相続 遺言 遺産分割 遺留分 不動産

相続人に意思能力が欠けている場合の債務の承継

基本的なところかも知れませんが、整理が十分にできていませんので、教えてください。

被相続人が投資不動産を有しており、それに紐づく借金があります。この投資不動産は、意思能力が欠けている相続人に承継させたいという考えがありますので、紐づく借金についてもその相続人に承継させたいと考えています。

この場合、このような承継が仮に他の相続人の遺留分を侵害しないとして、遺言書でそれを謳えば問題ないですか?ネットを見ると、

1 遺言書があっても、相続人全員の合意があれば遺言書と矛盾する遺産分割協議は可能である
2 金銭債務は遺産分割の対象ではないため、法定相続分に応じて当然に承継される
http://murakami-y.net/index.php?%B0%E4%BB%BA%CA%AC%B3%E4%A4%CE%C2%D0%BE%DD

とあり、特に2についてですが、遺言書で決めることはできないのか、といった疑問も生じます。

加えて、私の理解が正しければですが、債務については、対外的(例えば銀行など)に対する抗弁はできないにしても、当事者間でいくら負担するかの合意は有効と考えています。

ただし、この合意については、意思能力が欠けているため、保佐人などの選定が必要になる、ということになりますでしょうか。

よろしくお願いいたします。

1 遺言の有効性について

>被相続人が投資不動産を有しており、それに紐づく借金があります。この投資不動産は、意
>思能力が欠けている相続人に承継させたいという考えがありますので、紐づく借金について
>もその相続人に承継させたいと考えています。

(1)債権者との関係
債権者との関係では、先生のご指摘のとおり、
>2 金銭債務は遺産分割の対象ではないため、法定相続分に応じて当然に承継される
の命題がありまして、債権者が承諾しない限り、債権者に対しては、各相続人が法定相続分に応じて、債務を負います。

(2)相続人間の関係
ア 遺言による特定債務の承継について

 遺言による特定債務の承継については、相続人間の効力として、有効とされるものと無効とされるものがあります。
 今回は、不動産に紐づく借金ということですので、
○負担付き相続させる旨の遺言
 として、負担付特定遺贈の考えを準用して、実務上有効と考えられています(相続人の内部負担の割合はこれに従います。)。
 なお、あくまでも「負担付き」ということになりますので、投資不動産の価値を超えない限度ということになります。下記に負担付遺贈の条文と「負担付相続させる旨の遺言」の文例を記載します。
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(負担付遺贈)
第1002条  負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
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負担付相続させる旨の遺言の書き方
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第1条 遺言者は、遺言者が所有する下記の不動産を長男A(※相続させる相続人の氏名を記載してください。)に相続させる。
             記
    (※不動産の情報を記載してください。)
第2条 遺言者は、前条に定める相続の負担として、前条の不動産に設定されている抵当債務(※この部分は負担させる債務の内容により適宜記載してください。)を長男Aに承継・負担させるものとする。
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イ 相続人に意思能力が欠けている点について

 遺言による場合は、遺言者の一方的な意思表示となりますので、意思能力が欠けている相続人が意思表示をする場面はありません。ですので、相続人の意思能力は問題とはなりません。

2 遺産分割による場合
(1)遺言書があっても、相続人全員の合意があれば遺言書と矛盾する遺産分割協議は可能であるか

 おっしゃる通り、相続人全員の合意があれば遺言書と矛盾する遺産分割協議は可能と解されています。
 また、債務については、本来遺産分割の対象とはならないのですが、相続人全員の同意があれば、遺産分割協議の中で合意できるとされており、実務上も行なわれています。債務についての合意に関する法律関係は下記のとおりです。

(2)債権者との関係
債権者との関係では、こちらも遺言の場合と同様に先生のご指摘の通り、
>2 金銭債務は遺産分割の対象ではないため、法定相続分に応じて当然に承継される
の命題がありまして、債権者が承諾しない限り、債権者に対しては、各相続人が法定相続分に応じて、債務を負います。

(3)相続人間の関係
 遺産分割の場合には、相続人間の合意ということになりますので、意思能力を欠いている相続人の意思表示が問題となります。

>債務については、対外的(例えば銀行など)に対する抗弁はできないにしても、当事者間で
>いくら負担するかの合意は有効と考えています。
>ただし、この合意については、意思能力が欠けているため、保佐人などの選定が必要になる、というこ
>とになりますでしょうか。

というご理解のとおりです。なお、意思能力が欠けている場合であれば、保佐人というよりは、成年後見人の選任が必要ということになるかと思われます。

 成年後見人が本人に代理して遺産分割協議の合意をする際に、本人の居住している建物や土地を代償分割等で他の相続人に譲るという合意をする場合には、裁判所の許可が必要です(あまりないとは思いますが。)。また、遺産分割がこのような内容ではないとしても、運用上、遺産分割することを、裁判所に報告し確認してもらうというようにされています。この報告・確認をしなかったとしても、遺産分割の効力自体には関わりませんが、その後見人が846条により解任されるおそれがあります。
 また、保佐人が代理をして遺産分割協議をする場合には、遺産分割協議をすることに関する裁判所の許可(審判)が必要になります。

 よろしくお願い申し上げます。