(状況)
8月決算で貿易を営む会社(第1期目)です。
10月に申告を終えました。
代表者は日本在住の外国人ですが社保に加入したくない、という理由で役員報酬をゼロにしていました。
ところが決算を終えて在留ビザの更新を行政書士に手続依頼したところ、役員報酬がゼロになっていることが入管で問題になるから役員報酬をビザ申請のときに提出した資料の金額(月額20万円)を支給する内容で決算訂正をしてほしい、と言われております。
(質問)
この場合、決算訂正の手続きはどのようにすればよいでしょうか?
税務としては訂正した決算書が出来上がったら役員賞与として加算しなおして差し替え提出し、計上した役員報酬分の源泉も預り金計上し、来月の年末調整の際に源泉を納付して給報も提出する予定でおります。
どうぞよろしくお願いいたします。
>この場合、決算訂正の手続きはどのようにすればよいでしょうか?
決算訂正の手続としては、決算書類を訂正して、あらためて株主総会の承認決議をとることで、訂正した内容で確定するので、会社法上は、この手続をとっていただければよいでしょう。
ただ、今回は、決算書が間違っていたので訂正するということではなく、実態としては支給していなかったものを、決算書を修正することで支給したことにするものなので、決算書に虚偽の記載をすることになるかと思います。その意味で、下記「回答の理由」記載のような問題はあるかと存じます。
ですので、現状のままでビザの更新申請をして許可を取得する道がないか、行政書士の先生とも協議の上、検討された方がよいかと存じます。難しいということであれば、リスクも考慮の上、訂正の手続をとられるかどうかをご判断いただくということになるかと思います。
2 回答の理由
(1)決算訂正の手続について
決算書は、株主総会の承認を受けることで確定しますので、決算書訂正の訂正の手続としては、決算書を訂正し、あらためて株主総会で決議をして承認を得ることが必要になります。会社法上は、その決議をもって、訂正した内容で決算が確定しますので、この手続きをとっていただければと存じます。
なお、今回の決議は、実態としては支給されていなかったものを支給したことにするという点で、虚偽の記載になるので、理論上は、決議の内容に法令違反があるということで、決議の無効事由になり得ます(会社法830条2項)。
(2)本件での問題点
ア 決算書の虚偽記載について(罰則)
もともと支給していた給与を計上し忘れていたということであれば、決算書を訂正して対応すればよいですが、今回は、もともと支給していなかったものを、支給していたことにして決算書を作成し直すということになるので、実態とは異なった虚偽の記載をすることになります。
この場合、計算書類に虚偽の記載を行った取締役などは、100万円以下の過料の対象になります(会社法976条7号)。
イ 在留ビザの許可の取り消しの可能性
在留ビザの更新に際して、虚偽記載の書類を提出して許可を受けた場合、在留許可の取消事由にあたります。ですので、仮に、これが行政にみつかると在留許可が取り消される可能性があります。
(3)現状のままでの在留ビザの更新の可能性
今回は、貿易を営む会社の役員ということなので、在留ビザの種類は経営・管理ビザなのかなと推察します。
この場合、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」というのが、申請の要件になっているので、無報酬だと、この点が引っかかるということなのでしょう。
ただ、こちら側の対応や行政との交渉次第では、許可が出る場合もあるものと思いますので、行政対応をうまくやって、現状のままの状態で申請で通すという道もなくはないかもしれません。この点は、行政書士の先生と協議して、可能性を探っていただくというのも1つの道かと思います。
(4)今後の対応について
ご質問の事情だと、今回の会社さまは株主の数も多くないでしょうし(代表者の身内以外の方は入っていないだろうと思います。)、会社内で虚偽記載の点が問題となる可能性自体は低いように思います。ただし、すでに決算書を税務署に提出されているので、訂正前のものが証拠としては残ってしまっていますので、上記のようなリスクはゼロではない点は、ご注意ください。
ですので、現状のままで、在留ビザの更新を通す方法がないかについて、担当の行政書士さんも含め、もう1度ご検討されてもよいかなと思います。どうしても難しいということであれば、上記のリスクも考慮いただき、決算書を訂正するかどうかご判断いただければと存じます。
よろしくお願い申し上げます。