民法 その他

小梁の除去に対する施工責任

以下の案件ご教示ください。

前提:建設会社A社・ハウスメーカーB社・戸建てオーナーC氏

B社施工の戸建てオーナーC氏から浴槽拡張工事の依頼を受けたA社は建築基準法第二条の五、

小梁は主要構造部に含まれない。を根拠に浴室床下の小梁(大引きともいう)を除去致しま

した。

なお小梁は建築基準法施行令第一条第1項三号構造耐力上主要な部分に含まれるとする見解はあ

ります。

今回の工事により小梁を除去したことについてB社はC氏に以下の事を宣告しました。

1、 B社の保証は受けられない

2、 太陽光パネルは設置できない

3、 売却の際にはB社施工と謳うことはできない

C氏はB社の施工物件だから購入したのにと激怒し、A社に土地建物購入代金3,500万円、

リフォーム費用1,000万円、慰謝料及び引き渡し費用1,500円を請求(口頭)しています。

C氏を通してB社担当に補強工法を確認したのですが「わからない」という回答で

対策もできませんし、保険もおりません。(補強方法・工法・費用など報告なし)

質問

一、上記宣告1・3は法的に正しいか?

二、ただしい場合の根拠と対応策は?

三、請求金額は妥当か?そうでない場合いくらが妥当か?

四、こちらからアクションを起こせる優位な法的根拠はないか?

五、その他気を付けることはないか?

以上です。宜しくお願い致します。

各質問ごとに回答させていただきます。
 なお、下記の通り、今回は、詳細な事実認定の問題になりますので、C氏が書面ベースで請求をしてくる等になりましたら、A社さまに一度無料の面談相談をお受け頂いた方が良いかと存じます。

1 ご質問①~B社主張の正当性~
(1)ご質問
>一、上記宣告1・3は法的に正しいか?
>二、ただしい場合の根拠と対応策は?

(2)回答の結論
ア Bの保証を受けられない旨の主張について

 「B社の保証」が受けられないというのが、B社とC氏との契約で定めた保証を受けられないという意味であれば、B・C間の契約内容によって結論はかわってきます。B社以外の第三者が建物に手を加えた場合には、保証の対象外とするというような除外規定が定められている可能性もあり、そのような規定があれば、B社の主張は正しく、C氏は保証を受けることができないと考えられます。
 一方、「B社の保証」が受けられないというのが、B社が法律上の瑕疵担保責任を負わないという意味であれば、B社の主張は間違っています。B社の施工部分に瑕疵があった場合には、C氏はB社に責任を追及していくことができます。

イ C氏が売却の際にB社施工であることを謳えない旨の主張について

 B・C間の契約で、B社施工であることを謳えない場合が定められていなければ、C氏が売却の際に、B社施工物件であることを謳えないということはありません。ただ、A社がリフォーム工事を行っているにもかかわらず、C氏が売却の際に、このことを告げないと、買主との間で説明義務違反になる可能性はあり得ます。

(3)回答の理由
ア Bの保証を受けられない旨の主張について
(ア)B社のいう「保証」の意味について

 B社がいう「保証」」の根拠について、まずは、B社にご確認いただく必要があると思いますが、可能性としては以下の2つがあり得ます。

ⅰ B社とC氏の契約に基づく保証
 B社C氏間の契約において保証の条項を定めて保証を行っている可能性があります。

ⅱ B社の瑕疵担保に基づく責任
 B社は、本件建物の売主なので、法律上売買に基づく瑕疵担保責任を負っています(民法570条、566条)。ですので、本件建物に「瑕疵」(欠陥)があれば、C氏はB社に瑕疵担保責任に基づき損害賠償請求、契約の解除が可能です。なお、解除ができるのは、修理が不能な重大な瑕疵がある場合に限られます。この瑕疵担保責任の追及は、買主であるC氏が、瑕疵があることを知ってから1年間に限り可能です。
 なお、「瑕疵」が、「構造耐力上主要な部分」(耐震性や耐久性にとって重要な部分である基礎・柱・床・屋根など)または「雨水の浸入を防止する部分」にあった場合には、瑕疵担保責任を追及できる期間が、引き渡しから10年以内に延長されています(住宅の品質確保の促進等に関する法律95条)。

