相続 民法

名義預金の考え方

名義預金のことで教えてください。

 夫婦の間で配偶者名義の預金に限定して質問いたします。

 相続税申告の際、名義預金の話をするときに、

相続人の中で法律を知っている人がいる場合によく聞かれることですが、

「夫婦が婚姻後に形成した財産は共有でしょう?もちろん実家の相続で得た財産は

特有財産ですが、この考え方からすると、専業主婦だって、主人が婚姻後に形成した

財産の半分は妻のものなのです。にもかかわらず、妻名義の預金について、

被相続人の財産だというのおかしいのではないか?

 実際に離婚のときの財産分与についても、双方が婚姻後に形成した財産の原則、

半分がそれぞれに帰属するのです。だから仮に相続財産として申告するとしても婚姻後、

夫婦で形成した財産の1/2を申告すればいいのではないのか?」

私自身この考えがわからないわけではないのです。

 しかし、私の立場としては「税務実務では民法上の贈与がなされていない以上、

奥様の名義を借りているだけの本人の預金と考えるし、不服審判所の裁決や

税務訴訟における判決においても、そういう取り扱いがなされている」としか説明で

きないのですが、実際のところのその根拠はどういうところにあるのでしょうか?

 また夫婦間に贈与なんて概念はあり得ない、とも言われます。これは相続人の親戚の

某大学の法学部教授から言われたことだそうです。

 法律に詳しい人も納得させられる根拠を教えていただきたいのです。

よろしくお願いします。

1 ご質問

>私の立場としては「税務実務では民法上の贈与がなされていない以上、
>奥様の名義を借りているだけの本人の預金と考えるし、不服審判所の裁決や
>税務訴訟における判決においても、そういう取り扱いがなされている」としか説明で
>きないのですが、実際のところのその根拠はどういうところにあるのでしょうか?

2 ご回答
(1)夫婦別産制について
 民法上は、夫婦といえども、法律的には別の主体であり、それぞれが得た財産はそれぞれが所有するというのが原則です(民法762条1項。夫婦別産制)。ですので、夫が稼いだお金は、基本的には夫のものになります。
 なお、例外的に、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、共有と推定されるということになっています(民法762条2項)。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(夫婦間における財産の帰属)
第762条  夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2  夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 このように、原則としては、財産を得た者の所有となり、夫婦の共有となるのは例外的な場合です。結婚しているからといって、夫婦のどちらかが得た財産が、当然に他方との共有になる(半々になる)ものではありません。
 なお、離婚の時に、夫・妻の間で、財産を半分ずつに分ける(事情により、必ずしも半分ずつというわけでもありませんが。)ことになるというのは、離婚する時に、財産が少ない方が、多く持っている方に対して、財産を分けることを請求する権利(財産分与請求権)があるからです(民法768条1項)。婚姻中に、もともと夫婦で半分ずつの財産を有していた(夫婦の共有であった)ということではありません。あくまでも、離婚を原因とする請求権が生じるということであり、婚姻中は、どちらかの財産になるというのが原則です。

(2)配偶者名義の預金の帰属について
ア 判断枠組み
 預金口座が被相続人以外の名義になっていたとしても、その預金債権が相続開始時において、実質的には被相続人に帰属すると認められる場合には、預金債権も相続税の課税対象となります。
 預金が、実質的に被相続人に帰属すると認められるかどうかは、以下のような要素を総合考慮して判断されます。
・預金の原資を出したのは誰か
・預金口座の管理・運用を行っていたのは誰か
・預金口座から生じる利息の帰属者
・被相続人と預金の名義人との関係
・預金口座の名義人がその名義を有することとなった経緯
など

イ 重視される考慮要素
 具体的な事情にもよるところですが、一般的には、上記の考慮要素の中でも、預金の原資を出したのが誰かという点が重視される傾向にあります。
 この点でいえば、夫のみに収入があり、妻が専業主婦で収入がないという状況だと、妻名義の預金の原資を出したのは夫であるという認定がなされるのが一般的です。なお、上記1のとおり、夫婦別産制がとられているため、夫が稼いだお金の半分が当然に妻のものになるという判断はなされません。

ウ 贈与の事実について
 上記の考慮要素とは別に、預金の原資となった金銭や預金債権自体を、夫と妻が贈与契約をした事実が認められれば、その財産は妻に移転し、名実ともに妻の財産となります。なので、相続開始時において夫の財産ではないといえます。
 そこで、贈与の事実が認められるかどうかが、大きな争点になります。
 贈与があったかどうかは、贈与契約書の有無、贈与税申告の有無、贈与するに至った経緯・動機の有無などの事情を総合的に考慮して判断されることになります。
 なお、夫婦であっても、民法上は別の主体なので、夫婦間における贈与という概念は当然にあり得ます。

(3)まとめ
 夫婦間において、夫のみ収入があり、妻が専業主婦で預金の原資を支出するための収入がない状況で、妻名義の預金口座で管理していたとしても、その預金の原資は夫の収入であり、預金は夫の財産であるという認定がなされる可能性が高いと思われます。その金銭について、夫と妻の間で、贈与契約がなされたという事実が認められなければ、そのまま夫の財産となり、相続財産に含まれることになります。

 よろしくお願い申し上げます。