不動産 民法 法人税 贈与税

当事者同士が債務不存在を確認した場合に、贈与課税が回避できるか

お忙しいところ恐れ入りますが、早めの回答をいただけると助かります。

(前提条件)
・2年前に甲が乙(叔父)の会社Aより2,500万円でA社所有の不動産を購入しました
・この購入はA社が銀行借入の担保として入れていた不動産の競売を回避するために行われました
・競売時の通知価格は1,200万円ほどであったため、銀行がこれではということで、乙に対して、指値2,500万円で売り返済するなら売買に同意し残債を放棄し担保をはずす、ということで競売は取りやめになり、甲との譲渡に至りました
・甲にはお金がないため、資金を乙(出どころは乙の妻である丙)から借り入れ、その代金を支払いました
・譲渡は成立し、名義は甲に移り、担保はすべて外れました
・同時にその不動産はA社が使用するため、甲とA社で賃貸借契約がされました

ーーー
・その後甲に対して不動産の取得についてのお尋ねが来ており、当時の税理士が税務署に対し競売回避のために譲渡した旨の回答書を提出しています

ーーー
今般、不動産の名義を甲から乙に移すため譲渡契約をするにあたり、
・乙から丙に2,500万円の債権譲渡をします
(これは乙と銀行との関係で乙が不動産を取得することを避けるため)
・甲と丙との間で代物弁済契約により不動産を持って甲の丙に対する債務を完済させます
・不動産の時価は当時とほぼ同じ1,200万円ほどのため、譲渡価格との差額は贈与にあたると思います
・甲と乙の金銭消費貸借契約には毎月定額の返済の旨がありますが、返済はされていません
・甲とA社の賃貸借契約についても、家賃の支払いはされていません

(質問事項)
今回の一連の取引にあたり、形式上は贈与課税となると思いますが、現実的には競売回避のための取引であり、また、金銭消費貸借契約についても形だけのものと考えます。

そこで、甲乙(丙も?)で債務不存在のような書面を交わし、贈与課税を回避することは可能でしょうか?

あるいは、このようなケースの場合に他に取りうる方策はありますでしょうか?

宜しくお願いいたします。

前提として、複数の取引の事実認定(どのように認定するのがストーリーとして自然か)の問題になり、そことのバランスで証拠を残していくということになります。

 ですので、質問文からも、先生もお関わりになる前の事情かと思いますが、当時の状況等(今回ですと銀行との具体的なやりとり等)含めて全体をご当事者さまにヒアリングをしなければ難しい面があります。お急ぎということで難しいと思いますが、一度無料面談をご利用になっていただいた方が良いかと存じます。

1 債務不存在の書面の作成について
>(質問事項)
>今回の一連の取引にあたり、形式上は贈与課税となると思いますが、現実的には競売回避のた
>めの取引であり、また、金銭消費貸借契約についても形だけのものと考えます。
>そこで、甲乙(丙も?)で債務不存在のような書面を交わし、贈与課税を回避することは可能
>でしょうか?

 今回の事例では、当事者間で債務不存在という書面を作成することはリスクがかなり高いと思われます。
 例えば、金銭消費貸借契約について、形だけのもの(通謀虚偽表示)とすると、不当利得とされるということになりますが、
 ・競売回避のため関係者が不動産を購入すること
 ・それに資金の貸付ること自体は不自然ではないこと
 ・乙がA社にではなく甲に金銭を貸し付けたことは、銀行との交渉との関係で、あえて当事者が選択した真実の意思表示であると認定される要素になること
等から、通謀虚偽表示と認定することは難しいかと考えられます。

 今回の事例では、現実的にお金の流れがある以上は、債務不存在という書面を作ったとしても、そのような認定ではなく、乙から甲への2,500万円が贈与があったと認定されるリスクも高くなります(現実にお金を渡し、それを受け取ったという部分に仮装はないので)し、
 逆に債務不存在確認時に不当利得金額の債務免除があったと認定されるおそれもあります。また、丙から乙への資金移動の評価も難しくなるかと思われます。