(イ)「B社の保証は受けられない」という主張の正当性
ⅰ 「保証」の根拠が、B社とC氏の契約に基づく保証の場合

 B社とC氏との契約において、特別の保証条項を置いている場合、その除外規定として、B社以外の者が建物に手を加えた場合には保証しないというような条項が入っている可能性が高いです。C社としても、第三者が行ったことにまで責任を負うのを避けたいというのは合理的であると考えられますので。契約条項がこのようになっていれば、C氏がB社に保証を求めることは難しいです。
 いずれにしても、C氏が保証を受けられるかどうかは、B社とC氏との契約書に保証の条項があるかどうか、ある場合には、保証が受けられないという規定の有無・内容によってきますので、正確なところは、B社著C氏の契約内容をご確認いただくしかないか存じます。

ⅱ 「保証」の根拠が、B社の瑕疵担保に基づく責任である場合

 瑕疵担保責任については、B社の後にA社がリフォーム工事を行ったことにより、全くB社が責任を負わなくなるということではありません。あくまで、B社が施工を行った部分(A社が改築を行った部分以外)に「瑕疵」があったとすれば、C氏は、瑕疵担保責任に基づきB社に対して、損害賠償等の請求をすることは可能です。仮に、B社の主張が、全面的に瑕疵担保責任を負わないというものであれば、B社は間違っています。
 ただ、A社が改築を行った部分に関して瑕疵があったとしても、B社にその責任を追及することはできませんので、この限度においては、B社の主張は正しいといえます。

イ 売却の際にB社施工と謳うことができないという点について
(ア)「B社施工」と謳うことに関する法的な制約

 この点に関しては、「B社施工」と謳ってよい場合、よくない場合というように明確に法律に定められているものではないです。B社としては、他社が手を加えた部分に欠陥等があったことにより、その後本件建物を買った人からのクレームなどのトラブルに巻き込まれたくないということで、このような主張をしているのでしょう。

(イ)B社とC氏との契約条項に基づく制限

 仮に、B社とC氏との間の契約で、B社以外の第三者が手を加えた場合には、売却の際「B社施工」と謳ってはいけないというような条項があれば、今回のケースではC氏が「B社施工」と謳うことがB社との契約違反ということになります。おそらく、このような規定はないものと思いますが、念のためご確認いただければと存じます。

(ウ)対買主との関係でのC氏の説明義務違反について

 C氏が本件建物を売却する場合、B社施工と謳うことが、買主に対する説明義務違反に該当する可能性があります。どこの業者が施工しているかは、建物の安全性の信頼度等にかかわる問題であり、売買の価格にも影響する可能性がありますので、ある程度重要な事情であると考えられます。
 今回のケースでは、施工自体はB社が行っているが、その後にA社がリフォーム工事を行ったというのが正確なところですので、C氏は、売却の際には買主にそのように正確に伝える必要があると考えられます。何の留保もなく、B社施工と謳ってしまうと、C氏がウソの事実を告げたとして、説明義務違反の責任を問われることになりかねません。

(エ)まとめ

 B社の主張である「売却の際にC氏はB社施工物件と謳えない」というのは正しくないと考えます。C氏としては、B社施工で、その後A社がリフォーム工事を行ったと伝えるのは、問題ないと考えられます。

3 ご質問②~C氏の請求金額の妥当性~
(1)ご質問および回答の結論
>三、請求金額は妥当か?そうでない場合いくらが妥当か?

 C氏の請求金額は法外で、認められません。
 リフォーム工事に「瑕疵」がある場合でなければ、C氏が損害賠償をすることはできませんが、現時点では「瑕疵」の有無が明らかではありません。
 また、「瑕疵」があったことを前提としても、C氏が請求できるのは、その修理のために要した費用相当額が限度と考えられます。

(2)回答の理由
ア A社への損害賠償請求の法的根拠(瑕疵担保責任に基づく請求)

