会社法 その他

資金調達(借入金・社債)に関するご質問

以下の2種類の資金調達を同時期に検討しており、アドバイス頂けますでしょうか。

【前提】
・ファイナンスA:
取引先1社(同族ではない第三者)から5億円を調達、年利30%(固定)、半年後に全額償還、使途はプロジェクトAの運用

・ファイナンスB:
取引先数社(いずれも同族ではない第三者)から計10億円を調達、年利30%(固定)、1年後に全額償還、使途はプロジェクトBの運用

・当事者間の信頼関係は強く、高利回り等に関する後々のトラブルは想定しない

【借入(金消契約)とする場合のご質問】
①利息制限法の上限金利は超えるが同法に罰則はないため、調達する側は無効を主張でき得るだけで経済実質的にリスクはないと考えられますでしょうか?
(強いていえば、何らかの事情で超過金利が無効となった場合、損金算入されなくなるリスクくらいでしょうか)

②拠出側は、調達側から無効を主張されるリスクがあること(本件では想定していませんが)以外に問題はありますでしょうか?

③仮に経済実質的にリスクがないとした場合でも、上限金利を超えることがコンプラ違反の問題にはなりますでしょうか?
例:別のディールにおける表明保証で法令遵守を謳えない、上場企業なら内部統制違反等
それとも社会通念上、上限金利超過くらいであれば問題ない範囲といえるものでしょうか?

【社債(少人数私募債)とする場合のご質問】
④社債であれば利息制限法の上限金利の適用はないと考えてよろしいでしょうか?

⑤出資法2条に定める預り金には、以下の理由により該当しないと考えてよろしいでしょうか?
・預金、貯金又は定期積金のように、「主として預け主の便宜のために金銭の価額を保管することを目的」(金融庁ガイドライン)としていない
・不特定多数でもなく、親密な取引先に限定

⑥預り金に該当しない限り、本件社債の場合は出資法の規制は適用されないと考えてよろしいでしょうか?
あるいはもし適用される場合でも、上限金利の109.5%を超えないため問題ないという理解でよろしいでしょうか?

⑦本件私募債の場合、金商法上の募集販売・運用登録は不要と考えてよろしいでしょうか?
なお、プロジェクトAとBは独立した別業種の運用のため、私募債に責任財産限定特約を付すことを検討しております。
但し、当該特約を付すことで、もしファンドと擬制されて金商取引業者登録が必要となるリスクがあるのであれば、当該特約についても再考しなければならいないように考えています。

⑧少人数私募債の勧誘人数制限49名について、ファイナンスAとB合わせて49名でしょうか?
本件の場合は利回りは同じものの償還期限もプロジェクトも異なるため、別種の調達としてAとBそれぞれ49名勧誘できるのではないかと考えております。

長文で多岐にわたるご質問で大変恐れ入りますが、ご指導何卒宜しくお願いいたします。

以下、ご質問ごとにご回答いたします。
長文になりますが、ご容赦ください。

1 ご質問①~利息制限法の上限金利を超えることによるリスク~
(1)ご質問および回答の結論

>①利息制限法の上限金利は超えるが同法に罰則はないため、調達する側は無効を主張で
>き得るだけで経済実質的にリスクはないと考えられますでしょうか?
>(強いていえば、何らかの事情で超過金利が無効となった場合、損金算入されなくなるリ
>スクくらいでしょうか)

 無効の主張がなされないという前提であれば、経済的なリスクはないと考えられます。なお、先生もご指摘のとおり、損金算入されなくなるリスクはあります。

(2)回答の理由

 超過金利部分(年利15パーセントを超える部分)は、利息制限法に反し無効になります(利息制限法1条3号)ので、超過部分について不当利得返還請求ができます(民法703条)。なお、この場合の不当利得返還請求の時効期間は10年間ですので、この間は、返還請求をされる潜在的リスクは残ります。
 利息制限法に罰則はありませんので、この返還請求をしないという前提であれば、特に不利益はないと考えられます。
 なお、先生もご指摘のとおり、損金損金算入されなくなるリスクはあります。

2 ご質問②~拠出側のリスク~
(1)ご質問

>②拠出側は、調達側から無効を主張されるリスクがあること(本件では想定していません
>が)以外に問題はありますでしょうか?

