して雇用期間の継続が前提となるような説明がなされていたり、従業員が継続雇用に対する期待を抱くような状況にあったりするなどの事情があると、形式的には期間雇用であっても、通常の雇用と同様に扱われる可能性もありますので、この点はご注意ください。
 ざっくり言えば、期間雇用として扱われるためには、形式だけではなく、期間雇用であるという実質を備えている必要があります。

3 ご質問③
(1)ご質問および回答の結論
>・法律的会社ではなく、ご関与されている法人では現実、どのような対応を取られていることが多いですか?

 一般的には、粘り強く改善を求めていく、指導をしていくというアドバイスをすることが多いです。また、改善を求めたことを文書で残してもらうことは徹底してもらっています。

 基本的には、いきなり解雇とか、懲戒処分というような性急な対応は控えてもらうようにしています。紛争化した場合の時間的、精神的、金銭的なコストが大きいため、できる限り紛争にならないように納めるというのが基本的な方針です。
 その意味で、退職勧奨により、何とか退職の方向で説得してもらうという方法をおすすめしています(場合によっては、退職金的なものを支払ってでも合意により退職してもらった方が、紛争化のリスクを考えると、トータル的に会社にとってメリットがある場合が多いです。)。
 依頼者様のご意向や違反行為の重大性等によっては解雇等の処分に踏み切ることもありますが、その場合は、解雇が無効として争われるリスクがついて回ることについてはしっかりとご説明し、ご了承いただくようにしています。

 改善の指導を複数回行い、それでも改善が見られなければ、何としても合意退職で相手にも納得してもらうというのが基本的なラインかと存じます。

 よろしくお願い申し上げます。