 C氏からA社に対する請求の法的根拠としては、請負契約の瑕疵担保責任(民法634条1項)に基づく損害賠償請求が考えられます。

(ア)要件
 その要件は、以下です。
 ⅰ 仕事の目的物に瑕疵があること
 ⅱ 損害が生じたこと

(イ)「ⅰ 仕事の目的物に瑕疵があること」

 「瑕疵」とは、工事の対象となった目的物に欠陥があることです。
 今回、建物の小梁を除去したことにより、建物自体が、建築基準法や建築基準法施行令により定められている構造計算上の建物の安全性を満たさなくなってしまったという事情があれば、「瑕疵」があると言えるかと思います。
 一方、小梁を除去したとしても安全性の基準を下回っていないとすると、小梁を除去したことが直ちに「瑕疵」にあたるということはできません。C氏とA社との契約内容や当事者間のやりとり(契約でどのような工事をすることになっていたか、小梁を除去することが両当事者間の共通認識になっていたかどうかなど)の具体的な事情を総合して、「瑕疵」にあたるかどうかを判断することになるものと考えられます。
 なお、今回除去した小梁が、建築基準法施行令上の「構造耐力上主要な部分」にあたるかどうかで、リフォーム工事に「瑕疵」があったかどうかが必ずしも、決まるものではありません。

(ウ)「ⅱ 損害が生じたこと」

 A社のリフォーム工事に瑕疵があったことにより、C氏に損害が生じたことが必要です。以下のとおり、C氏に損害が生じるとすれば、「瑕疵」の修理費用相当額が限度かと思います。

イ 損害額の妥当性について
(1)修理の費用について

 今回、A社が行ったリフォームに「瑕疵」があることを前提とすると、C氏が、その「瑕疵」の修理を他社に依頼した場合にかかる費用を「損害」として請求することができます。修理費用を損害として請求するには、C氏が実際に修理を行って、修理代金を支出していることが必要になります。
 なお、その金額が通常の修理に比べて高額すぎる場合には、全額の請求は認められない可能性もあります。

 建物に関して、今回のA社の工事で、建物自体が構造上の安全性を欠き全く使用できなくなり、修補も相当困難という場合には、建物を建替え、それにかかった費用を請求できる場合も、例外的ですが、あり得ます。もっとも、今回の場合、小梁を除去した点については、何らかの形で修補は可能と考えられますので、建替え費用の請求までは到底認められないでしょう。

(2)土地建物の購入代金・引き渡し費用について

 土地建物の購入代金・引き渡し費用については、A社のリフォーム工事とは直接の関係はありませんので、「損害」にはあたらず、A社が支払う必要はありません。
 また、C氏は、A社が工事を行ったことで、C氏が建物を売却する際に、B社施工と謳えないという点を根拠にこのような請求をしてきているのかもしれませんが、そもそもC氏がA社にリフォーム工事を依頼していることから、この点はC氏の自己責任です。ですので、この部分を根拠に、土地建物の購入代金・引き渡し費用を請求することも難しいでしょう。

(3)慰謝料について

 慰謝料というのは実際に生じた金銭的な損害ではないので、一般的に認められづらいというのが実務的な感覚です。
 建築に関する瑕疵担保責任においても、具体的な事情に応じて(瑕疵の内容が相当ひどくその対応に多大な労力がかかったとか、相手方に相当な悪質な事情があるとかいう場合など)、認められる可能性はなくはありませんが、一般的には請求は難しいと考えられます。

(4)リフォーム費用

 契約が解除されていない以上は、A社がすでに受け取っているリフォーム費用を返還する必要もないと考えられます。

ウ まとめ

 以上より、今回、そもそも、A社の工事に「瑕疵」があったと言えるかどうか疑わしい状況です。また、「瑕疵」が認められるとしても、損害賠償の上限は、修理に要する費用相当額になると考えられます。
 この2点において、C氏の請求は過大であると考えます。

4 ご質問③~こちらからのアクション~
>四、こちらからアクションを起こせる優位な法的根拠はないか?

 こちらからアクションを起こすというよりは、現時点では、C氏の請求の法的根拠もはっきりしないことから、請求の根拠等を書面でもらった方がよいと考えます。そうしないと、お互いに認識の齟齬が出てしまうおそれもありますので。
 その内容を確認した上で、反論をしていく流れになるかと存じます。

5 ご質問④~その他の注意点~
>五、その他気を付けることはないか?

 C氏に、書面での根拠を示すように求める際には、C氏を刺激するような対応は避けた方がよいですが、相手の請求を認めるような言動は避けてください。あくまで、フラットに、お互いの認識の齟齬を避けるために、請求の根拠やその金額などを書面に記載して送ってくださいという感じで依頼してもらえればよいかと思います。
 現状で、こちらのリフォーム工事に「瑕疵」があったという前提になってしまうと、今後の交渉の中で不利に働いてしまうそれがあります。この点はくれぐれもご注意ください。

 よろしくお願い申し上げます。