相続

相続人不存在の場合の法律関係

相続人不存在の場合の法律関係について、以下を教えてください。

1 相続債権者の関係

債権者は申し出ることとされていますが、その申出期限を過ぎてしまうと、今後は一切自己の債権を主張することができないという理解でよろしいでしょうか。

加えて、申出時に存在することを失念した債権が、上記期限経過後に判明した場合はどうでしょうか。例えば、死亡した者に給与を過大に支払っていたことに気づかず、税務調査などで過大支払が発覚した、という場合、過大支払分を取り戻せないのか、という疑問があります。

2 特別縁故者、国の関係

最終的には特別縁故者か国に帰属することになっていますが、この前段階で債権者は申し出ることになっていますので、特別縁故者か国が得る財産は債務を控除した純財産と理解していいでしょうか。

気になっているのが、包括受遺者のように、債務も承継したとされないかということです。仮に、債務も承継したとされると、1で申し出なかった債権者から、債務の履行を請求される可能性もあるのではと懸念しています。

よろしくお願いいたします。

1 相続債権者との関係

>債権者は申し出ることとされていますが、その申出期限を過ぎてしまうと、今後は一切自己
>の債権を主張することができないという理解でよろしいでしょうか。

 まず、相続人不存在手続きでは、限定承認の規定の準用もしつつ、以下の3度の公告手続きがあります。
 ① 相続財産管理人が選任されたことの公告(民法952条2項)
   ※2か月以内に相続人が現れなければ、相続財産管理人が清算手続きの着手

 ② 相続財産管理人が相続債権者や受遺者に対して、2か月以上の期間を定めて、請求の申
   出をするように公告(民法957条)
   ※弁済順位は下記の通りとなります。
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第1順位 優先権(相続財産に対して質権、先取特権、抵当権、留置権等)を有する債権者(民法929条但書)
第2順位 申出期間内に申し出た債権者と知れたる債権者(民法929条本文)
第3順位 申出期間内に申し出た受遺者と知れたる受遺者(民法931条)
第4順位 申出期間内に申し出ずかつ知れなかった債権者と受遺者(935条)
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 第4順位を見ていただければと思いますが、この債権申出期間内に申し出をしなかった債権者等も弁済を受ける場合が想定されていますので、ご指摘いただいたこちらの期間が経過したからといって、自己の債権を一切主張することができなくなるわけではありません。

 ③ 相続人の捜索に関する6ヶ月以上の公告(民法958条)
 こちらは、相続人がのちに出てきてしまった場合、特別縁故者・国庫帰属の制度を維持するための公告になります。ですので、この公告は、残余財産が存在しないことが明らかになっている場合は不要となります。そして、民法958条の2により、この公告の期間の経過をもって、相続債権者や受遺者は、権利主張できなくなります。
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(権利を主張する者がない場合)
民法第958条の2  前条の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。
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2 特別縁故者、国の関係

>最終的には特別縁故者か国に帰属することになっていますが、この前段階で債権者は申し出る
>ことになっていますので、特別縁故者か国が得る財産は債務を控除した純財産と理解していい
>でしょうか。
>包括受遺者のように、債務も承継したとされないかということです。

 はい。上記③の公告期間の満了で、相続債権者等の権利行使はできなくなります。
 この場合の「清算後残存すべき相続財産の全部又は一部」(民法958条の3)とは、残った積極財産のみ(債務は含まない。)を意味します。
 そもそも特別縁故者の制度は、所有者がいなくなった財産をどうするかという「財産分与」制度ですので、相続債務の承継は起こりません。その後、国庫に帰属する場合も同様です。

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☆参考
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第958条の3  前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2  前項の請求は、第958条の期間の満了後3箇月以内にしなければならない。
(残余財産の国庫への帰属)
第959条  前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第956条第2項の規定を準用する。
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 よろしくお願い申し上げます。