・27年に相続開始です
・被相続人(甲)の財産は甲の居住用不動産(マンション)と預金等が100万円 ほどです
・相続人は子供のみ2人(A、B)で、それぞれ自宅があります
・相続税は出なかったため、相続税の申告はしていません
・マンションについてはAに相続名義変更をして売却し、売却代金はABで分ける ことを当事者同士では決めていたとのこと(28年にマンションは売却済み)
・マンションについて司法書士の作成した分割協議書は下記の通りです
ー分割協議書(ここから)ーー
被相続人甲の遺産について、同人の相続人の全員において分割協議を行つた結 果、次のとおり、取得することに決定した。なお、被相続人甲の法定相続人は、 A、B以外にいないことを保証する。
1.相続財産中、次の不動産については、相続人Aが単独で取得する。
(不動産(マンション)の表示)
前記の通り相続人全員による遺産分割の協議が成立したので、これを証するため 本書を作成し、以下に各自署名押印する。
(署名捺印)
ー(ここまで)ーー
(質問事項)
このまま売却代金の半分をAからBへ渡すと贈与税の対象になると思います。
この分割協議書の文面が「相続財産中」となっているため、この分割協議書はマ ンションの売却のための名義変更のみの分割協議書であるとし、このほかに残り の財産について分割協議書を作成し、そこにAからBへ代償金の支払い(マンショ ン売却代金の半額程度)をする旨を記載した場合、分割協議書およびその支払い は代償金の支払いとすることは有効となるでしょうか?
また、税務上否認を受けるリスクはいかがでしょうか?
宜しくお願いいたします。
>この分割協議書の文面が「相続財産中」となっているため、この分割協議書はマ ンションの売却のため
>の名義変更のみの分割協議書であるとし、このほかに残りの財産について分割協議書を作成し、そこにAからBへ代償金の支払い(マンション売却代金の半額程度)をする
>旨を記載した場合、分割協議書およびその支払いは代償金の支払いとすることは有効となるでしょうか?
>また、税務上否認を受けるリスクはいかがでしょうか?
ご質問にあるような遺産分割協議書を作成した場合、マンションの取得と、代償金の支払いが別の時点で合意されたとされかねませんので、できるだけ代償分割とするための定め方については、下記「2
回答の理由(1)」をご参照ください。
1通の遺産分割協議書で、Aのマンションの取得とAからBへの代償金の支払が定められている場合に比べ、税務上否認指摘されるリスクはありますが、税務署から指摘を受けた場合には、下記「2
回答の理由(2)」のような反論が考えられます。贈与税については、通り得る反論だと思われます。
なお、ご質問の趣旨とはズレますが、今回の遺産分割は、代償分割ではなく換価分割と認定される可能性があり、その場合には、譲渡所得税も、A・B双方が、取得した金額の割合に応じて負担することになります。今回の事例からはあまり関係ないかと思いますが、居住用財産の譲渡の特例等にも一応ご注意ください。
2 回答の理由
(1)代償分割とするための書面の作成
代償分割である(AからBへの代償金の支払が単なる贈与ではない)というためには、Aのマンションの取得と、AからBに対する支払いが関連していることが明確になっていることが必要と考えられます。これから2通目の遺産分割協議書を作成して代償金の支払いを定めると、マンションの取得に関する遺産分割と、代償金の支払いが別の時点で合意されたということになり、代償分割とは認められない可能性があります。
今回は、実態としては、Aがマンションを取得するという合意と、それと引き換えにAがBに代償金を支払うという合意は同時になされていたことから、これを確認するという形で書面に残しておくのがよいでしょう。
たとえば、以下のような条項を全体財産についての協議書の中に定めることが考えられますので、ご参考になさってください。
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AおよびBは、平成○年○月○日(※1通目の協議書の作成年月日を記載してください。)付の遺産分割協議書作成時点において、AB間において以下の合意がなされていたことを確認する。
1 相続財産中、次の不動産については、相続人Aが単独で取得する。
(不動産(マンション)の表示)
2 Aは、1の不動産を取得する代償として、Bに対し、○○万円を支払う。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
また、遺産分割のやり直しだと取られてしまうリスクもありますので、
>Aに相続名義変更をして売却し、売却代金はABで分けることを当事者同士では決めていた
ことがわかる証拠(メール等)もできる限り探されることを強くおすすめします。
(2)税務上否認を受けるリスク
1通の遺産分割協議書でマンションの取得と代償金の負担を定めている場合に比べると、その関連性が明確ではなく、税務署から贈与ではないかと指摘自体は受ける可能性が高いと思われます。ただし、贈与税に関しては、以下の反論は十分成り立つものと考えられます。
・不動産をAが取得すること、それに関し代償金を支払うことは、当初からAB間で合意されていた
・はじめの遺産分割協議書は登記のための資料として司法書士が作成したもので、不動産の取得についてのみしか定めず、他の合意内容が定められていなかったのは不自然ではない
・その後に、当初から合意していた他の財産の分割や、代償金の支払に関する合意についても確認する意味で追加で書類を作成したもので、その経緯は自然である
・AからBへの支払が遺産分割に関係なくなされた贈与であるというのは、Aに贈与をする特別の動機でもない限り不自然である
(3)代償分割ではなく換価分割と認定される可能性があること
ご質問の趣旨とはズレますが、今回のAB間の遺産分割は、代償分割ではなく換価分割と認定される可能性もあります。
「代償分割」とは、遺産の全部または一部を現物で相続人中の1人または一部の者に取得させ、その代わりに、取得した者に対して他の相続人に代償金を支払うべき債務を負担させる分割方法をいいます。
一方、「換価分割」とは、共同相続した遺産を直接分割の対象とせず、まずこれを未分割(相続人の共有)の状態で売却し、その売却代金を相続人間で分割する方法をいいます。この場合に遺産を処分するのは、形式上は相続人中の特定の者が代表してその名で行ったとしても、実質的には相続人全員での処分と評価されます。
ご質問にある、当初から「マンションについてはAに相続名義変更をして売却し、売却代金はABで分けることを当事者同士では決めていた」という事実を前提とすると、遺産分割協議の当初から、AB間では、マンションを売却してその売却代金をAとBで分けるという合意であったと思われます。形式上、マンションをAが取得するとされていますが、実質的にはAB共同で(共有の状態で)売却して、その代金をABで分けるという合意と見ることができます。
ですので、今回は、代償分割ではなく換価分割であったという認定がなされる可能性は高くなります(あくまでも「裁判所レベル」でですが、そのような事実認定になる可能性は高いかと思われます。)。
その場合には、譲渡所得税も、A・B双方が、取得した金額の割合に応じて負担することになりますので、ご注意ください。
また、今回の事例ではあまり関係ないかと思いますが、居住用財産の譲渡の特例等にも一応ご注意ください。
よろしくお願い申し上げます。