(2)ご回答

 ご指摘の点以外は、拠出側に、特に不利益はありません。

3 ご質問③~コンプライアンス上の問題~
(1)ご質問および回答の結論

>③仮に経済実質的にリスクがないとした場合でも、上限金利を超えることがコンプラ違
>反の問題にはなりますでしょうか?
>例:別のディールにおける表明保証で法令遵守を謳えない、上場企業なら内部統制違反等

コンプラ違反の問題にはなりえます。

>それとも社会通念上、上限金利超過くらいであれば問題ない範囲といえるものでしょう
>か?

 社会通念上、上限金利超過くらいであれば問題ない範囲と言えるか否かについては、その企業の規模や社会的影響力等を加味した上での事実上の判断になりますので、一概に回答することは難しいところですが、下記回答の理由もご考慮下さい。

(2)回答の理由

 上限金利超過であっても法律違反ではありますので、コンプラ違反の問題は生じ得ます。
 別のディールにおいて、厳密にいえば、表明保証における法令遵守を謳った場合には、表明保証違反ということにはなりえます。ただし、この表明保証違反の点について、別のディールの解除事由等になるかというと、その会社の規模や社会的影響力等を総合勘案して、別のディールの解除事由等になるかを判断することになるとは思われます。安全策としては、あらかじめ相手方に伝えて、表明保証の対象から除外してもらうことが考えられます。
 また、貸主が上場企業ですと、株主も多種多様なので、相手との関係性がどうであれ、明確に法律上無効になる金利で、潜在的な返還請求のおそれが残る取引をすることは、取締役等の善管注意義務違反を問われる可能性もあると考えられます。さらに、今回はご想定されていないかとは思いますが、借主が上場企業の場合は、明確に法律上無効になる金利分を他者に支払っているという点で、その上場企業は損をしており、株主から取締役等の善管注意義務違反を問われる可能性もありますし、無効な利息の支払いを止めるよう請求されたり、不当利得の返還請求をするように請求される場合もあります。

4 ご質問④~社債への利息制限法の適用の有無~
(1)ご質問および回答の結論

>【社債(少人数私募債)とする場合のご質問】
>④社債であれば利息制限法の上限金利の適用はないと考えてよろしいでしょうか?

 ここの部分ですが、利息制限法の適用があるという見解と適用はないという見解があり、この部分は実務上、結論がはっきりしているわけではありません。ですので、安全策をとられるのであれば、利息制限法の上限金利を守られた方がよいと考えられます。
 もし、守られないということであれば、制限がかかるリスクがあること自体は、お客様にご説明いただいた方が良いかと存じます。

(2)回答の理由

 利息制限法上、上限金利の対象となるのは、「金銭を目的とする消費貸借における利息の契約」です(利息制限法1条柱書)。
 社債は、申込み(会社法677条2項)と承諾(会社法678条)により成立する一種の契約と解されており、社債権者が会社に一定の金額を払込み、一定期間後に会社から社債権者に償還されるという意味では、その内容は金銭消費貸借契約と類似しています。このように考えれば、「金銭を目的とする消費貸借」として、利息制限法の適用を受けるとも考えられます。
 もっとも、社債の発行には、会社法所定の手続が必要とされていることからすると、金銭消費貸借契約とは異なる契約類型であると捉えることも可能です。このように考えれば、「金銭を目的とする消費貸借」にはあたらず、利息制限法の対象ではないとも考えられます。

 このように、実務上、はっきりとした結論は出ていない状況でして、はっきりしたことが言えず申し訳ありません。ただ、安全策を取られるのであれば、利息制限法の規制に従っておいた方がよいかと存じます。もし、守られないということであれば、規制がかかるリスクがあること自体は、お客様にご説明いただいた方が良いかと存じます。