 事前対策であればやれることは多いですが、既にした売買や2,500万円の貸付け後ということであり、今後、関連する取引が複数ありますし、いたずらに法律関係を操作することは現状ではリスクが高いかと思われます。不自然さを残す行為をするよりも、現状を分析して調査官との交渉材料を準備しておく(現状の不明確な点を証拠化しておく等)という方向性の方が良いかと思われます。

2 その他の分析
>あるいは、このようなケースの場合に他に取りうる方策はありますでしょうか?
 以下、いただいた情報をもとに法的に分析させていただきますと

(1)現状の法的な分析と自然な認定

・「甲がAから不動産を取得しているという事実」
(不動産の場合は、銀行預金等と異なり、不動産譲渡の契約者がAと甲である以上、仮に現状で名義財産であったとしても、取得過程は変動しません。)

・「現状で、甲が不動産の所有者であるという事実」
(乙から甲への金銭消費貸借を否定することは難しいかと思われますので、現状でも甲が所有者であるという認定になるかと思われます。)

は動かし難い事実になるかと思います。

 これを前提に今後の取引を考えると、自然なのは、

 乙から甲に貸し付けられた2,500万円は、丙から支出されたものであるということですので、
 その当時、丙から乙にも2,500万円の貸付けがあったとして

・ 乙の甲に対する2,500万円の債権について、乙から丙に債権譲渡する際に、債権譲渡の対価
 として、丙から乙に対する2,500万円の債権を代物弁済(または相殺する)
  (このようにして対価性を持たせないと、債権譲渡が贈与と認定されます。)
>・甲と丙との間で代物弁済(または相殺)契約により不動産をもって甲の丙に対する債務を
  完済させる

という流れが自然かと思われます。

 先生のおっしゃる通り、不動産の時価が1,200万円で、2,500万円での売買を前提に、「著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」として、差額部分は贈与税がかかりえます。
ただし、不動産評価の問題として、
「競売時の通知価格は1,200万円ほど」が時価になるのかという点は反論できるのではないかと思われます(先生が改めてご評価されて1,200万円になるということでしたら、申し訳ございません。)。こちらで争う方が、見込みがあるのではないかと考えています。

ただし、
>乙の甲に対する2,500万円の債権について、乙から丙に債権譲渡する際に、債権譲渡の対
>価として、丙から乙に対する2,500万円の債権を代物弁済(または相殺する)
こちらは乙の銀行への債務がどれだけ残っているか等の具体的な事情によりますが、債権譲渡が詐害行為にあたり、取り消されるおそれも強いので、そのあたりはご注意いただければと思います。

また、このスキームを利用されるという前提であれば、
○丙から乙にも2,500万円の貸付け
部分は証拠を作っておくべきかと思います。

(2)競売時の通知価格の意味

「通知価格」の意味あいにもよりますが、一般的に競売時は

・売主の協力が得られないことが多いこと
・買受希望者は、内覧制度によるほか物件の内部の確認が直接出来ないこと
・引渡しを受けるために法定の手続きをとらなければならない場合があること
・瑕疵担保責任がないこと
・短期間で売却しなければならないこと
等の特殊性を反映させた価格のため、通常よりも低い価格になります。

地域や個別不動産によってかなりずれが生じますが、
一つの参考としては、
〇市場価格
〇売却基準価格(執行裁判所が決定するもの 民執60条1項)
 →市場価格の70%くらい
〇買受可能価格
 売却基準価格の80%
という程度になるかと思われます。

 このあたりもご検討いただけますと良いかと思います。

 全体として、スキームの設計となると債権債務や契約書のDDをする必要があるので、あくまでもいただいた情報を前提にということになってしまいますが、よろしくお願い申し上げます。