会社法

株主総会議事録の記載事項について

株主総会議事録の記載事項について確認をさせてください。

過去の株主総会議事録で、決議事項のみを記載し、報告事項を記載して
いないものがありますが、問題ないでしょうか。

今回の会社は、権限を会計監査のみに限定した監査役を設置している会社ではないことを前提として回答します(このような会社はあまり多くはないので。)。

1 ご質問および回答の結論

>過去の株主総会議事録で、決議事項のみを記載し、報告事項を記載して
>いないものがありますが、問題ないでしょうか。

 公開会社などの大きな会社や業法上の許認可を受けている法人でない限り、報告事項を欠いたことは、特に大きな問題となることはないと考えられます。
 ただ、実際の株主総会において、報告事項についてもしっかりなされていたのであれば、その旨を記載した議事録を作成し直しておいた方がよいでしょう。

2 回答の理由
(1)報告事項の内容

 取締役は、事業報告を作成して株主総会に提出し、その内容を報告しなければならないとされています(会社法438条1項、3項)。先生のおっしゃっている株主総会における報告事項は、このことかと思います。
 取締役は、株主総会において、法律上、事業報告を行う義務があり、これがなされていなかった場合には、取締役に会社法上の義務違反があることになります。

(2)実際には事業報告はなされたが、議事録への記載のみがなされていない場合

 今回、実際には事業報告はなされたが、議事録への記載が抜けていたという可能性もあります。この場合、事業報告はなされているので、法律上問題になるということはないです。
 ただ、事業報告がなされたということを証拠として残しておくため、実態に合わせて、議事録を作成し直しておいた方がよいでしょう。

(3)事業報告がなされていなかった場合
 この場合、以下のようなことが問題になり得ます。

ア 取締役の損害賠償責任

 事業報告がなされていなかった場合、取締役に会社法上の義務違反があることになります。それにより、株主等に損害が生じた場合、取締役の損害賠償責任(会社法429条)が生じる可能性があります。
 ただ、同族会社や規模の小さな中小企業であれば、事業報告がなされなかったことにより損害が生じるというのは現実的にはあまり考えられないかなと思います。

イ 決算書類に関する承認決議の効力への影響

 事業報告がなされなかったことにより、その後の決算書類の承認決議の効力に影響が出るかどうかという問題もあります。
 事業報告の内容は、株主が決算書類を承認するかどうかの1つの判断材料になるものと考えられます。ですので、事業報告がなされなかったことにより、株主が決算を承認するかどうかの判断材料の一部を欠いており、株主が十分な判断ができない状況でなされた承認決議として、株主総会決議の取消事由(会社法831条1項)にあたる可能性がないわけではありません。このあたりは、法的には、実際の総会でどのような話が上がっていたのかという部分の認定になるかと思われます。
 ただ、その可能性は高くはないですし、承認決議があったときから3ヶ月経てば、決議の取消訴訟はできなくなります(会社法831条1項)。なので、この期間が経過すれば問題ありません。
 また、決議の取消訴訟を提起できるのは、株主・役員に限られていますので、それらの人の中で文句を言う人がいないのであれば、そもそも決議の効力が問題となることもないでしょう。

ウ 罰則

 事業報告書が作成されなかった場合(事業報告書は作成したが、記載すべき事項を記載しなかった場合も含む)には、取締役に100万円以下の過料が課されるとの規定があります(会社法976条7号)。
 ただ、事業報告書の作成を怠ったことにより実際に過料が課されたというのは聞いたことはありません。

エ まとめ

 実際に事業報告がなされていなかったとしても、上場(を目指している)会社や業法の許認可を受けている法人でない限り、特に大きな問題となることはないかと思います。

 よろしくお願い申し上げます。