5 ご質問⑤~預り金の該当性~
(1)ご質問および回答の結論

>⑤出資法2条に定める預り金には、以下の理由により該当しないと考えてよろしいでし
>ょうか?
>・預金、貯金又は定期積金のように、「主として預け主の便宜のために金銭の価額を保管
>することを目的」(金融庁ガイドライン)としていない
>・不特定多数でもなく、親密な取引先に限定

 ご指摘のとおり、預り金には該当しないと考えられます。

(2)回答の理由

 預り金とは、「主として預け主の便宜のために金銭の価額を保管することを目的とするもの」と考えられています(出資法2条2項1・2号参照)ので、今回の社債の発行がこのような趣旨でないとすれば、預り金には該当しないと考えられます。

 また、預り金については、対象が「不特定かつ多数の者」からの金銭を受け入れを行うこと(出資法2条2項柱書)とされており、「不特定かつ多数の者」とは、一般大衆を指し、個々的なつながりのない、ある程度以上の複数の者をいうと考えられています。対象を、親密な取引先のみに限定するということであれば、「不特定かつ多数の者」には当たらず、預り金には該当しないと考えられます。

6 ご質問⑥~出資法の規制~
(1)ご質問および回答の結論

>⑥預り金に該当しない限り、本件社債の場合は出資法の規制は適用されないと考えてよ
>ろしいでしょうか?
>あるいはもし適用される場合でも、上限金利の109.5%を超えないため問題ないという理
>解でよろしいでしょうか?

 出資法の規定には反しないと考えられます。

(2)回答の理由

 出資法5条2項では、上限金利が20パーセントと定められていますが、これは、「金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合」を想定しており、貸金業者による金銭の貸付けを規制しているものと考えられています。社債発行会社が、貸金業者ではない場合には問題ありません。
 その他、特に出資法上問題となる規定はありません。

7 ご質問⑦~金商法上の登録の要否~
(1)ご質問および回答の結論

>⑦本件私募債の場合、金商法上の募集販売・運用登録は不要と考えてよろしいでしょう
>か?
>なお、プロジェクトAとBは独立した別業種の運用のため、私募債に責任財産限定特約
>を付すことを検討しております。
>但し、当該特約を付すことで、もしファンドと擬制されて金商取引業者登録が必要となる
>リスクがあるのであれば、当該特約についても再考しなければならいないように考えて
>います。
※社債の発行が「少人数私募」に該当することを前提として回答します。

 本件私募債では、金商法上の金融商品取引業者としての登録は必要ありません。また、責任財産限定契約を付したとしても登録が必要となることはありません。

(2)回答の理由

 金商法上の金融商品取引業者としての登録が必要となるのは、金商法2条8項各号の行為を行う場合です(金商法29条)が、本件私募債は、これらのいずれにもあたりません。ですので、金商法上の金融商品取引業者としての登録は必要ありません。また、責任財産限定契約を付したとしても、金商法2条8号各号の該当性が変わるわけではないので、登録が必要となることもありません。

8 ご質問⑧~人数の通算について~
(1)ご質問および回答の結論

>⑧少人数私募債の勧誘人数制限49名について、ファイナンスAとB合わせて49名でし
>ょうか?
>本件の場合は利回りは同じものの償還期限もプロジェクトも異なるため、別種の調達と
>してAとBそれぞれ49名勧誘できるのではないかと考えております。

 ファイナンスA・Bについて、それぞれが49名の勧誘が可能です。

(2)回答の理由

 少人数私募においては、49名以下の者を相手方として取得勧誘を行うことが要件の1つとなっています(金融商品取引法2条3項2号ハ、金融商品取引法施行令1条の7第1号)。
 そして、この49人以下という数字は、6か月以内に、「同一種類」の社債を発行した場合には、その人数は通算されるものとされています(金融商品取引法施行令1条の6)。「同一種類」というのは、社債に関して、「償還期限」及び「利率」が共通していることが必要とされており(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令10条の2第1項)、償還期限または利率のどちらかが異なっていれば、「同一種類」にはあたりません。
 今回は、償還期限が異なるとのことですので、仮にファイナンスAとBが6か月以内に行われたとしても、その人数は通算されず、それぞれで49人以下であればよいことになります。

 よろしくお願い申し上げます。