不動産 民法 借地借家法

成年後見人との不動産売買

≪質問≫

顧問先の会社が、駐車場用に近隣地を購入しようとしております。

土地の所有者が痴呆症になっており、現在その息子が成年後見人の手続きをしております。

このため、売買ができない状況ですが、会社としては、駐車場として早々に利用したいため、手付金を支払い、自由に利用できるようにしたいと思っております。

条件について、息子とは合意できております。

この場合、売買契約を交わすにあたり、加えておくべき文言や貰っておくべき書類等は、どのようなものがありますか?

1 ご質問および回答の結論

>土地の所有者が痴呆症になっており、現在その息子が成年後見人の手続きをしております。
>このため、売買ができない状況ですが、会社としては、駐車場として早々に利用したいため、手付金を
>支払い、自由に利用できるようにしたいと思っております。
>条件について、息子とは合意できております。
>この場合、売買契約を交わすにあたり、加えておくべき文言や貰っておくべき書類等は、どのようなも
>のがありますか?

※成年後見人選任の手続はまだ完了していないという前提でご回答いたします。

 先方の成年後見人選任の手続の点も考慮し、
現状で不動産の売買というインパクトのある取引をするのは控えられた方がよいと考えます。

 どうしても早急に土地を駐車場として利用したいということであれば、もちろんリスクは残りますが、一旦、より金額的にインパクトの小さい賃貸借契約(または使用貸借)を締結して利用しておいて、成年後見人が選任された後に、正式に売買契約をするのがよいと考えられます。その際の契約書の注意点は下記をご覧ください。

 なお、成年後見人選任の手続は特に問題がある事案でなければそれほど時間のかかるものではない点は、下記をご参照ください。

2 回答の理由

(1)売買契約の可否
ア 本人の意思能力の有無

 現状で、息子さんは成年後見人に選任されていませんので、息子さんが法定代理人として契約することはできず、ご本人と契約することになります。
 契約をする場合、ご本人に意思能力(自分の行為の結果を判断することができる(契約の意味を理解できる))が必要になりますが、認知症で成年後見人の手続を進められているという状況だと、意思能力がない可能性が高いです。意思能力がない場合、契約が無効になってしまいます。
 売買の場合、無効になってしまった場合の金銭的リスクが大きいため、ご本人と売買契約をするのは、控えられた方がよいと考えます。
 なお、息子さんが、ご本人から代理の委任を受けて息子さんと契約される場合も、代理の委任をするために本人の意思能力が必要になります。やはり意思能力がない場合には、息子さんが代理して行った売買契約は、無効になります。

イ 現状で売買をした場合のその他のリスク

 今後、息子さんが成年後見人に選任されるために、裁判所において、許可の手続きが必要になります。本人の意思能力のない状態で、勝手に息子さんが不動産を売却した場合、裁判所から、息子の成年後見人の適格性が疑われ、成年後見人になれない可能性があります。
 そうすると、息子との間で取り決めた売買の条件等も含めてふりだしに戻ってしまうおそれがあるので注意が必要です。

 その意味でも、現時点で、売買契約を行うことはリスクがあると考えます。

ウ 成年後見人の選任までの時間

 裁判所に成年後見人の申立手続を行ってから、手続が終了するまでは、特に問題がないケースだと通常1か月程度です。それほど長い期間ではないので、息子さんがすでに申立手続を行っているということであれば、手続が終了するまで待ってもよいかもしれません。

エ 成年後見人が選任された場合の売買の可否

 成年後見人が選任されれば、本人の法定代理人として成年後見人が契約をすることが可能になりますが、居住用の不動産(建物およびその敷地)の売却には、裁判所の許可が必要とされています。今回は、駐車場に利用するとのことで、更地で居住用の不動産ではないと思われますので、裁判所の許可は不要になるものと考えられます。
 ただ、その場合でも、土地の売却は日常の財産管理行為ではないので、実務上、裁判所への報告および確認が必要とされています。売買の価格(時価に比べて相当安いなど)などによっては、裁判所から、事実上のストップがかかることもなくはありません。この辺りは、各裁判所の事実上の運用になりますので、ここでは明確なことが言えず、すみません。

 これを避けたいということであれば、成年後見人の申立ての時点において、売却の予定があることを伝え、それを前提に成年後見人の選任をしてもらうというのも一案かと思います。そうすれば、成年後見人の選任は不動産の売却を前提としてなされますので、選任された後に売却ができないということはなくなると考えられます。なお、その場合には、成年後見人には、弁護士などの専門職が選任される可能性が高いです。
 この辺りは、相手方の意向次第ですので、ご相談の上進めていただければと存じます。

(2)賃貸借契約の締結(暫定的な措置)

ア 賃貸借契約の締結

 現状でどうしても早急に土地を駐車場として利用したいということであれば、暫定的に、本人との間で賃貸借契約をしておくということもありかと思います。賃貸借であれば、万が一、後に契約が無効だと言われた場合でも、それほど高額ではないのでこちらにとっての金銭的なリスクは、売買する場合に比べ低くなります。

 また、不動産を完全に処分してしまう売買に比べ、賃貸借であれば、財産自体を処分するものではないので、息子さんが成年後見人としての適格を疑われるというリスクも低くなります。

 ですので、現状でどうしても、土地を利用したいということであれば、暫定的に賃貸借契約としておいて、成年後見人が選任された後に、成年後見人との間で売買契約をするのがよいと考えます。

イ 賃貸借契約に関する記載

 土地の使用目的として駐車場として賃貸することを明記しておいてください。建物の建築のための土地の賃貸借だと、借地借家法の適用があり、契約期間を最低でも30年以上としなければなりません。
 駐車場としての賃貸借であれば、期間は、20年以下の範囲で、自由に定めることができます。契約期間の下限は特にありませんので、1ヶ月間などの短期での契約もできます。
 契約期間は少し長めに6か月間ぐらいにしておいて、成年後見人が選任されたら賃貸借契約を合意解除し、正式に売買契約をするという流れでよいかと思います。

 よろしくお願い申し上げます。